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夢幻星#1

リリリリリリリリン♪

星野 麦(ほしの むぎ)はスマホのアラームで目を覚ました。

アラーム音は黒電話だ。アラーム音の中でこれが1番目が覚める。

昔見たホラー映画で黒電話の音が怖くなって以来、この音を聞くと敏感に反応してしまう体になってしまった。

俺は眠い目を開け、スマホを手に取りアラーム音を消す。時間を確認すると朝の8時だった。

スマホを充電器から取り外しベッドから起き上がる。今日は日曜日。仕事は休みだ。

仕事に遅刻するのが嫌で、休みの日でも体が怠けないようにアラームをセットして眠るようにしていた。

さて、今日は何をして過ごそうか?

そう考えながら机の上に置いてあった水を一気に飲み干す。窓に近づき、カーテンを開けると眩しい朝日が8畳の狭い部屋へと入ってきた。

雲ひとつない晴天だった。

大きく伸びをした後、シャワーを浴びることにした。


麦の部屋の中には何枚か絵が飾られている。全て麦本人が描いたものだ。

麦は高校生の時美術部に入部していた。理由は単純、ラクそうだったからだ。

麦が通っていた高校は部活に入るのが強制されていた。部活に時間を取られるのが嫌だった麦は運動部を却下。1番ラクそうだった美術部に入部することにしたのだ。

美術部に入部していると言っても完全に幽霊部員。ほぼ毎日部活に行かずに授業が終わると家に直帰していた。

そんな美術部でも文化祭の時期だけは忙しかった。

いやでも作品を一つ作らなければいけないからである。

文化祭の時期だけは学校に残って絵を描かなければいけない。普段はどの部活よりもラクだけれど、文化祭の時期だけは全部活の中で1番忙しかったと思う。

もともと絵に興味なんてなかった麦だが、初めて文化祭のために描いた絵が思わぬ評価をもらった。

「麦くんってすごい絵を描くんだね」

「麦お前、そんなに絵が上手く描けるなら部活なんかサボるなよ。笑」

「もっと真面目に部活したらもっとすごい絵が描けるようになるよ」

それまで絵に全く興味がなかった麦だが、その時初めて絵を描くことを楽しいと思えた。というより他人から評価をされることの嬉しさを知った。

25歳になった今でも暇な時は絵を描いている。

高校を卒業するときにそっちの道を薦められたが、絵を描くことが別段好きになっていたのではなく、自分の中の世界観を表現することが好きなんだということに気づいた。

別に絵じゃなくても良かった。自分の頭の中の世界観が表現できる場所であればなんでも良かった。


シャワーを浴び終えた麦はハンガーにかけてあった黒いシャツを羽織り、スマホを手にした。

25歳になった麦は動画を作っている。動画を撮る機材はこのスマホひとつだ。

絵を描くことで自分の頭の中の世界観を表現していた高校時代から、いつしか映像で自分の頭の中の世界観を表現するようになっていた。

スマホをズボンのポケットにしまうと洗面台へと向かい、歯磨きをしてからリュックを背負い部屋を出た。

#2に続く

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