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条件のスケッチとは?企画の経緯と現在

人間の条件は「条件のスケッチ 2023」というイベントを11月11日(土)、11/12(日)に開催します。

人間の条件として、初めて行う「イベント」です。
それってつまり、何をやるのか。そもそも、なぜ今「イベント」をやるのか。このnoteでは、そういった疑問を整理し、条件のスケッチが目指す体験を伝えるべく、本企画の経緯と、コンセプト、そして開演1週間前の現状を書いていこうと思います。

書き手は、人間の条件で広報を担当している近江諒哉です。
人間の条件には第一回、第三回、番外公演『絶触』、『巣』に舞台美術や制作として参加したのち、就職のタイミングでいったん離脱。今年の8月からもう一度広報として参加しています。

少し長くなりますが、ご一読いただけますと幸いです。


〇単なるワーク・イン・プログレスだった。

もともと、「条件のスケッチ」はイベントではなく、ただの「ワーク・イン・プログレス」として行う予定でした。

僕が8月に人間の条件に参加したとき、主宰・演出のZRは今後の公演スケジュールについて、年に2回の本公演とそれぞれのワーク・イン・プログレスを1本ずつ、計4本の公演を毎年製作していくことを構想していました。

ワーク・イン・プログレスは、本公演のクオリティを高めるために必ず必要だと、今のところ人間の条件では考えています。

人間の条件は密度の高い作品を制作するために、ほとんどすべての体の動きを稽古の中で決めており、一つ一つの動きのクオリティを高めるのにも時間がかかります。そのため製作期間としては6か月が適正であると判断しています。
ただし、その6か月の間、劇団内部で作品をぬくぬくと育てるのはもったいない。一度観客というドライで客観的な外の目線をいれることで、作品の方向性を見直す機会があるとより質が上がるし、また劇団内でゆっくりと作品を作ることで失われてしまう緊張感も維持することができるのではないか。
人間の条件がワーク・イン・プログレスを必要だと考えるのは、おおよそこのような理由です。

人間の条件では3月に本公演『桜の森の満開の下』の上演を予定していますが、この作品についても、もちろんワーク・イン・プログレスを実施しようという流れになっていました。

そんな中、ZRが下記のようなつぶやきを人間の条件のDiscordにポストします。

8/22の人間の条件Discordより

まさしくその通りです。このワーク・イン・プログレスってどうなんだという話は、それ以前にも何度か劇団員からあがっていて、何かしら考え方を変えるべきなのではないかと皆がぼんやりと思っていました。

考えてみると、前述したワーク・イン・プログレスをやる目的は、非常に作り手目線のものです。
果たしてお客さまはワーク・イン・プログレスを見たいのか、単なる途中経過を見せる会だった場合、どれだけの人が行きたいと思ってくれるのだろうか。

そういったワーク・イン・プログレスの問題点を整理し、あらためて提供価値を考え直す動きがここから始まっていきました。

〇必死の議論、あるいは迷走。

ワーク・イン・プログレスをどのように届けていくか。
このお題に対して様々なアイデアが出ました。以下がその例です。

  • 野外で上演し、ワーク・イン・プログレスを「野外版」、本公演を「劇場版」として、それぞれ異なった景色を見られる場にする

  • アップルの新製品発表会みたいに、ZRが長々とプレゼンした後に上演を見せる場にする

  • いろんな大学の学園祭に毎年出展し、学園祭の中でもイロモノの企画として、暇つぶしに見てもらう

  • 演劇について様々なことを勉強するワークショップを実施し、その最後におまけコンテンツとしてワーク・イン・プログレスを上演する

  • お客さまと宴会を行い、そのあと上演する

  • 劇場開放型とし、劇団員とお客さまが普通にだべって時間を過ごす場所を作る。そのあとだらっとワーク・イン・プログレスに移行する

結果的に、ここで出たアイデアが結集して現在の「条件のスケッチ」ができていくのですが、この時期はなかなか迷走していました。
ワーク・イン・プログレスに別のコンテンツを組み合わせることで価値を付けるという方向性が多く、ワーク・イン・プログレスの価値を底上げするアイデアが少なかったり、複数のコンテンツを通した体験全体がどのようなコンセプトを持つのかがうまく見えないでいました。

