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表現し、鑑賞し、考える。:地域に根付いた施設との「アート」と「子ども哲学対話」のワークショップ

2021年7月17日(土)、障害の有無に関わらず、地域で暮らす全ての子どもたちが参加しやすい場を目指した「アート」と「子ども哲学対話」の2つのワークショップを開催した。

今回のワークショップは、子どもの孤立と貧困を防ぎ、健やかで豊かな生きるを紡ぐための活動をする「NPO法人PIECES(ピーシーズ)」とのコラボレーションで実現。

THEATRE for ALL初めての試みとして、THEATRE for ALLファシリテータースクールの卒業生とPIECESの子どもが孤立しない地域づくりのプログラム卒業生がタッグを組み、ワークショップを設計し、ファシリテーターに特別支援学級の教員の経験もある、「こども哲学おとな哲学アーダコーダ」の前田有香さんを迎えた。

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会場は東京都多摩市にある、重症児者向け児童発達支援・生活介護事業「+laugh(アンドラフ)」。地域の様々なモノやヒトとのコラボレーションを目指した事業所で、駄菓子屋も開き、施設利用者さんと一緒に運営している。この日もワークショップ中、駄菓子を買いに来る近所のお客さんの姿が何度も見られた。

第一部:「花火をつくってみよう!」アートワークショップ

この日のアートワークショップのテーマは、「花火をつくってみよう」。
ボンドと絵具を混ぜて、黒い紙に手や筆で下絵を描き、その上から毛糸や折り紙、フェルト、モールなど様々な手触りのものを置き、オリジナル花火をつくる。

手触りのあるものを使って手の感覚を刺激することは、脳の体操になり想像力が刺激される。障害がある・なしに関わらず、子どもたちがそれぞれの感性でモノの感触や作品づくりを一つの場で共に楽しめたらと、環境を設定。当日は、2歳児から小学生、障害児、大人まで、たくさんの方が参加した。

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「え、指でやるの?」
はじめは指でボンドに触ることに抵抗がある子もいたが、やるとその独特の感触の気持ち良さに気づく。

「ちょっと冷たいね」
「おりゃあー!」
「うわあ、すげぇ!!!」

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素材との関わり方もどんどんダイナミックになっていき、指に少しつけるくらいだったボンドを両手いっぱいにつけて、ドン・ドン・ドン!

「これ、花火打ち上げてるの!」と画用紙いっぱいに大輪の花火が生まれていく。

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その隣りでは、大人と一緒にイメージを膨らませながら「ちょうちょ」をつくる子もいれば、身体を支えてもらいながら直感で作品をつくる子も。

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それぞれのペース、それぞれのやり方で。
色とりどりの花火が、部屋いっぱいに広がった。

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第二部:子どもたちと映像を使った哲学対話

『哲学って、みんなが不思議だなと思ったこと、なんでだろうと思ったことを考えること。今日はみんなと映像作品をひとつ見てから、哲学対話をしたいなと思っています』

前田さんのそんな声かけから始まった、8名の子どもたちとの哲学対話の時間。まずは、THEATRE for ALLで配信中の作品『エレクトロニコス・ファンタスティコス!」〜本祭I:家電雷鳴篇〜』の日本語字幕(かんたん版)をみんなで鑑賞。

「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」は、アーティスト/ミュージシャンの和田永さんを中心に、役割を終えた電化製品を新たな電子楽器へと蘇生させるプロジェクトで、今回、子どもたちが鑑賞したのは、大型やぐらを囲み、家電の祭ばやしにのって踊る《電磁盆踊り大会》を決行した映像作品だ。

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「これなんの楽器?!」
「テレビじゃない?」
「エアコンと扇風機もあるよ」
「えー。なんでこんな音がでるのかな?」
「すげえ!!」
「なんか逆につまんない」

初めて出会う表現と楽器を、面白がる子、違和感を覚える子。
子どもたちの反応はさまざまだ。

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作品を観終わったら、みんなの顔が見えるように円になり、哲学対話のルールが共有された。

⒈人の話をよく聴くこと
 誰かが話している時、最後まで聴くこと。
 よく分からない時に質問するのも、よく聴く ことに含まれる。

⒉誰かがイヤな思いをすることは言わない
 何を言ってもいいけど、誰かが傷つくことは言わない。

⒊ひとりずつ喋ろう
 喋っている人が、次喋る人を決める

前田さんの『どんなことを思った?』という問いかけから対話がスタート。

「あれ、どうやって音を鳴らしていたんだろう?」
「砂嵐じゃない?」
「物と物がぶつかったら音するじゃん。ほらこうやって」(手で床を叩く)
「でもあんな変な音にはならないよ」
「改造したんじゃない?棒(弦)みたいなのがついてたじゃん」

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話題はそこから、今日聴いた音楽はなんだったのか?という問いへ広がっていく。

「音が出てたけど、あれは歌とは言わないよね」

『じゃあ、なんだったんだろう?』
「・・・曲」

『歌と曲の違いはなに?』
「歌は人がうたうから歌で、曲は歌うのもあるけど弾くのもある」
「みんな同じだと思う」
「ピアノで伴奏していて歌うのが曲だよ」
「そうそう、楽器使うのが曲!」

『じゃあ今日の扇風機とかは楽器?』
「あれは、オリジナル楽器」

『それは楽器とは一緒?』
「楽器は人が作ったもので、オリジナル楽器は自分で作ったもの。今広まってないものがオリジナル楽器」

「じゃあこれも楽器かな?」と、持っていたペットボトルを揺らして音を出す、前田さん。

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「楽器だと思えばなんでも楽器になるから楽器じゃない?」

「楽器は綺麗な音やいい音がでるけど、そこら辺のものを叩いたり、揺らしたりして音を出すのは普通の音しかしないから違う」

「わたしも違うと思う。楽器を演奏するとかって言うけど、それは演奏じゃない。5人とか大人数で弾いてするものが演奏だと思うんだけど、今日のもいっぱいの人でやっていたけど、激しいのは演奏ではないと思う」

『さっき観た映像は演奏じゃない。じゃあ、何だったのかな?』
「音楽」 
「ライブ」 
「バンド」

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ファシリテータースクール卒業生の根木が子どもたちに問いかける。

『みんなの話を聴いていて、いい音という言葉が気になって。いい音ってなんだろう?いい音とそうじゃない音があるのかな』

「今日観たのは、いい音じゃない。ガラスを割った音とか、床を叩くのと一緒」
「激しいのとか、大きな音はいい音じゃないよね」
「ピアノだって激しく押したらぎーーーーってなるけど、柔らかく押したら柔らかくていい音になる」

『いい音は、優しい音ってことかな?』
「そう思う」
「んー、わかんないなあー」
「強さと弱さ。さっきのも、弱く弾いたら綺麗ないい音になるかもしれない」

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今日の哲学対話はここまで。

「楽器ってなんだろう」
「曲と歌の違いとは」
「いい音ってなんだろう」

子どもたちの中から生まれた、答えのない様々な問い。鑑賞した作品をベースに広げられた対話だからこそ、はじめて出会った問いや一人ひとりに生まれた哲学があったのではないだろうか。

ワークショップ終了後、参加していたひとりの子が小型の扇風機を前にこんなことを言っていた。

「これも楽器になるかな!」

新しい世界に触れ感じたことや対話の中から掴んだ問いは、作品を観て終わりではなく、ここから日常に持ち帰られて、カタチを変えながら子どもたちの中に残っていくはずだ。


執筆:三輪ひかり  撮影:星 茉里

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