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【短編】無礼講ホッピーというか、”Break out Hoppy!”かな。【今日は何の日 : 0715 ホッピーの日】


「お、懐かしい、なんだっけこれ? 『こどもののみもの』だっけ?」

 そんな勘違いが、今日の話の根幹だ。

 事の始まりもまた、些細な勘違い。
 子ども会のイベント用の飲み物の発注を頼まれた町内会の係の人が、この商品を別の何かの飲み物と間違えて注文をかけてしまったらしい。
 もしかしたら、やはりこの職員もこれを『こどもののみもの』と勘違いした可能性も否定できない。
 とにかく、結果として、町内会主催の夏の祭礼会場に、大量のそれが届いてしまったのだった。

 僕も、あまりお酒を飲む人間ではないので、その飲み物に関する知識が全くなかった。
 だから、言い訳になってしまうが、それが少量とはいえアルコールを含んでいることを知らなかったのだ。
 もちろん、今日の祭礼の手伝いのために集まってくれたボランティアの中学生・高校生達も、それを知る由もない。
 そうして、この焦げ茶色の瓶に入った液体の正体に、誰も気付くことのないまま、祭礼の準備が進んでしまったのだった。

 いつまでも、『それ』というような言い方をしていてもまどろっこしいので、キチンとここで、解説を入れるべきだろう。
 ここにある、大量の瓶に入った飲み物は、商品名を『ホッピー(Hoppy)』という麦酒洋清涼飲料水だ。
 主に、焼酎で割って飲まれることが多い、居酒屋では人気の商品なのだそうだ。
 便宜上、清涼飲料水であるとされているが、この飲み物にはアルコールが含有されており、そのアルコール濃度は0.8%なのだという。1%以下のアルコール濃度の場合は『清涼飲料水』として良いらしく、後で調べてこのことを知ったとき、僕はポカリスエットの『無果汁』表記のジレンマを思い出した。
 ちなみに、青いラベルで有名な清涼飲料水『ポカリスエット』は、ラベルに結構大きく『無果汁』と書いているのだが、裏面の原材料名の中にはキチンと『果汁』と表記されているのだ。
 昔、その矛盾が気になって、製品元に問合わせたことがあったのだが、そのときも『果汁は入っておりますが、1%以下の為、ラベルには無果汁と記載しております』と言われたのだった。
 
 話が脇に逸れてしまったので、戻すとしよう。
 とにかく、そんな微量にアルコールを含んでいる清涼飲料水の瓶が、夏の祭礼の学生ボランティアの休憩室に大量に搬入されてしまっていたのだった。
 アルコールに免疫のある、大人ならいざ知らず、基本的には普段アルコールに触れ合うことのない中高生が、このホッピーを誤って飲んでしまった場合、どうなるか……。
 まぁ、大層なアルコール濃度ではないので、大量にがぶ飲みでもしない限りは、酔って酩酊してしまうようなことはないだろうが、何人か酔ってしまう可能性は否定できないだろう。

 そして、炎天下のもと、山車と神輿とともに、町内のアスファルトを歩き倒した学生ボランティアたちが、昼休みを取るために、このホッピーが大量に並べられた休憩室になだれ込み、冒頭へと繋がるというわけである。

「お、懐かしい、なんだっけこれ? 『こどもののみもの』だっけ?」

 見た目のフォルムが、テレビアニメやドラマで見かけるビールの瓶に似ているから、幼い頃の記憶と照合して、そんな勘違いが生じてしまったのは仕方のないことだろう。
 休憩室にやってきた一人の少女が、そんなことを言いながら、その瓶を一つ手に取ると、置いてあった栓抜きで瓶をあけて、腰に手を当て、まるで風呂上がりにフルーツ牛乳でも飲むかのように、豪快に一気に飲み干したのだった。

「ん? なんか知ってる味と違う? ってか苦い?」

 しきりに首を傾げつつも、あまり深いところを気にしない性格なのだろう。
 特に気にすることもなく、空き瓶を用意されたカゴに差して、渡されたお弁当を食べ始める。
 そして、次々にやってくる学生たちは、みな、何の躊躇いもなく、ホッピーをゴクゴクと飲んでいった。
 みな口々に「なんだこれ?」「麦茶の炭酸?」「初めて飲むな」などと言いながらも、暑かったのもあって喉も乾いていたのだろう、次々とホッピーの空き瓶がカゴに増えていくのだった。

