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全国を戦うクラブはないけれど、恐竜なら日本一!〜フットボールの白地図【第18回】福井県

<福井県>
・総面積
 約4190平方km
・総人口 約76万人
・都道府県庁所在地 福井市
・隣接する都道府県 石川県、岐阜県、滋賀県、京都府
・主なサッカークラブ 福井ユナイテッドFC‎、坂井フェニックスSC
・主な出身サッカー選手 橋本早十、梅井大輝、有町紗央里

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「47都道府県のフットボールのある風景」の写真集(タイトル未定)のエスキース版として始まった当プロジェクト。前回は、ふたつの政令指定都市を持つ福岡県を取り上げた。今回は「福」つながりで、福井県にフォーカスする。福井出身の友人は「福岡県とか福島県とかと、よく間違えられるんだよね」と自嘲気味にぼやいていた。福井県が地味であることは、県民自身も認めるところであろう。

 福井県が目立ちにくいのは、北陸なのか中部なのか関西なのか、その区分けが難しいのも一因だろう。サッカーの区分けでは「北信越」に所属するが、ワールドカップが開催された新潟県や、2つのJクラブがある長野県と比べると、やっぱり地味な印象が拭えない。そもそも福井県にはJクラブはなく、全国リーグを戦うJFLクラブもない。北信越の中で唯一、取り残された感が否めない県でもある。

 では、福井県には「フットボールのある風景」はないのかと問われれば、決してそんなことはない。県内には、将来のJリーグ入りを目指すクラブが存在し、地域に根ざした歩みを続けている。そして福井には、他の都道府県には望むべくもない魅力に溢れていたりもする。一見すると地味ながら、訪れてみると意外な魅力に溢れている福井県。さっそく、ご案内することにしよう。

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 初めて福井を訪れたのは、全社(全国社会人サッカー選手権大会)が行われた2017年。取材で訪れた、テクノポート福井スタジアムと三国運動公園は、いずれも福井駅から遠かったので、えちぜん鉄道三国芦原線に乗り換えて、あわら市の温泉宿に泊まることとなった。地方取材での宿探しは、ついアクセスの良さを優先しがちになるが、福井の場合は温泉とセットで考えたほうが断然楽しい。

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 福井県で必ず目にするのが恐竜。JR福井駅前では、実物大のフクイティタンやフクイサウルス、そしてフクイラプトルが唸り声を挙げながらうごめいている。もっとも、県内の「恐竜どころ」は福井市の隣にある勝山市。これまで5種類の新種の化石が発掘されており、世界三大恐竜博物館のひとつ、福井県立恐竜博物館もある。元恐竜少年としては、絶対に外せない観光スポットだ。

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 恐博は2000年に開館。地上3階、地下1階という大規模な施設で、長いエスカレーターを下っていくと、タイムトンネルをくぐり抜けて中生代に向かっていくような錯覚を覚える。館内には恐竜の全身骨格が44体も展示されており、このうちカマラサウルスやアロサウルスなどの10体は本物の化石。さらに「恐竜ホール」と呼ばれる常設展示室では、実にリアルな恐竜のロボットが出迎えてくれる。

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 福井県のパブリックイメージといえば、越前ガニでも鯖江のメガネフレームでもなく、やはり恐竜。福井は日本一の「恐竜県」であり、恐竜は世界に誇るコンテンツでもある。となれば、福井県からJリーグを目指すクラブも、恐竜をイメージさせるものとなるのは必定。2006年に誕生した、福井県からJリーグ入りを目指すクラブは当初「サウルコス福井」と命名された。

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 しヵし現在、サウルコス福井という名のクラブはない。サウルコスの運営会社が経営破綻したため、新会社が設立されてチームを引き継ぐと、名称を「福井ユナイテッドFC」と改め、クラブカラーやエンブレムも一新された。サウルコス時代、何度となく地域CLの壁に阻まれたこともあってか、サポーターからも特段の異議はなかった。とはいえ個人的には、県の象徴である恐竜のイメージが一掃されてしまったのは、とても残念に思えてならない。

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 福井県は温泉や恐竜だけでなく、日本海を臨む風光明媚なロケーションにも目を向けたい。最も有名な観光スポット、東尋坊に向かう途中にある「おみやげ通り」では、土産物屋や食事処が充実。三国港から直送された、海の幸も存分に味わうことができる。海鮮丼やウニ丼や刺し身、それからサザエやカニや岩牡蠣などの焼き物もお勧め。海沿いには、お洒落なカフェもあった。

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 こちらが、国の天然記念物にも指定されている、東尋坊。今からおよそ1200万年前、火山活動によって生まれた火山岩が、日本海の波で侵食され続けて現在の形になったとされる。観光地でありながら、自殺の名所としても有名。火曜サスペンス劇場の定番ロケ地としても知られ、昭和世代ならば岩崎宏美の『聖母たちのララバイ』が脳内でリフレインすること間違いなし。

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 福井もまた、魅力的な食に事欠かない。越前ガニ、鯖のへしこ、若狭牛、越前おろしそば、そして敦賀ラーメン。高級からB級まで、実に幅広く揃っている。そんな中、お勧めしたいのがソースカツ丼。薄くスライスした豚肉に、パン粉をつけて油で揚げたカツを濃いめのソースをくぐらせ、温かいご飯の上に盛りつける。見た目がそっくりな、新潟のタレカツ丼と食べ比べてみるのも一興だ。

<第19回につづく>

宇都宮徹壱(うつのみや・てついち)
写真家・ノンフィクションライター。
1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年に「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」を追い続ける取材活動を展開中。FIFAワールドカップ取材は98年フランス大会から、全国地域リーグ決勝大会(現地域CL)取材は2005年大会から継続中。
2016年7月より『宇都宮徹壱ウェブマガジン』の配信を開始。
著書多数。『フットボールの犬 欧羅巴1999‐2009』で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』でサッカー本大賞2017を受賞。近著『フットボール風土記 Jクラブが「ある土地」と「ない土地」の物語』。


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