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ファクトチェックという新たな「ポリコレ」

総選挙が終わった。「政治とメディア」という視点でみたとき、テレビ政治の使い手であった小池百合子氏が失速したことで、本質的な政治論議に1㍉でも近づいたのではという期待もあるが、もう一つ、この衆院選に際してメディア側の取り組みで目を引いたのは、大手のネットメディアによるファクトチェックの取り組みだった。

政治家の発言内容などを検証するファクトチェックへの取り組みは、バラク・オバマが初の黒人大統領となった2008年の大統領選を機にアメリカで急速に発展した。

いわずもがな、世界最大の「メディア選挙」であるアメリカ大統領選があり、テレビ討論会などで各候補者が激しく応酬する。もちろん、発言内容の真偽判定だけなら既存メディアでも可能だが、テレビ討論会の最中にリアルタイムに検証してその結果を出すなど、検証作業を専門的に行い、速報性を持っているのが特徴といえるだろう。テレビという既存メディアから独立し、有権者とコミュニケーションできるようになったのは、当然のことながらソーシャルメディアの発達と普及があったからで、ファクトチェックは、まさにネット時代の申し子ともいえる。

海外の新興メディア事情に詳しい、現代ビジネス編集部の佐藤慶一氏によれば、世界で100以上の専門サイトが活躍しており、アメリカでは大学やNPOなどの非営利機関が運営するサイトによる取り組みが注目されている。

テレビを中心としたメディア選挙は、とかくイメージ先行になる危険がある。古典的な事例として引き合いに出されるのが1960年、大統領選でテレビ討論会が初めて行われたときのケネディVSニクソンの先例だ。若い“イケメン”候補のケネディが、地味なオジさん候補のニクソンが渋い表情を制したというテレビ選挙の草分けだった。候補者が何を語ったかの政策的な中身より、どう(かっこよく)語ったという外見が重視されたわけだが、テレビ選挙時代になり、アメリカでの選挙マーケティングは急速に進化を遂げたともいえる。しかしイメージ先行になる余り、政策や理念よりスピーチやプレゼンテーションの巧拙で選挙戦のすう勢を決めていると言えなくもない状況になる。そうした政治側のマーケティングに対抗して、メディアや有権者側がある種の防備策として、ファクトチェックを有効に使うことには意義があるといえる。

▲「Factcheck.org」ではトランプ大統領のチェックが精力的だ

そして、ネット時代になると、特定候補に有利・不利になるような情報戦の仕掛けも行われる。フェイクニュースという言葉が流行った2016年のアメリカ大統領選では、ロシアの情報機関による暗躍があったことをNSA(国家安全保障局)の調べで明らかになっている。これまでの報道によると、フェイスブックに偽アカウントを取得し、虚偽広告を流すなどの工作をしていた模様だ。親ロシア派のトランプ当選のため、ヒラリー中傷の記事が出回った裏にロシアの影がちらついている。

日本の選挙戦では、いまのところ外国勢力による介入が露見したことはないものの、政党・候補者陣営間で事実に反する情報を流し、流麗なプレゼンテーション技術で世の中に流布させるリスクはある。ネットを使った選挙活動が解禁されて4年、SNS上での真偽が判別しないネガティブキャンペーンも横行しているが、日本では米国に比べ、メディア側のファクトチェックが十分とはいえなかった。

そんな中、衆院解散が決まった9月下旬のこと。私がアゴラ編集長の業務で使っているメールアドレスに一通のメールが送られてきた。

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