見出し画像

New Zealandがくれた宝もの 7 Friend フレンド

 ロッジに戻ると早速、ウェイテッドニンフを巻いた。
とりあえず、今日一日足りる分だけを巻き終えると、いざブレイカウェイプールへ。
15分で到着。
途中、断崖の上からブレイカウェイプールが一望できる。
今日は2人、先客がいた。
 パーキングには、モーターホームとワゴン車がそれぞれ一台止っていた。
この辺りではキャンピングカーや、モーターホームを見るのは珍しくない。
週末には、皆これをガラガラと引っぱって、山へ、川へと遊びに行くのだ。
モーターホームの中には、女の人がテーブルの上で何やら書きものをしていた。
きっと、ダンナの釣りにつきあわされてやってきたのだろう。
目があったので、ペコリとあいさつをした。
感じのよさそうな人だ。

 川には2人、釣人が入っていた。
一人は迷彩色のシャツを着てテンガロンハットをかぶり、黒い口髭を生やしたイカツイ感じ。
偏光グラスをしているので、余計に怖い。
体が大きいせいもあってか、またロングキャストがパワフルなこと。
なるべく目を合わさないように、コソコソと後ろを通りすぎ下流へ向かった。
 もう一人は、昨日の夕方ここで会ったチェックシャツのお兄さんである。
お互いに分かったので、手をあげてあいさつした。
今日は昨日とうって変わって、天気もいいし風もない。
フライは揃ったし守備は上々。
今日こそなんとか一ぴき釣りたいものだ。

 少し流しはじめたところで、グラハムとウェリントンから来たグラハムの友人が河原に降りてきた。
今日は友人と釣りに出かけることは知っていたが、やはりここブレイカウェイに現われたか。
友人はグラハムよりは20才程若く、40代ぐらいだろうか。
今朝ツランギに到着したばかりだった。
週末をトンガリロリバーで過ごすためだ。
私たちが流すのをやめ、河原にあがると、
「マイ フレンド」と、グラハムは友人を紹介してくれた。
私たちも続いてあいさつし、昨日の釣果を報告した。
チェックシャツとワイルドなお兄さんの下流に入り、総勢6人で並んで釣りはじめた。

 プールのテール部分で、フレンドが早速ストライク。
4.5ポンドと小ぶりだが体高があって、よいファイトだった。
グラハムは「フレッシュランだ。」と、言った。
まだ産卵前の、湖から上がって来たばかりの元気いっぱいの奴だ。
ここではこのフレッシュランと、産卵を終えた後のスペントと呼ばれるトラウトでは、同じ体長でもファイトが全く違うのだ。
 フレッシュランの場合、流心にはいってバーッと上流に向かって走ったり、高くジャンプを繰り返したりと、それはもうドキドキするようなエンターテイメントなファイトを見せてくれる。
流れにのって下流に向かってしまったら、リールをジーッと鳴らしたまま、バッキングラインまで出てしまうこともある。
そこまでいってしまったら、もうほとんどキャッチすることは難しい。
そのまま魚は「さよならー!」と、走っていって、大抵ティペットがプッツンと切れてしまうのだ。
8ポンドテストのティペットが、である。

 ところが、これがスペントともなると話は違う。
スペントは大抵、流れの緩やかなところで休んでいるので、ストライクしてもヨタヨタと寄せられてくるだけである。
頭でっかちで痩せ細り、全体に少し黒みを帯びている。
おまけに、ヒレは擦り切れボロボロと、見るもムザンなカラダなのだ。
 なのでここでは、釣れた魚のサイズを比較するのに、重さのポンドを使うのである。
そのポンド数によって、魚との素晴しいファイトを想像するに至るのである。

 今日は風もなく晴天。
ニンフの重さもちょうど良く、ラインがうまく伸びていく。
超ヘビィーウェイトに比べ、軽い分ゆっくり沈むので、ニンフが底をとるまでに少し時間はかかるが、コンコンと底石に当たっていく様子が、インジケーターの動きからもよく分かる。
ニンフが底石に当たると、インジケーターが少し引っぱられてヒクヒクと沈む。
そのうち重りのニンフから結ばれたほうのフライが、魚の目の前を通り、パクッとくわえられると、インジケーターはスコッと水中に消えるのである。
あとはその時を待つだけなのだ。

 ワイルドなお兄さんがストライク。
体が大きいだけあって、魚とのやりとりも不安そうなところがない。
ロッドを高くホールドしたまま、リールにラインを巻きとっている。
ファイトしたあと、ずるずると河原に魚をあげてキャッチ。
見るからに釣りがうまそうな風貌だったが、やっぱりうまかった。
私は指をくわえて見ていた。

 グラハムとフレンドがランチタイムにしたので、私たちも河原に上がり、一緒にお昼をとることにした。
メニューは、今朝ロッジで作ってきたサンドイッチだ。
全粒粉パンにマスタードをぬり、レタス、トマト、スモークハムをはさんだもの。
それに、ドライフルーツいっぱいのクッキーとバナナ、ポットにいれてきた紅茶である。
 ニュージーランドのパンは、とてもおいしい。
食パンは白だけでなく、胚芽パン、レーズンパン、黒パンと種類もいろいろ。野菜や果物、肉、チーズやヨーグルトなどの乳製品も安くておいしい。
果物は本当に種類が豊富で、リンゴなどは全体に小ぶりで形も揃わないし、虫くいもあったりするが、すっぱくて甘いはっきりした味だ。
「リンゴって、そういえばこんな味だったっけ。」と、なつかしい感じすらする。
どれもバラ売りで、好きなだけ買うことができる。

 グラハムとフレンドもやはり、サンドイッチにクッキーのランチ。
いい大人が、甘いチョコレートやら、クッキーやらをおいしそうに頬ばっている姿を見ると、カルチャーショックを受ける。
マーケットで売られているクッキーはどれも柔らかく、チョコレートチップやドライフルーツのたっぷりつまったものなど、よりどりみどり。
グラハムは空腹時のために、チョコレートヌガーまで備えている。

 ぽかぽかと暖かいので、セーターを脱いだ。
ポットのお茶をすすっていると、チェックシャツのお兄さんがストライク。
ファイトしている。
あややや、のんびりしている場合ではない。
身仕度を整えて、またもう一度下流から入った。

 3時頃、空が曇り風が強くなった。
しばらくして止んだかと思うと、とたんに流下物が多くなった。
風に吹かれて、川岸の草から昆虫たちが川に落ち、流されてきたのだ。
パシャッと流心で魚がはねた。
魚が浮いてきたようだ。
漂うほうのフライをフックサイズ10番のグローバグから、14番のヘアーズイアーニンフに替えた。

 キャストして流すとすぐに、インジケーターが消えた。
力一杯ロッドをあおり、あわせる。
ニブイ重さが伝わってきた。
前回、失敗しているのでもう一度あわせておこうと、一瞬ロッドを前にねかしてしまった。
ラインがたるみ、フックがはずれてしまった。
「うー。」
隣でシンイチもストライク。 が、すぐにバラしてしまった。

 グラハムとフレンドは夕方になり帰っていった。
いつの間にか辺りは暗く、セーターなしではとてもいられない寒さになっていた。
プールには、私たちだけが取り残されてしまった。

8.Fishing guide Graham へつづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?