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小説・エッセイを中心に書いている31歳です。いつか、朝井リョウかAマッソ加納かR-指定…

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小説・エッセイを中心に書いている31歳です。いつか、朝井リョウかAマッソ加納かR-指定に出会う日まで。お仕事依頼、お問合せ→torutoru0103@gmail.com

マガジン

  • 短編小説

    短い小説のことです。

  • あの頃、ゆとりだった僕へ。

    とりとめもないエッセイ集です。「事実は小説よりも奇なり」の言葉どおり、フィクションより面白いエッセイになれば。がんばれ、自分。

  • 全店舗、舞台。

    僕の大好きな飲食店を舞台にした小説です。実在する店舗の架空のお話です。

  • こいつ、おれのこと好きなんかな

    主人公の大学生は女の子に話し掛けられた全ての言葉を勘違いし、オチは全て「こいつ、おれのこと好きなんかな」で終わります。結末は全部同じなので、話し掛けられる台詞と、過程を楽しんでください。

  • 中央線各駅を巡る夜

    僕の愛すべき、中央線沿いの駅にまつわるエッセイです。各駅停車で、1つ次の駅に着くまでに読めるくらいの長さになっているはずです。

最近の記事

  • 固定された記事

毛布にくるまれた僕は、「ゆたかさ」の四文字を通過する。

「ゆたかさ」について、あたたかい毛布にくるまれながら考えてみた。 年をとるにつれて、自分の中の「ゆたかさ」の定義も変化しているに違いない。 ちっちゃなスマホの画面が灯る部屋の隅で、長かったような短かったような、28年間のタイムトンネルを、ゆっくりと歩く。 小学生の頃ーー。 毎日、必ずご飯が用意されていた。 トーストの匂いがすれば、トーストが出てきた。 スイートポテトの匂いがすれば、スイートポテトが出てきた。 カレーの匂いがすれば、カレーが出てきた。 当たり前のことだが

    • なんとなく

      なんとなく、今日だと思った。 ずっと気になっていたあの子。 ふたりきりで飲みに行って、美味しいお好み焼きを食べた。 いっぱい食べて、「いっぱい食べたね」なんて笑い合った。 今日はおれが払うからと、元カノから貰った財布を開ける。 あのときの気持ちをもう二度と味わいたくないけれど、それでも、あのときの気持ちがなくなるんじゃないかと、淡い期待をした。 財布から取り出した五千札と百円玉三枚が、なんとなく、背中を押した。 お腹に溜まったカロリーとやらを消化しようと、一駅分歩いて

      • シネマレビューと失踪 #1

        叶が失踪した。 「メンヘラでごめんね」の丸っこい文字がもの寂しげに謝る。 遺書のような手紙を眺めながら、それにしても丸っこい字だなあ、とまるで緊張感のない感想を思い浮かべる。三枚ほどの便箋には謝罪と懺悔に加え、僕へのダメ出しの言葉が並んでいる。 自分が全部悪かったこと、あなたも少しは悪かったこと、それ以上に自分が悪かったこと、もう探さないでほしいということ、やっぱりあなたも同じくらい悪かったこと……が長々と書き連ねられている。 全てを読み終えた僕は短編小説さながらの読後

        • 未来飯店

          ここに来れば、いつだって思い出せる。 東京で一人暮らしを始めた頃に近所にあった中華料理屋『未来飯店』。 カールおじさんみたいな店主とカタコトの中国人女性がぶっきらぼうに接客してくれる。 古びれた店内には長い間変わっていないであろうメニューが、そこかしこに画鋲で止められている。 天津麺、五目焼きそば、麻婆丼、酸辣湯麺、もやしそば、中華丼、餃子3個セット、ビール。 どこにでもあるような名前が、どこにもない文字の綺麗さで掲げられている。漢字とひらがなの羅列はどこか安心するし、

        • 固定された記事

        毛布にくるまれた僕は、「ゆたかさ」の四文字を通過する。

        マガジン

        • 短編小説
          29本
        • あの頃、ゆとりだった僕へ。
          49本
        • 全店舗、舞台。
          2本
        • こいつ、おれのこと好きなんかな
          21本
        • 中央線各駅を巡る夜
          1本
        • 検索窓の世界
          10本

