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【短編】異世界○○について考える。【今日は何の日 : 0712 洋食器の日】


 異世界食堂、異世界居酒屋、異世界コンビニ……

「最近、異世界のおはなしが流行っているよねぇ……」
「突然何の話かと思ったら、……アニメの話か」

 お兄ちゃんが洗い物をしながら、私が見ているテレビに映った映像をチラ見して、私の言葉にそう答えた。

「うん……異世界居酒屋っていうの見てるんだけど、前は異世界食堂っていうのもやってたなぁって思って」
「お前は、相変わらず食物の話が好きだよな……ソーマとか」
「だって美味しそうじゃん!」

 どうもお兄ちゃんの中では、私は腹ペコキャラが定着しつつあるようで良くないが、今はそんな話をしているのではないので聞き流す。

「こういう話ってさ、こっちの世界のご飯が、異世界の人にとっては物凄くおいしいっていう展開だけど、逆ってないのかな?」
「逆っていうと?」
「迷い込んだら、遠月でした……みたいなさ。異世界側の方が食文化に優れてて、美味しい料理に溢れてる……みたいな?」
「ああ、なるほどな」

 なんだか、異世界が進んでなくて、こちらがすごく発展しているっていう世界観が、私は面白いとは思いつつ、どうにも納得できない部分があった。
 異世界の方が進んでて、迷い込んだ人が驚かされる話があってもいいと思うのだ。

「でも、それだと、こちらの世界から迷い込んだ主人公が、異世界で活躍できないんじゃないか?」
「ああ、そっか……それじゃ面白くないのか……」

 お兄ちゃんの指摘は、その通りだと思う。
 せっかく異世界に迷い込むのであれば、やっぱり主人公には活躍して欲しい。
 そうっ考えれば、異世界より、こっちの世界の方が進んでいるという方が、わかりやすいのだろう。
 異世界に溢れる未知の食材を、卓越した調理方法で新しい美味しい料理に作り上げる……。
 確かに、面白いと思う。

「でもさ、異世界のとんでもない化物みたいな猛者を相手に、少しずつ成長しながら、追いついて、追い抜いていく……みたいな、成長する話だっていいと思うんだけどなぁ……なんかこう、こっちでは普通の技術が、異世界では凄い技術として認められて、ってインスタントっていうか、お手軽すぎて、おぉ!? って風にならないんだよねぇ……」
「いつになく、批評的だな。何か変なものでも食べたのか?」

 思ったままの感想というか、思いつきを垂れ流す私に、お兄ちゃんは少し感心しながら、タオルで手を拭いたあと、私の隣に腰掛けて一緒にテレビを見始める。
 テレビといっても、amazonの無料動画視聴サービスなのだが……。

「でも、こうして見るとさ、俺たちって、いろいろ恵まれた世界に生きてるんだな」
「ん? どゆこと?」

 異世界居酒屋の話を見ながら、お兄ちゃんは苦笑いを浮かべる。

「だってさ、こっちの世界では、普通に注文して食べてるものが、この世界の人たちには、とんでもなく美味しいものに感じられるわけだろ? どこにでもある普通の居酒屋の、一般的なメニューをああも美味しく食べるってことは、お前の言うように、料理のレベルはこっちよりもずっと低い世界なわけだよな?」
「そだね」
「でも、それって、逆に考えたらさ、俺たちが当たり前に思っている生活って、本当はすごくかけがえがなくて、恵まれた、素晴らしい日々なんですよってことを、この作品は言ってるんじゃないか? 俺たちはもう、『当たり前』だと思って、ありがたいとも思わないけど、普通に生活して、普通にお金を払って、普通に食べれる食べ物が、外れなく美味しいって……きっと、こっちの世界でも、実はなかなかないものなのかも知れないぞ?」
「ああ、なるほど……」
「お前さんの言ってたことを聞いてた限り、こういう話が、異世界を馬鹿にしてるって感じてるっぽかったけどさ……馬鹿にしてるんじゃなくて、もっと素朴に、純粋に、今の俺たちの『当たり前』がいかに素晴らしいものなのかを語ってくれる存在として、こういう作品の異世界があるんじゃないかね?」

 言われて、いろいろなモヤモヤが晴れた気がした。
 面白いとは思いながら、どうにも釈然としなかった自分の気持ちも、この作品の在り方も、お兄ちゃんの言葉で、ストンと腑に落ちた感じだった。

「でもさ、お兄ちゃんなら、異世界に行けばお店とか出せるんじゃない?」
「まぁ、こっちの世界では、プロには到底及ばないけど、こういう素朴な世界なら、お前を養う程度にはやっていけるかもな?」
「いつか、行けるかな? 異世界?」
「お嬢さん、現実と虚構の区別はつけましょうね?」

 私の発言を、笑顔でたしなめるお兄ちゃん。
 丁度、そのタイミングで、私のお腹の虫が鳴いた。

「だろうと思ったよ。冷蔵庫の中の作り置きのプリンを持ってくるから食うだろ?」
「食う!」

 私は、お兄ちゃんが持ってくるプリンを待ちわびながら、食卓の上の箸立てならぬスプーン立てから、スプーンを取って手に持つ。
 お母さんがもらってきた綺麗な柄入りの洋食器の上でプルプルふるえるプリンが目の前に置かれた。

「こ、これは、プリン!!」
「なんだなんだ? 異世界レストランごっこか?」

 お兄ちゃんのお手製プリンは、私的には、お店のプリンよりもずっと美味しく感じるのだった。

「店主! このプリンをもう一つもらおうか!!」
「はいよ」

 この後、無茶苦茶プリンを食べた。(計5個)
 そんなに作り置きしたら痛まないのかと聞いたら、お兄ちゃん曰く、

「どうせ、お前が5,6個ペロリだしな……だりて良かったよ」

 だそうだ。

 お兄ちゃんは、絶対、異世界で人気の『大将』になれる、とう思った私だった。

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