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「まいった!」魂が水平線に降参する船旅

「船に乗りたいって言ってたよね。」妻の言葉から夏休みの行程は決まっていった。フェリーに乗ろうとのご提案だ。海の上を移動!?しかも、はじめての船旅は22時間になるだと!?船の旅、最高じゃないか。

出港は23:45

出発の日はすぐに来た。台風接近の影響で小雨が降る8月、蒸し暑い23:00過ぎに乗船手続きを済ませいよいよ船へ乗り込む。誘導員に従い200メートルを超える船体に車が吸い込まれていく様は、非日常すぎてロボットアニメを見ている錯覚に陥った。乗客フロアへ移動すると、ロビーは吹き抜けの3階構造。肩にタオルを引っ掛けた歴戦の先輩方が足早に大浴場へ向かう姿が見え、手慣れた行動に感心し"フェリーヤクザ先輩"などとワケの分からない言葉が頭をよぎる。エンジンの振動と船体の揺れを心地よく感じ23:45出港。photoshopでも表現できない夜中の漆黒を窓から楽しんだ。


ロビーは吹き抜けの3階構造

翌朝、船体の揺れが大きくなっていた。そうか、船に乗っているのを改めて実感しながら酔い止めを水で流し込んだ。ロビーへ向かい、窓からディープブルーの海面が見えた時、思わず外のデッキへ向かった。通路の壁に手を付くほど揺れる中、ロビー吹き抜けの右アーチ状の階段を登り、船の進行方向から逆向きのデッキへ通じる扉が見える。少し重たい扉を開けると外からの風により、空調で管理された室内をかき混ぜる湿気た重い空気が遠慮なく押し寄せ、肌を不愉快にじっとりさせた。デッキの広さはテニスコート2面分以上か。青空が覗き、紫外線が眼球に痛いほど入ってくる曇り空。足を踏み出し、髪を吹きすさぶ風でぐちゃぐちゃにされながら、息を呑んだ。


「水平線だ」


視界いっぱいの水平線

デッキのフェンスに歩み寄り両手をついて下を覗き込む。船からの水飛沫と海面は、メレンゲとステンドグラスのような質感でぶつかり合っている。目線を前方へやると台風の影響で荒れている海面をトビウオが滑空し、フェリーと同じ横幅のウネリが船体を上下左右に揺らしている。そして、荒れている世界の先に視界いっぱいの水平線が、ただただ静かにそこにあった。


圧倒的な存在を前にしたとき、人は重ねてきた経験により受け止め方が変わるのだろう。気づけば四半世紀サーフィンをつづけている。海上で生まれたさざ波は互いに吸収し合いながら進み、浅瀬でウネリの形を保てなくなった時に波となる。その一本に乗るとき、二度とない唯一のエネルギーから文字通り自然の力を感じる。同時に様々な喜怒哀楽を学べるのだ。海へ恩返し出来る事はないかと、思い悩む毎日である。しかし、ごまかしのない存在に直面し、そんな想いは二酸化炭素を音も無く吸収するように海原へ簡単に吸い込まれた気がした。知らぬ間に武装したエゴを見透かされたと感じ「まいった!もうかっこつけません!」と魂が降参したのだ。

船から見る水平線は日常から私たちを引き離し、謙虚な自分を思い出させてくれる。

船の旅、 最高じゃないか。

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