「刑事に関する共助に関する日本国とブラジル連邦共和国との間の条約」についての調査(NHKから国民を守る党浜田聡参議院議員のお手伝い)
今回はブラジルと結ぶ条約についての調査です。正確には「刑事に関する共助に関する日本国とブラジル連邦共和国との間の条約」、所謂「刑事共助条約」と呼ばれるものをこの度、ブラジルと締結します。この刑事共助条約は他国とも結ばれており、これまでに下記の国と締結しております。
国境を越えた犯罪の捜査や追訴についての刑事手続きに関する国際協力の必要性から上記の国と刑事共助条約を締結してきました。今国会で承認が求められているブラジルとの刑事共助条約についてどのようなものか、また、条約締結の意義について調べてまいります。
①刑事共助条約とは
「共助」とは、一般に国家機関の間で民事・刑事の法律上の手続きにおける様々な援助をおこなう事言います。「刑事共助」とは、外国の刑事事件の捜査、訴追等に必要な証拠(証言・供述・物件等)が自国にある場合に、当該外国の要請によって、当該外国の捜査当局に代わってこれらの証拠を取得し、提供するなど、刑事分野での国家間の協力を指します。刑事共助のうち、捜査機関がおこなうものを「捜査共助」、裁判所がおこなうものを「司法共助」と呼ばれています。
日本は平成18(2008)年にアメリカと初めて締結してから上記各国と締結を進めてきました。刑事共助条約を締結していない国や地域に関しては、外交ルートを通じて国際礼譲による捜査共助を要請しています。刑事共助条約を締結していない国や地域との捜査共助は、要請の都度、相互の保証を取り付ける必要があり、さらに外交ルートを原則とするため、手続きに時間がかかり迅速な対応に欠けるという課題がありました。世界的な人的流動が加速する中で刑事共助条約を締結し、刑事共助を義務とすることで刑事共助の一層確実な実施を期すとともに、刑事共助の実施のため手続の効率化・迅速化を図る事ができます。
また、共助を条約上義務付けることによって、その確実性を高めることが期待されるとしています。本条約での主な実施内容は以下になります。
②日伯刑事共助条約で期待されること
ブラジルは中南米の中でも有数の経済大国であり、日本との外交関係樹立は1895年と歴史もあり、日系移民が多い事からもブラジルは相対的に日本との関係が相対的に深い国の一つであります。在留ブラジル人も多く、出入国管理庁の発表した令和5年度6月末での在留ブラジル人の数は21万563人となり、5番目に多い在留外国人となっています。在留外国人の延べ人数は年々増加傾向にあり、令和5年6月末の時点で、日本に在留する外国人はおよそ322万4000人と過去最高となっています。
在留外国人の総検挙件数は年により増減あるものの、大きな変化はありませんが、刑法犯件数は総合的に減少傾向にあるのに対し、特別法犯は総合的には増加傾向にあります。
そのなかで、令和2(2020)年の国籍等別検挙状況で、ブラジルは総計902件の検挙数となっており、全体の5%を占めています。(ベトナムと中国合わせて50%を超えている現状も問題だとは思いますが本件から逸れるため割愛します)
このような現状を鑑みても、ブラジルとの刑事共助条約締結により、犯罪検挙の確実性を向上させるための事務処理の効率化と迅速化に期待したいところであります。
捜査共助件数では警察等からの要請は増加傾向にあることから、在留外国人の増加に伴い、諸外国との連携強化を図るという面からも本条約締結は意義のあるものと判断ができます。
③刑事共助条約の課題点
条約締結にあたって、触れなければいけない点があります。
それは条約の実効性と運用の在り方です。
過去の事例として、平成20(2008)年に発覚した中国製ギョーザ中毒事件が挙げられます。この事件への対応をめぐり、日中の捜査当局に溝が生じました。当初、中国公安部は殺虫剤が中国国内で混入された可能性は低いと発表し、訪中した日本政府調査団の資料請求に対し、中国側から十分な回答が得られなかったことで、双方の不信感が強まった事例があります。この時、刑事共助条約に基づく要請をおこなわなかった事について、第171回国会の参議院外交防衛委員会(平成21(2009)年7月2日)で犬塚直史議員(当時の民主党議員)が以下の質問をしています。
このように、刑事共助条約を結んだ後も両国の足並みが揃わない事案もあり、条約締結後に期待される共助実施の確実性、つまり実効性も外交上限定される可能性があるという事は留意しなければなりません。
前述した中国製の冷凍ギョーザ中毒事件は6年の歳月を経て収束しました。
さらに、刑事共助条約の論点に挙げられるのが本条約でいえば第三条一項になります。
第三条一項は共助拒否に関する条文ですが、前述した日中間で生じた溝と同様に被請求国の解釈によって問題が生じる可能性あります。第三条二項には特例事項、三項には拒否理由の通報について記載されていますが、特に第一項(5)の内容にあるように、両国の国内法の違いから生じる問題についてどのように対応するかは両国間の外交関係が大きく影響するといえるでしょう。
条約というのは国家間の約束であり、国家を規則で縛るものです。刑事共助条約の原則は相互主義に則って締結するものの、二国間の外交関係が影響するのはこれまでの国際関係の歴史を鑑みた際、実効性を担保するものでない事は運営上留意しなければなりません。
また、条約である以上、相手国との関係が悪化した際、刑事共助が困難になった際に、どのような対応をするかその想定もしておかなければならないでしょう。
中国が国家安全維持法が施行された際、欧米中間の関係悪化に際し、刑事共助条約は停止されました。これに伴い捜査が遅れることは容易に想像できます。
相互主義に基づく条約とはいえ実効性は限定的であることは前述しました。越境犯罪に際し、政府は国民の利益を守ることを優先しなければなりません。刑事共助条約による効率性や迅速な共助の実施は期待するところではありますが、その上でブラジルと刑事共助条約を締結する際、日本とブラジルとの外交関係を考慮した上で、日本人が不利益を被ることの無いよう、運用できることを期待します。
④質問するとしたら
・在留ブラジル人の数は5番目に多く、古くは日本からの移民も多い歴史がある。刑事共助条約締結が今日まで締結されなかったのは如何なる理由かお伺いしたい。
・ブラジルとの刑事共助条約を締結するにあたり、日本国内での在留ブラジル人による検挙数をみると刑法犯の数が多く、特別法犯の数が刑法犯に比べて少ない。
警察庁の発表資料だけではどのような犯罪が多かったのか分からなかったため、どのような犯罪が多いのかその内訳を伺いたい。
最後までご拝読ありがとうございました。
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