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【読書×体験】「板上に咲く」×棟方志功をめぐる

旅には、たまに復習回みたいなことが用意されていることがあるなと、時々私は思います。

1.何も知らずに出会った棟方志功

昨年春、私は一人旅で富山に来ていました。
自分の中で「ミュージアムブーム」がきていたので、特に展示内容も調べずに富山県美術館に足を運びました。
そこで、棟方志功という芸術家の特別展示がされているのを知って、そのまま入館しました。

いつも、美術館に行くと、「何も知らない」を観ることが多いです。
なんせ、アートに関して特に何の知見もない人間です。

棟方志功のことも、いつものように、何も存じ上げない状態での鑑賞でした。

入口にあった、棟方志功展の幕には、にっこり笑ったおじさんが印刷されていて、恐らくあの人が棟方志功だろう、くらいの勢いでした。

このおじさんが「世界のムナカタ」だと
私が気付くのは、1年後です。

展示の感想は「強い!!」でした。
墨の色が強い、絵が強い、目が強い、印象が強い、そして、よくわかんないけど、「棟方志功って強ぇぇな!!」という、悟空でも言いそうな感想でした。

ただ、ひとつの作品を観た瞬間だけ、足が止まり、息が止まり、思考が止まりました。

な、なんだこれ…

うまく言えないけど、完全に心をもっていかれました。
だるまさんが転んだ状態で止まること、恐らく5秒ほど。
そのあと、やっと息をしたくらい。

展示全般、撮影禁止になっていましたが、その作品は撮影しても良さそうな表示がありました。

だけど、完全に我が吹っ飛んでしまってたので、冷静になるために、近くの係員の方に「あの、これは撮っても大丈夫ですか?」と確認を取りました。

係員の方は、私のだるまさんが転んだを見ていたのでしょう。
笑顔で「えぇ!大丈夫ですよ!」と教えてくれました。

その作品がこちらです。

棟方志功「華厳松」

当然ですが、写真じゃ伝わらんのです。
でも、今見てもあの時の感情を、私は鮮明に思い出すことができます。

写真におさめたあと、誰かに言いたくて、先ほどの係員さんに
「あの、なんか、この作品めっちゃすっごいですね。めっちゃ大きくて、めっっちゃ強くて!」と、今度はルフィみたいな感想になってしまいました。

係員さんは、南砺市にあるお寺の所蔵のものですよと教えてくれました。
お寺に、これが!!!
イメージだけで、感動してしまうレベルまで、私は陥落していました。

2.急遽、棟方志功をめぐる旅になってしまった

「華厳松」という襖絵にすっかり魅せられて、翌日、所蔵されている南砺市の光徳寺に急遽行きました。

「ここに、『華厳松』があるのか!」という勝手なイマジネーションのもと、寺内をまわりました。
そうすると、お寺の人に、棟方が住んでいた家も近くにあるからそっちも行ってみるといいと教えてもらい、向かいました。

この、ネット時代に、旅先で出会った人々に導かれて、私は棟方志功をめぐりました。なんというか、熱量はそこそこに、「せっかくだから」くらいの感じで。

それは「棟方志功記念館 愛染苑(あいぜんえん)」の隣にある「鯉雨画斎(りうがさい)」でした。

襖も便所も落書きのような感じでした。

トイレの壁も床もこのレベルでした。

「お、落ち着かん!」
そんな家でした。ガイドの女性も、本当かどうか分からないけど、棟方志功バナシをしてくれ、私は気が済みました。

3.「板上に咲く」を読んで、復習をしてみた

あれから1年。
特に、思い出すことも少なかったけど、原田マハ著「板上に咲く」が発売されたと知って、すぐに棟方志功の話だと分かりました。

なぜなら、表紙があの、強い板画だったから。
一度見たら、忘れられない「強さ」。

物語は棟方志功の妻・チヨ目線で描かれた、「世界のムナカタ」になる前の話です。

何者でもなかった棟方がゴッホに憧れて、「日本のゴッホになる!」と言って芸術の世界に飛び込んでいく、その信念に付き従う夫を、貧しいながらも支える妻。

よくありそうな設定のようですが、作品を観た後だからか、読んでいても、棟方志功の「強さ」や「大胆さ」に納得しました。
そして、物語の中に出てくる作品を、私はすでに鑑賞しているのです。

妻・チヨは棟方が作品に使う墨を、なんと40年間毎日すり続けたとのこと。
あの作品の強さ、私が感じた墨の色の強さは、棟方志功の強さではなく、貧しい中でも懸命に支え続けた妻・チヨの強さでもあったのです。

…もうちょっと、ちゃんと鑑賞しておけばよかった!!

物語は、富山での生活が始まるところで終わっています。
ちょうど、私が1年前に知った棟方志功と、小説の中の棟方志功がつながった形になりました。

本を読んでる中で、あの棟方一家が住んでいた「鯉雨画斎(りうがさい)」が、なぜあれほど落書き状態だったのかというのも、理解できました。

描かずにはいられない人だったのです。

そして、ガイドの女性が話してくれた棟方バナシも、本を読んでようやく、実際の棟方に近い話だったと信じることができました笑。

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旅には時々「復習」がついてきます。
それは、「テレビで紹介されている絶景を見たことがある」とか「雑誌に載ってる美味しいものを食べたことがある」とかよりももっと、「どうにも心が震える瞬間を、違う形で再び感じる瞬間がある」ということです。

これはきっと、家にいたんじゃ、日常を過ごすだけじゃ、なかなかまわってこない復習です。

またきっと、棟方志功をなぞる復習回があると思って、楽しみにしたいものです。

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