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ラインbyライン徹底解説 NAS One Love

名盤イルマティックの中の1番の名曲はなんでしょう?
NY State of Mind? World Is Yours?
と思ったあなた。この記事を見てから判断しても遅くない
手紙形式のストーリーテリングという革新性、80年代NYスラムの精緻な描写、アメリカ司法制度批判という様々な要素を盛り込みつつ、何より語り口とストーリーが面白いところが一番いい
サウンドが他の曲より優れているとは言いませんが
歌詞はぶっちぎり一番です


[Verse 1: Nas]
What up, kid? I know shit is rough doin' your bid
When the cops came you shoulda slid to my crib
Fuck it, black, no time for lookin' back, it's done
Plus, congratulations, you know you got a son
I heard he looks like ya, why don't your lady write ya?

よう元気か?大変だったな
おまえんちに警察がきた時のことな
最低だったけどしょうがない。終わったことだ
それよりおめでとう。お前の子供が生まれたの知ってるだろ
お前に似てるぜ。彼女に手紙書いてやったらどうだ?

* 刑務所の友人にNASは手紙を書いている。父親は収監中であり、子供はシングルマザーに育てられてる。これはフッドによくある家庭環境であり、ドキュメンタリー的な楽曲である。
* 子供のことを父親似だよというのは、男性の「この子本当に俺の子か?」という疑念を抑える効果がある。意識的か否かに関わらずNASの優しさが伝わってくる

Told her she should visit, that's when she got hyper
Flippin', talkin' about he acts too rough
He didn't listen, he be riffin' while I'm tellin' him stuff
I was like, "Yeah," shorty don't care, she a snake too
Fuckin' with them niggas from that fake crew that hate you

あの女(彼女)がテンパってる時に、お前のところに面会に行けよって言ったんだけどな。お前のこと、乱暴すぎる、私のいうことなんか何も聞かないって愚痴ってたぜ。俺は「ああ」って返事しといたけど、お前のことなんか気にしてないみたいだった。あの女は裏切り者だぜ。俺たちと敵対してるクルーとつるんでるんだ。

* NASの友達が収監されたのは、女が敵を利するために密告し、はめたのかもしれない。こんな辛いことを囚人に伝えるのは気の毒だと、NASは気を使わなかったのだろうか。少し配慮がないように思う。
* このような裏切りが渦巻く人間関係が治安の悪さの原因の1つなのだろう。フッドの社会をNASは描写している。

But yo, guess who got shot in the dome-piece?
Jerome's niece, on her way home from Jones Beach
It's bugged—plus little Rob is sellin' drugs on the dime
Hangin' out with young thugs that all carry 9's
And night time is more trife than ever

それはそうと、誰の頭がぶっ飛ばされたと思う?ジェロームの姪だぜ。ジョーンズビーチから家に帰るところだったんだ。信じられないよ。
それと、リルロブがガキとつるんでクスリ売り始めたらしい。全員銃を持ってるんだぜ。
今は史上最悪に夜のストリートは危険だよ。

* 子供の通行人が抗争に巻き込まれて死んでしまうこと、子供が武装して商売を始めることにNASは驚き嘆いている。この時NASも20歳前後なので,若者が子供の傍若無人っぷりを嘆いているのが、ユーモラスかつとんでもない。

What up with Cormega? Did you see him? Are y'all together?
If so, then hold the fort down, represent to the fullest
Say what's up to Herb, Ice and Bullet
I left a half a hundred in your commissary
You was my nigga when push came to shove
(One what?) One love!

コメガはどうしてる?一緒にいるんじゃないのか?
もしそうなら、最強メンバーで刑務所を仕切れるな。
ハーブとアイスとブレットにもよろしくいっといてくれ。50ドルお前に差し入れしといたよ。どんな辛い時でも俺はお前の友達だぜ
愛を込めてワンラブ 

* ハーブとアイスとブレットの名前は収監されている理由を表している。Herb大麻売人、Iceコカイン売人、bullet銃による殺人。おそらく売人と殺人犯が同じように扱われることに対する司法制度への批判も盛り込まれている。
* 曲のタイトルone loveは手紙の終わりの締めの言葉でもあるようだ