        記事

          【告知】『映らない暮らし』文芸誌sugomoriで公開されました

          この度、ご縁がありまして文芸誌「sugimori」さんに小説『映らない暮らし』を掲載させて頂きました。 「快適な暮らし」をテーマに、エッセイのような小説のような、1人の何てことのない男の物語です。 何事も良すぎるに越したことはない。けれど、良すぎなくてもいい、ということもある。 『快適な暮らし』というキャッチコピーをさまざまな広告媒体で目にする。 街を歩く中で、電車の中で、テレビ画面の中で。それを目にする頻度が多いということは、そのキャッチコピーを人々が求めているという

          【告知】『映らない暮らし』文芸誌sugomoriで公開されました

          前夜

          「何年も歳月をかけて想いを込めたのに、一瞬で散ってしまうものってなあんだ?」 私は夏の帰り道にはすこしだけ不釣り合いな声で空気を揺らした。 夏の夜は静かな方が風流だという、私の勝手な思い込みでもある。 キョトンとした斗真の顔を見ると、やっぱり空気を読めてなかったな、と反省する。 「急にどしたんだよ」 「なぞなぞじゃん、なぞなぞ」 なぞなぞ、なのか、クイズ、なのかはわからない。でも小学校の頃から幼馴染の斗真とは、よく帰り道にこうやってなぞなぞを出し合っていたのを覚えている

          To Be Continuedな日々

          マンガは次の巻につづく。 アニメは次のシーズンにつづく。 ドラマは次の話につづく。 今作で終わると思っていた映画も、次作を仄めかす終わり方だった小説も、企画がおさまらなかったバラエティ番組も、YouTubeの動画も、明日に、次週に、次作に、つづく。 もう『3』までやったから、とか。 前作を超えられないだろうから、とか。 有終の美を飾ったから、とか。 そんな妥協や、弱腰や、本音を存分に含みながらも、なんだかんだで次につづく。 それはつづくことで何かが生まれると、誰かが信じ

          To Be Continuedな日々

          一瞬先の永遠

          考える。 何億年前の人が生み出したモノ。 何億年先の人が生み出すモノ。 それは、今の僕たちに必要なモノなのだろうか。大切なモノなのだろうか。生きるために必要なモノは至極少ない。それ以外のモノで溢れかえる世界。 大掃除をして綺麗にしたら、残るモノは何だろう。 これは、地球環境を訴えるメッセージではない。未来の子ども達に向けた広告でもない。 ありふれた日常の一コマで、何がわかるだろう。 「そろそろ起きてよ、もう九時半だよ。」 カーテンから漏れる光で目覚める朝。 「い

          一瞬先の永遠

          サマー・ショート・フィルム

          たしか、あれは遠い夏の記憶。 遠いようで、近い。短いようで、長い。 小さかったけれど、大きいふりをした、そんな夏の日。 僕はスライド式携帯を使って1本の映画を撮った。夏休みのある日。誰もいない校庭。陽射し刺す午後。 登場人物は幼馴染の芽衣、たった1人。 小学校の校舎はいつもより小さく、いつもより寂しそうに見えた。 生徒が1人もいないだけで、声が聞こえてこないだけで、それは空っぽのようだった。 空と太陽はそんな無機質な建物を照らし、入道雲はそれを防ごうとする。 見飽きた夏

          サマー・ショート・フィルム

          【告知】『よくある質問と君だけの正解』電子書籍出版しました

          ご無沙汰しております。 突然ですが、電子書籍での3冊目の小説が出版となりました。 簡単に告知させてください。 タイトルは、 『よくある質問と君だけの正解』 「明日地球が滅びるとしたら何がしたい?」 「もし、宝くじで1億円当たったら何がしたい?」 「無人島に1つだけ物を持っていけるとしたら何を持って行く?」 尚人はよく耳にする定番の質問にどう答えるか頭を悩ませ、恋人の結友はそんな尚人のくだらない性格に嫌気が差していた。 どこにでもいるカップルの、どこかにありそうで、どこ

