イノベーション2

SC100人会レポ-ト 第2部「イノベーション創出×科学コミュニケーション」

5月11日(土)に開催された「100人の科学コミュニケータ―で"乾杯"大交流会」のパネルディスカッションの様子をレポート。第2部は、社会的なイノベーションを生み出しながら活躍しているビジネスパーソンたちが、科学技術の重要性とビジネスの可能性、さらには科学コミュニケーターへの期待を語りました。

パネリスト
鷺山昌多(Beyond Next Ventures株式会社 マネージャー)
新村 和久(EY/科学技術・学術政策研究所 客員研究員)
設樂 宗一朗(アーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社)
齊藤 想聖(株式会社リバネス 人材開発事業部)
ファシリテーター
田中 和哉(東京大学・政策研究大学院大学・scheme verge inc. など)

まずはユニークな経歴ばかりの自己紹介から。

田中:自己紹介すると、肩書が14個くらいあります。全部現職です。人工知能を中心に産学官連携に興味を持って活動していて、それぞれに関わってみたら、こうなりました。スタートアップを中心としたコミュニティづくりや、長期的な政策づくりに関わっています。

鷺山:私の専門はキャリア。つまり、文系です。大学発ベンチャーが何故うまくいかないのかを研究したりして、人や組織を科学しています。

新村:産学官や、監査法人のコンサルに関わり、最近の仕事は、大学発ベンチャーのコミュニティの可能性を探っています。きょう興味があるのは、研究の産業化、実用化、制度施策、社会的インパクトなどです。

斎藤:研究開発型のベンチャーで、サイエンスブリッジコミュニケーターという役職があって、いろんな大企業の組織の中から新しい取り組みを作る仕事をしています。具体的にやっているのは、研究、プロトタイプ、プロデュースの3つで、市場をつくってプロダクトを世に出すところまでやっています。

設楽:イノベーション創出を得意とする外資系戦略コンサルティングファームで経営コンサルタントとして企業の新規事業創出等に関わっています。

新しいことをやったらイノベーション!

自己紹介の流れの中で、設楽さんが立てた「そもそもイノベーションとは?」という問いから、本格的な議論に突入します。

設楽:議論したいことが2つあります。ひとつは、「技術」が「提供価値」になって、さらに「市場」になる流れに、科学コミュニケーションがどう関わるのか。もうひとつは、イノベーションは、どんな取り組みや行動、問題意識から生まれるのか。「そもそもイノベーションって何?」という問いです。

田中:「イノベーションってなんですか?」という問いは良いですね。一般的な定義とかもありますが、それとは別に、みんな、それぞれやってることとかあるべき考え方とか、想いがあるんじゃないかな。

設楽:イノベーションは、起こそうと思っているだけでは起きない。未来がどうなるのかを知って、「違和感を感じることはなんですか?」というところから問いを立てる、というステップがあると思うんです。

斎藤:ぼくは、「未来の当たり前をつくること」だと思っています。今の課題は10年先に解決されている可能性が高いし、その結果がイノベーション。となると、いまの課題を考えることが大切じゃないですかね。

新村:日本は、イノベーションを高尚なもの考え過ぎなんですよ。以前、国際的なアンケートをやった時に、日本人はイノベーションをしている実感がとても低かった。自社にないことをやったらイノベーション、くらいの感覚でいいのに。

田中:「ニーハオ」言えたら「中国語喋れます」って言って良いのと一緒ですよね。

新村:そうそう。なのに高尚にとらえすぎて、勝手に自信を喪失してる。日本の中小企業のほぼすべてがそう。キラキラしたのもあるけど、地道なイノベーションもたくさんあるんだから、勝手にネガティブにならなくて良いと思うんです。

阻害要因を超えて、イノベーションの種は増えつつある

イノベーションをシンプルにとらえ直したところで、その阻害要因に話が進みます。

田中:だとして、イノベーションの阻害要因は何だろう?

設楽:成功体験が阻害要因になっているのかも。特に既存事業が安定して回っている大企業では、疑問が生まれにくい。だから、大企業が研究の中で蓄積してきたイノベーションの種になるような技術シーズが活かしきれていない、というのもあると思います。

斎藤:高度成長期という時代を超えてきたため、選択と集中、生産性を高めるための期間が非常に長くなってしまいました。そのため、新しいコトを生み出すストレッチが足らなくなっています。

鷺山:既得権益とぶつかるところでイノベーションが止まって、アカデミアにそこを突き抜ける力が足りないと思っているのだけど、どうだろう?

田中:まさに『イノベーションのジレンマ』ですよね。会場からも「大企業で研究していますが、短期での実現性が強く求められ、長期的なイノベーション創出が難しい」というコメントが来ています。今の日本の社会は長期的な夢に投資ができないんですよね。打開するにはスタートアップが重要で、そういう人たちがここに集まっているんだと思います。

斎藤:オープンイノベーションが広まって、企業からもイノベーションを起こそうという研究者が、100人中1人くらいは出てきています。事業計画を書くのは慣れていないので、ピヨピヨの状態。でも、やりたいという純粋な思いがあるから、中長期的な可能性があれば、上層部に「潰さないでください」と言うようにしています。そういうのが、大企業の中でもポツポツ生まれ始めている。

田中:確率論的に考えても、質より数が大事な部分もある、と。そうなると、お金いるよね、という話になりますが…。

鷺山:どんな研究が世界を変えて、お金になるのか。それが投資家に伝わるか、という話も重要。特に相手は金融側の人だから。そういった投資家を動かすトレンドをつくっているのは保守的なマスコミだったりする。それで良いのでしょうか?