[Verse 2: Nas]
Dear Born, you'll be out soon, stay strong
Out in New York the same shit is goin' on
The crackheads stalkin', loudmouths is talkin'
Hold, check out the story yesterday when I was walkin'
That nigga you shot last year tried to appear
Like he hurtin' somethin'

親愛なるボーンへ
もうちょっとで出所だな。もう一踏ん張りだ
こっちニューヨークは変わってないぜ
ジャンキーがうろうろして、口だけのやつらがのさばってる
なあ、昨日のストリートで見た話だ
お前が去年撃った奴が、また街に戻ろうとしてるぜ
切羽詰ってるみたいだ

* ボーンは銃傷を負わせた罪で収監されていると思われる
* he hurtin somethin → 切羽詰ってると訳したが自信はない

Word to mother, I heard him frontin'
And he be pumpin' on your block
Your man gave him your Glock
And now they run together — what up, son? Whatever
Since I'm on the streets I'ma put it to a cease

マジな話、あいつに出し抜かれたわ
お前のブロック乗っ取って商売を始めるらしい
しかもお前の相棒が、よりによってお前の撃った銃をあいつに渡したんだぜ
あいつらタッグでやっていくつもりらしい。ひどいよな
まあでも、俺がストリートにいるからには、させるかよ

*  昨日の味方は今日の敵、1バースに引き続き裏切りの描写が続く。恋人や友達に裏切られることがよくある世界。ラップの歌詞に金や銃、薬のことばかり出てくる背景には人間不信があるのかもしれない。

But I heard you blew a nigga with a ox for the phone piece
Wildin' on the Island, but now in Elmira
Better chill, ‘cause them niggas will put that ass on fire
Last time you wrote you said they tried you in the showers
But maintain, when you come home the corner's ours

電話使用のことで揉めて、相手を剃刀でカッ切ったらしいな
それでアイランドからエルマイラに移されたってわけだ
大人しくしとけよ、ケツが狙われてるぞ
前、シャワー室で集団レイプされそうになったって言ってただろ
ケツは死守しろ、お前が戻ってくればストリートは俺らのものだ

* 刑務所では電話は人気なので、揉め事の原因になるようだ
* アイランド、エルマイラはどちらも刑務所だが、エルミナの方が管理がキツくて劣悪な環境らしい。

On the reals, all these crab niggas know the deal
When we start the revolution all they probably do is squeal
But chill, see you on the next V-I
I gave your mom dukes loot for kicks, plus sent you flicks

実は、あの裏切り者たちは商売がうまいんだ
でも俺らが戻って巻き返せば、あいつら悲鳴を上げるだろうな
まあ落ち着けよ、次の面会で会おう
お前のママに靴を買う金渡したし、お前に写真も送っといた

*まさにone love

Your brother's buckwildin' in 4-Main, he wrote me
He might beat his case, 'til he come home I'll play it lowkey
So stay civilized, time flies

お前の弟も留置所で気が狂いそうになってるってさ
手紙が俺のとこにきたよ
多分無罪になるんじゃないかな
奴が帰ってくるまで俺も大人しくしてるつもりだ
だからお前もいい子にしてろよ、出所まであっという間だから

* 4-Mainは分からなかったので文脈から留置所と判断した

Though incarcerated your mind dies
I hate it when your moms cries
It kinda makes me want to murder, for reala
I even got a mask and gloves to bust slugs, but one love

でも閉じ込められたお前の心は死ぬよ
お前のママが泣いてるのに俺は耐えられない
時々本当にぶっ殺したくなる
あいつらに弾丸を打ち込むために、マスクもグローブも準備してある
でもお前にはワンラブだ

* 唐突に陰鬱になり面食らう。楽観的に友達を励ました直後に、ショッキングなことをいうのは文脈的に非常に違和感がある。この部分はNASの心の声で実際には手紙に書いていない可能性がある。
* 友達思いの人であっても、むしろ友達思いだからこそ、殺人者になる人がいることを、最後のbut one loveから感じた。