          【告知】『よくある質問と君だけの正解』電子書籍出版しました

          天気をただ褒めるだけのエッセイ

          世の中から「天気」が消滅したら、会話の3割くらいは消えてなくなってしまうだろう。 というか、会話の入り口はほぼほぼ100%天気なので、本当に天気はすごい。 家を出るときも、家から帰ったときも天気の話をした。毎日会う同僚とも、久しぶりに会う友達とも天気の話をした。ドッジボールをした日も、受験当日も天気の話をした。フジロックでも、四十九日でも、千歳烏山でも、プーケットでも天気の話をした。 春夏秋冬、古今東西、老若男女、天気の話をした。テレビを点ければ明日の天気を伝えてくれるし

          天気をただ褒めるだけのエッセイ

          いつかのトークルーム

          「いつのまにか、2人になっちゃったね」 見覚えのない誰かのアイコンが、僕に向けて話し掛けてきた。僕はスマホのロックを解除してその部屋を開く。 そこは「○○が退会しました」の文字が虚しく羅列され、時間だけがただ過ぎ去っていた。 最後の投稿から10年。元々は20人もいたトークルームも、気付いたら僕と彼女の2人だけになっていたようだ。 大学サークルの仲良しグループでつくられたその部屋を僕は遡る。 卒業式で最後の記念撮影をした。 卒業旅行へトルコのイスタンブールに行った。 魚

          いつかのトークルーム

          電波泥棒

          「ごめんなさい、Wi-Fi盗んでました」 春の陽射しが窓をまっすぐに突き刺して、彼を直撃している。眩しいから目を細めているのか、罪悪感あっての険しい顔つきなのかはわからない。 昼間は自然の灯りを頼りにしているため店内の豆電球は点けておらず、そのせいかうす暗い空間に彼だけが照らされているような構図になる。 そんなスポットライトの真ん中で罪を告白した彼は、そこが法廷であるかのように判決を待っている。 お客さんは誰もおらず、そろそろ増えてくる時間帯かと壁に掛かった時計を見る

          電波泥棒

          万華鏡⇄世の中

          万華鏡を覗くと、不思議な世界が広がる。 万華鏡を回すと、色々な変化が楽しめる。 万華鏡を離すと、日常の風景に戻る。 コドモの頃は万華鏡を覗くのが好きだった。 刻々と模様が変わっていく様子はずっと見ていても飽きなかった。 鏡の世界。色の世界。夢の世界。 それは、無数に咲き誇る花のようだ。 それは、夜空に打ち上がる花火のようだ。 それは、満点に光り輝く星空のようだ。 なんて、こんなポエトリーな比喩が出るわけもない。あの筒の中身を見てどのように表現するかは十人十色だ。きっと、

          万華鏡⇄世の中

          ガールズ・ドント・シャイン

          冬のティッシュ配りほど寂しいものはない。 夜の高円寺駅南口。 私たちにとってのゴールデンタイムは会社帰りのサラリーマンが行き交う夜の9時から12時。 1軒目に安い居酒屋で引っかけて、足をふらつかせながら歩く男達。2軒目はどこへ行こうか、3軒目は楽しもうか。そんな話をしているかはわからないが、上機嫌に前を通り過ぎる男達。 ぶかぶかのスラックスを履いたおじさん、ピッチリしたスキニージーンズを履いたパリピ、色の淡いベージュのチノパンを履いた大学生。 下半身を見ただけで人となりが

          ガールズ・ドント・シャイン

          Hey Siri 「夢は諦めるべき?」

          Siriは何でも知っている。らしい。 明日の天気、チャーハンの作り方、鼻唄まじりの曲名。AIが全てを教えてくれる時代になった。親はいらない。先生もいらない。 ちいさい画面に話し掛けることで、何倍の情報にもなって返ってくる。 その情報に熱はない。ただ淡々と、無機質に、真実だけを伝える。 かつて思い描いた夢はどれだけ鮮明でも、時間が過ぎるにつれて色褪せてゆく。 思い描けない夢はない。 定義がないのだから。ルールがないのだから。 ピカソに憧れた未来でも、ベートーヴェンに憧れた未

          Hey Siri 「夢は諦めるべき?」