 お昼を食べ終わり、特に問題なく休憩室を後にしていく学生ももちろん多くいたが、やはりというか、なんというか、そうなってしまう学生も幾人かいた。

「はれぇ……なんらか、ほわほわしゅりゅ……」

 最初にこの休憩室にあわられた女の子は、顔を赤くして、何やら頭をゆらゆらと揺らしていた。

「あははははっ! なんらか、しらないけろ、たのしーーっ!!」

 他にも、ケタケタ楽しそうに笑っている女の子や、

「はぁ……なんれ、こんらにあついろに、こんなたいへんらしごとをしなきゃならねぇんらかよぉー!!」

 怒っているのか、愚痴のように文句を言って、机に突っ伏す男の子もいた。

 やはり、アルコールに弱い何人かの学生が、それとは知らず飲んでしまったホッピーで、酔ってしまったのだ。
 
 休憩室の光景は、なんというか微笑ましいものではあるものの、彼らがこのあと、祭礼の会場に出て行って、キチンとボランティアの仕事が出来るかどうかは、かなり怪しい。
 こうして、若干カオスになりつつあった休憩室の状況を目の当たりにして、初めて、僕は、この『ホッピー』の存在に気づいたのだった。
 まさに、『時既に遅し』というやつだ。

「これ、『ホッピー』っていう飲み物で、アルコールが入っているじゃないか!?」

 スマホを使って調べて見て、その事実を知った僕は、それぞれ可愛らしい酔っ払いになってしまっている学生達に、事情を説明して、休憩室でもうしばらく(お酒が抜けるまで)休憩をしてもらうことにした。

 延々と笑っている子、突然泣いたり寝てしまう子、怒ってくだを巻く子……
 反応はそれぞれだが、これがいつか、彼らが本当のお酒を飲んでさらけ出す姿なのかと思うと、なんだか可愛く思えてしまった。

「わらひは、おしゃけをのんじゃっらんれしゅかぁ?」
「うん、正確にはお酒じゃないらしいんだけど……ごめんね。こちらの手違いで、アルコールを含んだ飲み物だったみたいで……気持ち悪くない? 大丈夫?」
「ああ、はひ、らいりょーぶれしゅ……」

 大した量のアルコールを摂取したわけではないのだろうが、この呂律だ……。
 僕はこの女の子が、将来お酒に酔って酷い目に合いませんようにと、祈るばかりだ。

「しゅこし、おはなししてもいいれすか?」
「もちろん」

 どうやら、この子は、酔うと少し饒舌になるタイプらしい。

「わらしのくらすに、なかよくなりたいおんらのこがいるんれす」

 饒舌になってはいるのだろうが、呂律が回っていないので、何を言っているのかを聞き取るのが大変だ。

「れも、いえもとおくれ、それにいろいろいそがしいみたいれ、なかなかなかよくなれないんれすけろ……」

 でも、その表情から察するに、真剣な話のようなので、懸命にその女の子の話を僕は聞いた。

「そろこ、たぶん、ぜったいにかなわないこいをしているみたいれ……わらし、あのこのそうらんにのってあげたいろに……そろこ、ぜんぜんはなしてくれなくて……」

 一生懸命に語った彼女の話は、だいたいこんな感じだった。

 少し遠いところから同じ学校に通う女の子と、この子は友だちになりたいのだそうだ。
 でも、遠いのもあって、なかなかタイミングが合わず、一緒に遊んだり、一緒に帰ったりがほとんどできず、関係を深めることもできていないらしい。
 もちろん、学校では仲良く一緒に過ごしているのだが、中学でのこととか、家族のこととか、その女の子のことを、彼女はほとんど知らないのだそうだ。
 しかし、彼女が誰かのことを、強く思って悩んでいることはわかるらしく、力になりたいのだが、どう切り出していいのかも分からないし、悩みを打ち明けて貰えるほどまで仲良くなれているかどうかも分からず、切り出すこともできないのだという。
 大人同士だったら、それこそ、今のように、『お酒の力』を借りるというような手もあるのだろうが、そういった微妙な距離感を、高校生の頃に越えようと思うと、確かに難しいのかも知れない。
 話の後半、だんだん眠気が勝ってしまったのか、ウトウトとしながらも、この子は一生懸命に、なんとかお友達になりたいその子のことを、いろいろ僕に話してくれたのだった。

 結局、夜の縁日が始まるくらいまで、彼女達のお酒が抜けず、誤ってホッピーを飲んでしまった学生たちは、『ほとんど役に立てなくてすみません』と謝りながら、縁日の明かりの中に散っていった。
 酔っ払いながら、悩みを聞かせてくれた女の子も、『なんかいろいろ恥ずかしいことをダラダラはなしてすみません。忘れてください』と、酔っていたときよりも赤い顔をして行っていた。

 願わくば、彼女の望みが叶って、意中の女の子とお友達になれるといいのだけれど……。
 そんなことをそっと祈りながら、僕は、彼らの親御さんに、謝罪の電話入れる準備をするのだった。

 はぁ……寛大なお心を持った保護者の方々であることを、今度は祈るとしよう。


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