[Verse 3: Nas]
Sometimes I sit back with a Buddha sack
Mind's in another world, thinkin'
"How can we exist through the facts?"
Written in school text books, bibles, et cetera
Fuck a school lecture, the lies get me vexed-er

たまにマリファナ吸いながら、違う世界にいってしまうんだ。
「どうやってこんな地獄みたいなフッドで生きいけばいいだ」
教科書、聖書、学校にしたって嘘ばかりでやってられない。

* マリファナをブッダといっている。これは仏教の瞑想、違う世界にいくこと、space outぼーっとすること、転じて宇宙から出ることなどを連想する。フッドは地獄である、かといって学校・宗教にも納得できない。マリファナでトリップ(旅、ナーミーン?)するしか行き場がない。アルバム2曲目life is bitchの「人生はクソだ、いつ死んでもおかしくないからマリファナでも吸ってハイになるにかぎる。」という退廃的な態度の理解にもつながる。

So I be ghost from my projects
I take my pen and pad for the weekend
Hittin' L's while I'm sleepin'
A two-day stay, you may say I need the time alone
To relax my dome, no phone, left the 9 at home

だから週末はペンとノートを持ってフッドを抜け出す
マリファナを吸いながら寝る
2日間外泊して頭を休めるんだ
電話もない、銃も家においとく

* NASのインタビュー「学校はクソ、教師はクソばっかだし、俺にとってはシステム全体がクソだ。中2で中退して、マリファナを吸い始めた、マリファナが全てだったんだ。自発的に独学するしかなかったんだよ、そうやって学び始めたんだ。」 行き場のない環境と向上心から、ラップへの情熱が生まれた。これは熱い!押しつけられた学びより、自分の中から湧いてくる興味が、とんでもない次元にNASを押し上げた。
* 私もこの曲に圧倒されたから、10時間以上かけてこの記事を書くことが出来た、というか気づいたら書いてしまっていた。自発性の力は凄い。

You see the streets had me stressed somethin' terrible
Fuckin' with the corners have a nigga up in Bellevue
Or HDM, hit with numbers from eight to 10
A future in a maximum state pen is grim
So I comes back home, nobody's out but Shorty Doo-Wop
Rollin' two phillies together, in the Bridge we call 'em "oo-wops"

俺はストリートライフのひどさに疲れ果てた
ストリートで商売してる奴らは精神病院か、刑務所に収容されるのさ
10年ぐらいな。先は真っ暗だ
フッドに帰ると、もうツレはショーティードゥワップしか残っていない
二本の大麻を一緒に巻いてやつと吸った
ブリッジでウーワップって呼ばれてる巻き方だ

* 週末の一人ライミング合宿からNASが戻ってきてると、もう仲間が幼いショーティーしか残っていない。1、2バースで見てきたように、他のホーミーは全て刑務所だ。骸骨になっているものもいるはずだ
* ブリッジはナスの住んでる団地、モブディープも同郷。ちなみにモブディープのプロディジーの自伝では、NASはビビりで、いつも一人でテンパってるキャラだったらしい。この曲のNASのキャラと真逆なのが笑え。
* ショーティードゥワップのネーミングは意味深でショーティーはちび(後述するが12歳)、oo-wopはマシンガンと2つ繋げたマリファナを意味する、フッドでは小さい子供が武装しマリファナを吸っていることを名前に込めている。また、ドゥワップは街角でアカペラコーラスをする1950年代の黒人音楽ジャンルなので、ナスとショーティーが、以降街角で話しあうラップが、現代版のドゥワップだという意味も込めているのかもしれない。NAS恐ろしい子!


He said: "Nas, niggas caught me bustin' off the roof
So I wear a bulletproof and pack a black tre-deuce."
He inhaled so deep, shut his eyes like he was sleep
Started coughin', one eye peeked to watch me speak

ショーティーはいった「NAS。奴らにボコられたんだ。だから防弾ベストと銃をつけることにしたよ。」
そして煙を深く吸うと、眠ったように目を閉じた。
次にゴホっとむせた。奴はこっちを横目で見ながら俺が話すのを待った