テクノロジーの価値や未来像を、投資家に語れ!

オープンイノベーションの種が芽生えつつある中で、大きな課題となるのが、テクノロジーとお金を結びつけてイノベーションにつなげること。ここに、科学コミュニケーターへの熱い期待が寄せられます

鷺山:科学コミュニケーターのみなさんに科学のエバンジェリストとして、「この研究はこういう価値を生み出します」「将来お金になりますぜ」って通訳してもらえれば、世の中の方向性をつくっていけるし、投資家から研究にもお金が回る、って話じゃないですか。きょうは科学コミュニケーターのみなさんが集まる会なので、これを言いたかった。

田中:以前、高専生のディープラーニングのビジネスコンテストのアイデアの発表で、見ていた投資家が「この市場は、最大いくらか?」と聞いているのを見たことがあります。高専生相手に、市場を聞くんですよ。それだけ良い発表だったということですが、投資家は、技術の価値を見極めるのが難しい場合も多く、ビジネスとして重要なマーケットのサイズを見ようとするんです。だから、科学コミュニケーターは投資家に、技術の価値を教えてあげてほしい。「このテクノロジーで、社会はこうなるし、ビジネスとしてはこんな可能性がある」と。

鷺山:科学コミュニケーターが、こういう発言をする機会はまだ少ない。でもたとえば、遺伝子組み換え作物(GMO)で有名なモンサント社のロバート(※)は、セカンドライフとして科学コミュニケーターという肩書で、GMOの良し悪しを伝えながら、世の中にその価値を問う活動をしています。みなさんも、情報や判断軸を提供して、価値を問うて、議論するようなこと、やったら良いと思うんです。

※モンサントの元CTO Dr. Robert (Robb) Fraley

政治家やメディアとつながって、発信力を高めろ!

投資家にテクノロジーの価値を伝えるという役割は、どのように担っていけばよいのでしょう? 考え方や、具体的な方法論に話が及んでいきます。

田中:科学コミュニケーターは現状、「ビジネス」という言葉への拒否反応があるとも、正直感じています。逆に言えば、科学コミュニケーションをイノベーションにつなげる可能性も、この辺にあるんじゃないですかね。

設楽:テクノロジーと投資をつなげる為には、一つ基本的な考え方があると思います。「MFTツリー」という考え方なので検索してみてください。Mはマーケットで市場や消費者、Fはファンクションで製品の機能、つまり提供価値、Tはテクノロジーで製品の技術のことです。「Mのマーケットと、Tのテクノロジーを結びつけ為には、Fのファンクションを理解する」という考え方が重要な考え方になります。繰り返しになりますが、Fのファンクションは消費者が感じる技術の機能や提供価値、嬉しさです。この構図を咀嚼してコミュニケーションできれば、マーケット=投資家とテクノロジーが結びくと思うんですよ。

鷺山:科学コミュニケーターは、真面目で、科学分かるし、伝える力がある。その価値は、1対1のコミュニケーションだけじゃなくて、より多くの人に影響を与えることでもっと活きるはずです。自分たちの発信力を高めるために、政治家やメディアとつながって、彼らに語らせたり、そういう立ち位置を掴んでいかなくちゃいけないんじゃないかというのが、ぼくの気持ちです。

斎藤:会場から「長期的な夢は短期的な夢に落とし込んで、騙し騙し語れたら良い」とコメントが来ていて、これは本質だな、と思いました。大きなビジョンがあったら、細かいことは良い感じに騙しながら進めてもいいと思うんです。大事なのは、なんのために科学コミュニケーションをやるのか、自分で落とし込めているか。手段と目的を履き違えなければ、イノベーションは進んでいくはず。

田中:大きくて難しい未来の夢を、目の前の面白いことに変える。科学コミュニケーターが普段やっていることじゃないですか。お金のことは「分かりません」でも良いと思います。ビジネスを分かる人がいっぱいいるんだから、連れてきて一緒にやれば良い。やりたいことがあって、自分だけじゃできないなら、他者と協業すれば良いんです。

鷺山:そういう意味でも、ベンチャー界隈にも遊びに来てほしい。もっと違う、お金や権力、影響力を持っている人たちとつながることも含めて、コミュニケーターじゃないですかね。

社会で実際にイノベーションに関わっている登壇者たちから語られたのは、現状の科学コミュニケーターへのちょっとした物足りなさと、社会的な影響力を増しながら価値を発揮していくことへの大きな期待、さらにはそのヒントでした。イベント主催者の樋江井さんが冒頭で「多くの方にまだ馴染みのない業界かもしれませんが、科学コミュニケーターの近い未来の仕事は、ここにあると思っています」と宣言したとおり、科学コミュニケーターのこれからについて示唆に富んだ内容となりました。

文章:谷明洋

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100人の科学コミュニケータ―で乾杯

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