一方で、11月にワーク・イン・プログレスを実施するということはすでに決定しており、会場も、コンテンツの具体も、その後の宣伝プランも考え始める必要があります。検討を続ける時間はあまりありません。

またこの時、組織内で具体を考える部門と、コンセプトを考える部門が同時に動いてしまっていました。
全体像はまだ見えない中、具体のコンテンツはいくつか決まり始めており、それらとの整合性を考えながら、全体をまとめないといけない。

そんな苦しい状況下で苦し紛れに固められたコンセプト案が、
人間の条件のファンを対象にした、「人間の条件をもっと理解できる場所」というものでした。
これはつまり、人間の条件作品の楽しみ方や、劇団員のパーソナリティを分かりやすく知ることができる場所として、ワーク・イン・プログレスにいくつかのコンテンツを付け足していこう。というものです。

ファンであれば、途中経過であるワーク・イン・プログレスも見たいと思ってもらえるはずだし、劇団員とカジュアルに話せる場も喜んでくれるはずだ、そういった議論が行われていました。

人間の条件のことをもっと楽しみたいと思っている人が、今どれくらいいるのだろう。そもそも人間の条件にファンってどれくらいいるのだろうか…?
そんな懸念が多く残っていましたが、とりあえずこの方向で固めて具体を作っていこう、と進んでしまうくらい、当時の劇団員は疲れ切っていたのでした。

〇そして「条件のスケッチ」へ。

人間の条件のファンを対象にした、「人間の条件をもっと理解できる場所」というコンセプトが決まり一週間。着々と準備は進んでいきました。
情報公開の時期や宣伝スケジュール、具体的なコンテンツも粛々と定まっていきました。(具体的なことは進むのが早いものです)

しかし何となく不安が付きまとう。いろいろな前提が間違っている気がする。そんな雰囲気は劇団内に残っており、時間はない中ではありましたが改めてコンセプトについて話し合う場を設けることとなりました。

前提から見直しを行い、コンテンツの見直しも含めて徹底的に議論を行いました。個々人の演劇に対する考え方や、人間の条件に感じている魅力等についても意見を共有し、あらためて一人の生活者として見たくなるワーク・イン・プログレスについて考えました。そこで一筋の光明が見え、現在の「条件のスケッチ」が定まっていくことになります。

議論の結論、つまり「条件のスケッチ」のコンセプトは以下の2点です。

■結論1:見せるべきはあくまで作品。

それまで、ワーク・イン・プログレスを見てもらう方法を考えていく中で、知らず知らずのうちに「ワーク・イン・プログレスの存在感を薄めること」「ワーク・イン・プログレスもついでに見てもらえるような面白いコンテンツを追加すること」が議論の主眼になっていました。

しかし、あくまでお客さまが人間の条件に期待しているのは「作品」であるというのが重要なポイントだと考えました。
人間の条件のファンの存在を仮定して議論することの違和感は、ここにあったと思います。人間の条件はまだ劇団として若く、団体としてのブランドも、中にいる演出家・俳優のタレント性も未成熟です。
広報のメンバーとしても、ここに自信がないために、「団体のファン」の存在にどこか懐疑的だったと考えます。

しかし、人間の条件のつくる作品には自信があります。クリアに自分たちの作品が目指すところが分かっており、演出も役者もスタッフワークも、一定以上のクオリティに達し始めている。面白いと思ってもらえるものを作れるという自信があります。

また、人間の条件を継続的に見てくれている方々も、これから見ようと思ってもらえる方々も、人間の条件に期待しているのはあくまでその「作品」だと考えました。

であれば、今回の「作品」であるワーク・イン・プログレスは、コンテンツの一部にするのではなく、中心に持ってくるべきだと思います。このワーク・イン・プログレスをより楽しんでもらうために、各コンテンツを整理することが必要だと整理されました。

そこでイベントの主旨は「新作発表会」というところに落ち着きました。
人間の条件が新たな作品を発表する場所。ただし、発表するのは上演だけではなく、目指すものや、具体的なプランも併せて発表する。また、上演後には観客参加型のディスカッションを行い、今後の展望を共にシェアする。

