Shinichi Saco

フォトライター/クリエーター アートの世界が好きです。生きること=現実に存すること。現…

Shinichi Saco

フォトライター/クリエーター アートの世界が好きです。生きること=現実に存すること。現実を超え、さらなる進化・理想を求めることとは? ひとりひとりが自分のストーリーで好きなような解釈が可能であり、かつ多様で自由な世界がそこにはあると考えます。『僕の大空 イヌワシになりたい』上梓。

最近の記事

いのちの星屑

相手が血を見て、逆ギレしてくるやつには、反対に冷静になった方がいい。その方が高い確率で相手の隙を突けるからだ。もし万が一熱くなってしまえば双方とも自滅してしまいかねない。そのことも僕は体で憶えていった。生まれ育った環境やまわりの大人たちや先輩たちが多くの修羅場で身につけてきた失敗と成功を僕は少しずつ自分のものにしていった。 つづく

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      数々の対マン(一対一の喧嘩)でわかったことはキレる直前、腹の奥から熱いものがこみ上げてくるってことだ。そういうときに、ひとつ深呼吸をして、下腹部あたりに力を入れる。『キレるなよ!』と自分に暗示をかける。すると、相手に舐められないためにどうしたらよいかがわかってくる。長身の相手には鼻筋あたりにチョーパン(頭突き)を打ち込こと。大抵自分の鼻血を見ると戦意喪失する。精神的ダメージを与えることだ。勝つためには先手必勝は常套手段だ。 つづく

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        ただ、どちらともいえないときは、どうするか。そういうときは腹を決め、エイッと一歩前に出る。そんなとき、決まって言い知れぬ興奮を覚えるもんだ。今思えば、小さい頃から父ちゃんにはいつも殴られ、突然押しかけてくる借金のとり立て屋からは胸倉を掴まれ、園長や副園長の体罰、暴言に比べたら、ヤンキーの戯言なんか盛りのついた猫の鳴き声ぐらいでしかない。  なーんだぁ、こいつら大したことねえや。大方、不良に憧れている手合いだろう。キレそうになったら、いつも冷静沈着なヒロシが分け入ってくれた。す

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          いや、ひょっとしたら、先輩にとってみれば、ちょっと脅かせばいいなりになる、都合のいい、パシリぐらいにしか思っていなかったのかもしれない。そんな先輩にも優しいところはあった。いざというときに、地元のヤンキーから後輩連中を守ってくれた。とっても頼りがいのある兄貴的な存在でもあったし、先輩と一緒に行動をしているとすべてが勉強になった。とくにヤンキーとばったり遭遇し、 メンチのきりあいになった時にどうしたらいいかと訊ねたことがあった。すると「目を逸らさず目力を入れながら、相手に睨みを

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          部屋に戻るとウシオ先輩が、呑気にスーパーファミコンをやりながら訊ねてきた。 「ヘマしたのどっちだ?」  俯きながら、黙っているとヒロシの方から「自分っ」と顎を突き出していた。マジか?! ヒロシって、そういう奴だったっけ?……そう思っていると、負けた! という思いが込み上げてきた。ヒロシが自分より少し大人に見えた瞬間だった。その一件があってから、僕はヒロシとつるんでよく遊ぶようになった。すでに卒園していたウシオ先輩は、たびたび施設に電話を掛けてきては僕とヒロシは呼び出された。そ

          いのちの星屑

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          案の定、コンビニを出るときに小走りで走ったものだから、当然、店員に呼び止められ、ビクッとした拍子にポケットからチョコボールがこぼれ落ちていた。すぐにバイトと思われるマッチョな若者が僕を後ろから羽交い締めに。即刻、施設の副園長が呼び出されるとだれかがとめないと永遠にやりつづけている赤ベコのように頭を上下動させていた。 つづく

          いのちの星屑

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          ある日、中学卒業を間近に控えていたウシオ先輩がヒロシと僕にコンビニに行って、一週間分のチョコボールをパクってこいとふっかけられたことがあった。はっきり断ろうと思えば断れたかもしれない。が、どうしてだかわからないが、断らなかった。なぜ断らなかったんだろう? 先輩が怖かったこともあったが、誰でもいいからパクリをやめさせてほしいと思っていたのかもしれない、きっと。今、パクリをやめないと一生、やめられなくなるかもしれないとうすうすどこかで感じていたのかもしれない。二度と這い上がってこ

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          第三話 トラウマ 一九九一年    施設では、月に一度、スタッフとコンビニでお菓子を買出しにいくことを許されていた。ウシオ先輩に無理やりやらされていたことのひとつが、商品をパクってくること。パクリとは、万引きである。施設を出てからも、僕は窃盗癖に苦しむことになるのだが。   今思えば、当時、心のモヤモヤした苛立ちを抱えていたんだと思う。それを放置しておくと、ドブネズミが大繁殖するように自分で自分をコントロールできなくなっていた。なぜパクリをやめられなかったのだろうか。口から心

