見出し画像

記憶を呼び起こす、叙々苑のアイスクリーム

1月末のことだが、叙々苑初デビューを飾った。
叙々苑は地元香川県にはなかったので、存在を知ったのは大学で上京した18歳の時だった。

憧れのキャンパスライフに浮足出す女子大学生たちと、彼氏または付き合う前段階の異性とのデートで、どこに行きたいか、という話をしていた際に、「叙々苑で焼き肉を食べたい」と話す女子が多かった事が記憶に色濃く残っている。それなりの額なので、相手のおごりで、という注釈付きだった。叙々苑で焼き肉を食べる、という行為は一種のステータスのようなものなのだ。当時の大学生にとってはバイト代で行くには高すぎる、だけれど一度は行ってみたい、そんな憧れの場所だったようだ。
その後、叙々苑を見かけるたびに、ああ、叙々苑か、と大学生の頃にした会話が頭をよぎるうちに、あたかも私は叙々苑に行ったことがあるような気持ちになっていた。

しかし、2024年1月末、あいまいな記憶はきっぱり打ち破られることになった。きっかけは、叙々苑に行くことになったからだ。

中の良い上司や同僚たちと久しぶりに集まることになり、上司から「みんな何が食べたいですか。特に意見なければ焼き肉にします」と連絡があった。焼き肉なんてウェルカムでしかないので、みんなでだんまりしていたところ、上司から叙々苑を予約しました、と連絡がきた。
最高、嬉しすぎる、と気持ちが昂ると同時に、そういえば叙々苑にいつ行ったっけ、というか私って行ったことあったっけ、とふと頭に浮かぶ。様々な焼き肉屋に行ったが、その中に叙々苑はあっただろうか。行ったことはあるような気がするが、わからない。事実確認は当日に持ち越そう。そう思い、叙々苑の日を迎えた。

当日、銀座のビルの上の階に位置する叙々苑に足を踏み入れた。看板やロゴをこれまでさんざん見てきたせいか、やはり来たことがあるような気もする。しかし、その瞬間は訪れた。

食事が終わり、デザートを待っている間、皆で談笑していると、上司が「叙々苑はいつも最後にアイスが出るけど全然おいしくないよなあ」と言った。その瞬間、あ、私、叙々苑に来たことがない、と記憶の湖に雷が落ちた。食事の最後は必ずデザートでしめる、これは私の鉄則なのだが、もし無料でデザートが提供されたのだとしたら、「無料でデザートを提供してくれる、最高の焼肉屋」としての烙印が押され、一生忘れることはないはず。つまり、この記憶がないということは、私は叙々苑に来たことがないのだ。

すっきりしたと同時に、アイスクリームが最後に提供されるという事実を知らず大量にデザートを注文してしまったことを少し後悔した。そして叙々苑ユーザーの上司にも、知ってたならもうちょっと早く言ってよ、というかなんで止めてくれなかったのだ、と心の中で少し攻め立ててしまった。一方で、今日の上司は皆に白ごはんをすすめたり、おかわりはいいのかと聞いてくれたり、完全に親戚のおじさんみたいなスタンスでいたので、デザートいっぱい食べたーい!という私の純粋なリクエストを暖かく見守ってくれていたのだろう。

ちなみに注文したのは、デザート盛り合わせ(杏仁豆腐と正方形型のビュッフェとかでよくある小さいケーキ3種×2)、くるみ餅(だけかと思いきやここにも杏仁豆腐)。ちなみにこれを一人で注文したのだから恐ろしい。結果的に食べきれずというかそんなにクオリティが高くなく、みんなでシェアして食べた。
また、上司のおいしくないというアイスクリームだが、なんだかんだこれが一番おいしかった。抹茶かバニラか選べて、抹茶を選択したが、普通においしく、焼き肉のあとはアイスクリームでさっぱりしめるのが正解だよなあ、としみじみ感じた。

そんなこんなで、アイスクリームのおかげで、約10年近く改ざんされていた私の記憶が修正された。人の記憶とは曖昧なものだ。けれどふとした瞬間に事実がわかったりする。人生って何が起きるかわからない。たかが叙々苑、されど叙々苑。


この記事が参加している募集

おいしいお店

一度は行きたいあの場所

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?