ワーク・イン・プログレスを、途中段階でのベストを見せる作品としてとらえるのではなく、構想という始めから、現在のアウトプット、今後の展望までを見せる、時間軸を持った作品として整理し直しました。

上演をより楽しんでもらうために、これまでの文脈を理解できるコンテンツとして「過去作品上映会」があり、演出意図や今後のビジョンを理解できるコンテンツとして構想発表会やアフタートーク、また「セッション 身体ってなんなん?」がある。
こうして、ワーク・イン・プログレスという作品の価値を底上げするイベントとして全体を整理しています。

まだ製作段階ではありますが、この構想は、とても面白い体験になってきていると思います。一つ一つのコンテンツも面白く、それらをつないでみるとさらに面白い。ぜひ体験しに来てください。後悔させません。

■結論2:人間の条件ではなく、演劇を分かるための場に。

当時のコンセプト「人間の条件をもっと理解できる場所」について、人間の条件を理解したい人はそこまでいないかもしれない。
でも演劇に視点を広げれば。まさに理解したいという感覚が今強くなっているのではないかと考えました。

これは非常に個人的な感覚ですが、演劇って必要以上に難しすぎないか、という思いを以前から持っていました。

ステートメントではこの個人的な気持ちをそのまま書いています。

自分が、単に物語やキャラクター、セリフの言い回しを楽しんだ作品について、おそらく自分よりも「わかっている」人たちがなんだか難しい言葉で、違う(おそらく視座の高い)観点から語っているのを見るたびに、自分が感じた面白さを馬鹿にされたような気持ちに勝手になってしまったり、そうした体験が重なって演劇という自分が楽しみきれないコンテンツから足が遠のいてしまったり。なんだか居心地が悪い感覚を、何度も持ってきました。

彼らの話していることを理解できれば、きっと演劇をもっと楽しめるようになるのだろうと思いつつ、どこで学べるのかわからない。

そんな演劇の「難しさ」を昇華する場所として、今回のイベントを考えられないかと思いました。

人間の条件主宰のZRの理想は「自分の母親が見ても面白いと思ってもらえる演劇を作ること」だそうです。
であれば、この「難しさ」の昇華は、人間の条件としてもやらなければならないことだと考えます。

新作構想発表会や、「セッション 身体ってなんなん?」は、演劇を「分かる」体験のためにも機能するものになっています。
身体ってつまり何なのか、身体という視点を持つとどのように演劇を楽しむことができるのか。非常に密度の高いコンテンツとなっており、とてもおすすめです。(個人的には演劇の見方を初めてきちんと理解できたように感じており、今の状態で演劇を見たいという気持ちがかなり高まっています…!)

人間の条件というフィルターを通して、演劇を分かりやすくすることができる場所、もっと多くの人が気楽に演劇を楽しめるための場所として条件のスケッチを規定しています。

〇喜んでもらえる体験に。

以上が、「条件のスケッチ」の企画経緯です。
なぜ人間の条件が「イベント」を行うのか、どういうことを目指す場所なのか、読む前よりイメージできるようになっていただけていると、嬉しいです。

ここまで書いたことや、今回のイベント趣旨がどれだけの人に共感してもらえるのか、果たしてどれだけの人に行きたいと思ってもらえるか、不安も多くありますが、実際今できているものには自信があります。
ワーク・イン・プログレスも面白く仕上がっているし、イベント全体としても、構想通り、今後演劇をもっと面白く見られるような内容になっています。
きっと喜んでいただける人がたくさんいると思います。

また、今回触れていない「条件の勉強会」については、別にnoteを出す予定です。詳しくはそちらで書きますが、この勉強会、かなり良いです
すごく実用的かつ、今後にワクワクできる内容になっています。演劇をもっと多くの人に見たいと思っている人には本当におすすめです。

以上、最後までお読みいただきありがとうございました。
「条件のスケッチ 2023」少しでも興味を持った方はぜひお越しください!

▼予約はこちら▼
http://quartet-online.net/ticket/sketch2023



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