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【短編】 台風が来る前に 【妹シリーズ】


「今回の台風には頑張って欲しい!!」

 大人になると、そう思うことは恐らく少なくなるが、学生時代は、『台風が来る』と聞けば、必ずそんな風に思ったものだ。
 妹が、珍しく早起きしたと思ったら、更に珍しいことに、テレビを付けてニュース番組を見ていた。
 理由は、さっきの通りだった。
 目下全力で応援中の台風の応援をする為だ。

 しかし、ご存知の通り、進路的に今回の台風20号は関東に大きな影響を出すことはないだろう。
 深夜0時の段階で、近畿に上陸。
 恐らく直撃した地域は甚大な肥大に見舞われているのだろうが、関東地方は風が強くなる程度。
 台風の猛威は、彼女の期待に答えることはなかろうというのが、僕の予測だった。
 実際、近畿を抜けて日本海を北上している台風は、この後海上で温帯低気圧にその姿を変えるということなので、関東には大きな混乱を招くことなく、台風はその日本ツアーを終えるのだろう。

「ここらで、くいっと曲がってくれない? お願い台風さん!!」

 テレビに向かって、そう話しかける妹。
 気持ちは分からないでもないが、実際台風が通過した地域は、かなりの被害に見舞われている。
 大人の立場からすれば、直撃はぜひとも避けたいのだが、妹と同様、世間の学生達も、今日のこの台風20号の動向は、手に汗握って楽しみにしていたに違いない。
 もしかしたら「とんだ期待外れだった」とがっかりしているかも知れない。

「ダメ? ダメなの? せめて、せめて大雨か暴風だけでも!!」

 大抵の学校が、大雨警報か、洪水警報、暴風警報で休校となる場合が多いので、台風が直撃しなくても、豪雨になったり、暴風が吹き荒れれば、学校が休みになる。
 なので、台風直撃がないと悟った妹は、そちらの方向に祈りをシフトチェンジしていた。

「お兄ちゃん! 携帯に『豪雨予想』来たよ!! 外も雨降ってきた!! これはワンチャンあるかも!!」

 早朝から、いつにも増して妹は元気だった。

「そうそう都合よくは行かないとは覆うけどな……んで、どうすんだ? 朝飯食うか?」
「私は今日、台風に休みになったら、家でとことん寝るって決めてるから!! まだご飯は食べない!! 食べて寝たら、太るもん」
「左様で……んじゃ、飯の準備はまだせずにしていくわ」
「うん。だからお兄ちゃんも一緒に祈って! やっぱり私的には、もう少し夏休みは欲しいの!! おお! いい感じに雨が強くなってきた!! その調子で、JRと京急を止めて!! 頑張って台風!!」

 強まってきた雨風に、テンションを上げている妹。
 確かに、風雨は強まってきているが、果たしてどうなるか。
 彼女の望み通りになるのか、それともならないのか。

 それは、神のみぞ知るというやつだった。


 妹の台風応援を横目に、俺は俺で台風の動向は気になっていた。
 というのも、最近忙しくて全然洗濯ができなかったのだ。
 出来れば今日、全部洗濯して干してしまいたかったのだが、あいにくとこの天気。
 乾くかどうかは微妙だ。
 なので、俺としては、さっさと台風には通り過ぎて貰って、台風一過で好天になって欲しいのだが……。

「こりゃ、妹の祈りが通じたか?」

 天気はどんどんその様子を悪い方へと変えて行った。
 窓ガラスをたたく雨音は、どんどん強いものへと変わっていく。
 風もどんどん強くなる。
 この調子で降り続ければ、もしかしたら、彼女達の悲願である『休校』に辿り着けるかも知れないな。

「うーむ……洗濯機はどうするべきか」

 こちらとしても悩ましい状況には変わりなかった。


「ああ、雨が弱まってく……」
「でしょうね。にわか雨さだからな」
「にわか雨? なにそれ?」
「いまどきの高校生は、そんな言葉も知らないのか……」

 いや、恐らく妹が特別不勉強なだけだろうけれど。

「にわか雨って言うのは、急に強い雨が降って、短期間でそれが病むような雨のことだ。丁度、今の雨みたいなのがそうだな」
「ぐぬぬ……そんな、にわかと言わず、ちゃんとしたファンになって、しっかり雨と風を頑張ってよぉ!!」

 最近使われている『にわかのファン』と、『にわか雨』を結びつけたらしい妹は、不思議な発言をしているが気にしない。
 とにかく、窓をたたく雨の音もすっかり静かになってしまった。
 風は強いものの、どうやら雨は一旦お休みらしい。
 俺は内心喜びながらも、そんな空気はおくびにも出さず、残念そうな声を作って、「そんな日もあるさ。もう人眠いするなり、準備するなりしようぜ?」と妹に学校の準備を勧めるのだった。

「えぇー……でも、そうか、確かに……このままだと、休校は無理っぽいし、せめてもう少しだけ寝るという手も……でも、起きれるかなぁ?」
「起こしてあげるから、寝てきたら?」

 テレビを見ながら、すっかり興奮が覚めてしまった妹は、眠そうにうつらうつらしている。
 思えば、昨日も遅くまで騒いでいたし、睡眠不足なのだろう。

「んー……じゃあ、あとで起こして。いつもの時間で」
「OK、じゃ、その時間に合わせて朝飯も用意するよ」
「よろしく……はぁ、最近の台風は、結構頑張ってくれてたから、今日も期待してたんだけどなぁ……残念」

 盛大にため息を吐きながら、リビングを後にして、とぼとぼと階段を上がって行く妹の後ろ姿は、思った以上に元気がなくて、少々気の毒に思えたのだった。

「お兄ちゃん! 何で起こしてくれなかったの!!」
「いや、起こしたよ。散々起こしたのに、その度に『後五分』とか言って眠り続けたのはお前だからな?」

 結局、盛大に寝坊して、バタバタしながら出かけていく妹は、家を出るときに吐いて捨てるように言って、食パンを加えて玄関を出て行くのだった。


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