* NASの前でかっこつけて大人のように大麻を吸うショーティーだったがむせてしまった、背伸びしていたことが露呈して可愛い。

I sat back like The Mack, my army suit was black
We was chillin' on these benches
Where he pumped his loose cracks
I took the L when he passed it, this little bastard
Keeps me blasted and starts talkin' mad shit
I had to school him,

ショーティーがいつもクラックを売ってるベンチで
黒いアーミージャケットを着た俺は、マックのように座っていた
このクソガキのよこす大麻でハイになった俺は話した
こいつには教えておかなければならないことがある

* マックが誰か分からないが、きっと有名な黒人の軍の長官ではないだろうか。長官ナスが新人ショーティーにフッドで戦闘するためのレッスンを始めるのだ。情景描写が細かくなっており、威厳に満ちたNASが、可愛らしい子供に優しく注意するヴィジュアルがリスナーの頭の中に浮かぶ。語り口が上手い

told him don't let niggas fool him
‘Cause when the pistol blows
The one that's murdered be the cool one
Tough luck when niggas are struck, families fucked up
Coulda caught your man, but didn't look when you bucked up
Mistakes happen, so take heed, never bust up
At the crowd, catch him solo, make the right man bleed

1 周りに流されるなよ。銃声がなる時、まず殺されるのはクールなやつだ
2 運悪く殺されたら、残された家族は破滅する
3 お前の相棒がやられるかもしれない、でも緊急事態なら振り返るな
4 ミスは起こるもんだ、だから注意しろ、絶対しくじるな
5 群衆の中でも標的だけを狙え。目当ての男にだけ血を流させるんだ。 
 
* この節が非常に難しい。どこで区切られてるか分かりにくいので、番号を勝手につけた。間違ってるかもしれないので気がついた方は教えてくれると嬉しいです
*1 ショーティーが防弾ベストと銃を持ったことに対して、重武装してる奴がまず敵から狙われるんだから、重武装するのはやめとけといってる
*3 劣勢の時にやられた仲間にかまうのは悪手、お前もやられる
*4 他はふーんそんなものかなと思うが、ここでずっこける。こんなに意味のないアドバイスある?ミスが起こることを前提に、予めミスが起こらないような工夫をしろとか、ミスしてもいいような保険をかけとけならわかるけど。注意しろて。
*5 無関係な人を巻き込むと、刑が重くなる

Shorty's laugh was cold-blooded as he spoke so foul
Only 12, tryin' to tell me that he liked my style
Then I rose, wipin' the blunt's ash from my clothes
Then froze, only to blow the herb smoke through my nose
And told my little man I'ma ghost
Left some jewels in his skull that he can sell if he chose

ショーティーは、その喋り方と同じように冷たく笑った
まだ12歳なんだ。俺のスタイルに感化されている
俺は服にかぶった灰を払いながら立ち上がる
その時、凍りついてしまった、煙を鼻から出すことしかできない
そしてショーティーに俺はもう消えるぜといったんだ
彼の頭蓋骨に宝石を残してやった。もし彼が望むなら売ればいいだろう

*フッドの過酷な競争環境ではポーカーフェイスで感情を押し殺すことが求められる。ショーティーはNASのハードボイルドなスタイルに心酔しているようだ
*凍りついてしまった理由は不明 この曲の1番のミステリー
私の仮説:”人生の苦しみに狂って、マリファナでハイになったNASが、死んだショーティーの幻影と喋っていることに気づいたから凍った”
NASがI'ma ghost、もういくぜ(ghost:ゴースト・幽霊ではなく、消えることのスラング)と喋ったというのが一般的な解釈だが、ショーティー(my little man)が俺は幽霊だと言った。というダブルミーニングになってる。次のラインで、彼の脳mindではなく頭蓋骨skullと歌っていることが傍証となる。

Words of wisdom from Nas: try to rise up above
Keep an eye out for Jake, Shorty Wop, one love

NASからの知恵のメッセージ 上に這い上がれ
警官に気をつけろ ショーティー ワンラブ

*rise up aboveは上記のごとく、歌ってきた劣悪なフッドの環境から抜け出てくれと解釈するのがしっくりくる
*ジェイクは警官のスラングだが、曲の最後であることを考えると司法制度に気をつけろと、広く解釈したほうがしっくりくる



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