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デビュー作が最高作となったオペラ作曲家たち③ シャルパンティエ

シャルパンティエ『ルイーズ』(1900年)

ローマ大賞受賞のエリート シャルパンティエ

イタリアオペラが2つ続きましたが次はフランスオペラから紹介しましょう。

作曲家シャルパンティエ(1860~1956)はパリ音楽院で学び、27歳の時にフランス国家が授与した奨学金付留学制度である『ローマ大賞』を受賞しました。そこでローマに滞在中に作曲を始めたのが『ルイーズ』です。

このオペラは今回紹介した他の作品と違い、日本での知名度はさほど高くありません。ですがパリでの初演は大成功で、その年だけでも100回の上演を重ねたほど人気がありました。
今は全曲を聴けるメディアも少なく、ぜひもっと人気が出てほしいオペラです。

シャルパンティエは音楽院の設立や自作の指揮などの活動を続けながら95歳という長寿を全うします。ですが『ルイーズ』以降には目立った作品を残さず、このオペラの続編である『ジュリアン』も成功を収めることはありませんでした。

パリの庶民が主人公のオペラ 『ルイーズ』

『ルイーズ』は19世紀の最後の年、1900年にパリで初演された全4幕のオペラです。
シャルパンティエは台本の草稿も自身で書きました。彼には自らの時代をオペラで描こうとの意図があったのです。
主役の男女以外は名前も与えられていない庶民であり、むしろオペラには不似合いな貧民だったりもします。

何よりも革新的だったのは、それまでの保守的階層が否定的に捉えていた“自由恋愛”を前向きに描いていることです。彼は当時のパリの空気と若者たちのジレンマを描き出すために、“いかにもパリらしい”けだるさと熱に浮かされたような音楽を『ルイーズ』に与えました。

物語は自称詩人のジュリアンと恋仲のお針子ルイーズが保守的な両親のいる家庭から出ていったしまうというだけのもので、その合間に直接彼らとは関係のないパリの庶民たちが舞台の上を淡々と立ち回ります。
大きな見せ場はルイーズが職場で同僚のお針子たちに“恋煩い”をイジられる場面と、ボヘミアンたちのドンチャン騒ぎでルイーズが“ミス・モンマルトル”に祭り上げられる場面くらいでしょうか。
それにこのオペラで唯一有名なアリア「その日から」。
これは希望と哀愁が入り混じった何とも美しい曲です。

“パリ”が誘惑し、家庭に“革命”が起きる 『最後の場面』

今回紹介するのはこのオペラの最後の場面です。
「もう家を出て行かないでくれ」とせがむ父親に絶望したルイーズ。
すると突然、街の喧騒がまるで彼女をパリへと誘惑する妖精たちの歌声のように聞こえてきます。

「ああ、綺麗!綺麗!」

遂に気持ちが爆発した彼女は「パリ!私を助けて!この牢獄を壊して!」と叫んでしまいます。
熱狂と陶酔感に取り憑かれたルイーズを華麗な音楽が表現する素晴らしい場面です。

怒った父親が「出ていけ!」と叫ぶと、ルイーズは外に駆け出してしまいました。すぐに父親が追いかけますが、もうルイーズはいません。
苦々しく「おお、パリ!」と父親がつぶやいてこのオペラは終わります。

一見どこにでもいそうで身勝手な親不孝娘“ルイーズ”という役は、それまでのオペラには似つかわしくないと考えられていました。
ですが時代は既に20世紀に入ろうとしています。
幾度となく革命を経験してきたパリっ子たちは、抑圧的な家庭に対して精一杯の“革命”を起こしたルイーズに拍手喝采を送ったのです。



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