          いのちの星屑

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          施設の子どもたちは、中学卒業後、ほとんど高校に進学せず、園長の紹介で鳶職や工員として就職する子が多かった。大抵仕事は長続きせず、そのまま行方不明になるケースがほとんど。時折、施設出身の先輩たちが施設近くに出没しては、施設の後輩連中を呼び出し、どこかで悪さをしでかし補導されることもしょっちゅうだった。  その一方で、高等学校に進学する子も少なからずいた。その子たちは、みな物静かで、大人びており、近寄りがたい存在だった。しかもみな一様に優しかった。  小学生、中学生のもめごとは、

          いのちの星屑

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          施設では、さまざまな家庭事情により、両親と一緒に暮らせない子どもたちが、スタッフと一緒に共同生活を送っていた。 いるのは二歳から高校生まで六十五名の子どもたち。いくつかの班に分けられ、班ごとに二段ベッドのある部屋を割り当てられており、ひとつの班は、縦割りで小学一年生から中学二年生までの子どもたちがひとつの部屋でともに生活をしていた。 僕たちを束ねていたのは、スタッフでもなければ、中学三年生でもなく、中学一年で地元ヤクザの組長を父にもつウシオマコト先輩だった。 ウシオ先輩は、中

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          「あっ、”あおぞら”がきた!」 「おい、”あおぞら”、空、見てねえじゃねえか」ってよくからかわれることもあった。そういう日には、ママチャリを飛ばし、施設近くにある高台の公園を駆け上り、好きなだけ空を見ることにしていた。  高い山々や太平洋も一気に飛び越え、どこまでもどこまでも自由に飛んでいける渡り鳥に憧れた。鳥になりたいって。思いながら空に向かって手を合わせたこともあったっけ。あらん限りの力でブーンブーン羽を震わせながら、大空に舞い上がっていく渡り鳥。  市街地から電車で三十

          いのちの星屑

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          小学校に上がる前から、空を見上げ、どこまでも飛んでいける鳥を見るのが好きだった。その当時は、空を見上げるといつもなにかしらの鳥が飛んでいたものだ。スズメ、カラス、ハト、ムクドリ、ヒヨドリ、ツバメ、ときどきウグイス、メジロ……。たまに今でも鳥は見かけるけど、その頃と比べる大分減ったような気がする。いつも空を見上げているから、よく近所の人から”あおぞらくん”って、呼ばれていたものだ。 つづく

          いのちの星屑

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           施設に到着すると入り口でたまたま透明なプラスチックの容器を目にしたので、手にとって底の模様を光に透かして見たのははっきりと憶えている。当時から容器の底の模様を光に透かして見るのが好きだった。どうしてそうするのかなんてわからないけど。 つづく

          いのちの星屑

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          口元はニッコリしているのに、目が笑っていない。なんでずっと黙っているんだろう?  感じることをとっくにやめてしまっていたから、なんにも感じなかった。知らないおじさんが来てくれたおかげで、もう父ちゃんの顔色をうかがわなくていいんだと思ったら、ツーンと鼻が痛くなりだし、次から次へと鼻水があふれ出てきた。こんなこと初めてだった。  あとでわかったけど、連れていかれた場所は海辺近くの児童養護施設。 そこで、人生最初で最大の苦しみを味わうことになる。 つづく

          いのちの星屑

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          翌朝、起きると隣に敷いてあった母ちゃんの布団がきれいに畳まれてあった。眠い目を擦りながら、台所に行っても、誰もいなかった。すぐに戻ってくるだろうとテレビをつけ、待ってみた。が、けっきょく誰も戻ってこなかった。  翌朝、目をさますと、口臭が気になるくらいすごいお腹がすいていて、力が入らなくなっていた。それでも寝ることしかやることがないので、寝ているとものすごい音で目がさめた。目の前には太い足首が並んでいる。 「ヨウスケくんだね。おかあさん、おとうさんはどこ?」  捨て猫でも見て

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          第二話 養護施設  一九九一年   なかなか寝つけない蒸し暑い夜、布団の上で天井の木目模様を眺めていた時期があった。木目模様が怪獣の吐く赤い炎に見えてくる。そういった空想遊びに興じていると隣の部屋から母ちゃんの声が聞こえてくる。 「うまなかったら、とっくに、出てんだよ……」  天井にぶら下がっている電球がジージージーと音をたてている。襖のすき間から漏れ出る光に吸い寄せられるように隣の台所を覗きこんでみる。カッコン、カッコン、柱時計の振り子の音。視界に飛び込んでくるのは、ひとり

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