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Official 髭男dismの新作に見る、最近の欧米での「売れるバンド」との共通点

どうも。

先週の金曜に書きかけて完成しなかった記事を、今日書き上げたいと思います。

先週の今頃、実はこれをよく聞いてました。

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はい。むしろ僕より皆さんの方がご存知ではないかとも思います。Official髭男dism、ヒゲダンですね。彼らのアルバム「Editorial」。これを実は僕も、地球の裏側ではよく聴いていました。

 いや〜、これ、僕自身も聴いてびっくりしたんですけど、いいですね!正直、ここまで完成度の高いものを作ってくるとは予想してませんでした。

 もちろん、彼らの前作「Traveler」が大ヒットしてロングセラーになってたことなんかは知ってて、それで僕も「日本とロックの65年」の最終章でも書いていたりもしました。そういうことで発売日を知って楽しみにしてはいたんですけど、「あれっ?こんなんだったけ!?」と正直なところ驚きましたね。

 だって、前、彼らの曲をチラッと聞いてたときと、なんか感触が違ったから。そのときは「ああ、こういうのが売れてるわけね。悪くないんじゃない?」くらいの印象だったんですけど、もう、今回のアルバムはのっけから勝負曲の連続で耳をつかんで離さないです。そのテンションのたたみかけ具合がすごいなと思ったんですよね。とにかく、1曲1曲の密度が妙に高いですね。

 で、これがオリコンの1位とかなんでしょ?素晴らしいことじゃないですか。僕自身が日本のオリコンで1位とるようなアルバムで夢中になったのって、たぶん椎名林檎のセカンドアルバム以来ですよ。ということは20年ぶり?もちろん、その間にもいいヒット・アルバムは出てるんでしょうけど、僕も日本離れて10年以上経つのでその間に細かいものは聴けてはないですけど、マスに新しい刺激に満ちた音楽が浸透しているというのは素敵なことだと思います。

 あと、このヒゲダンのアルバム聞きながら思ったことなんですけど

 昨今の欧米の、数少なくなった「ロックで売れるアーティスト」に共通する要素が見られる!

 自分で言うのもなんですけど、これはすごく面白い気づきだなあと思いました。

 この辺ですね。

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The 1975、マネスキン、そしてパニック・アット・ザ・ディスコ。こうした、今のロック界におけるセールス的なサヴァイヴァーたち。こういう人たちと根っこの部分で共通するものを感じたんですよね。そのことについて話していこうと思います。

ヒゲダンと彼らの何が似てるか。全部で3つあるんですが、まずひとつめ。

①インディ・ロックが理想とする音楽ルーツで真っ向から勝負していない

 まず、これが大きな特徴ですね。

 2000年代以降のインディ・ロックが、今振り返るとよくなかったのかなあと思うところは、「かっこいいんだけど、サウンドの自由が徐々になくなっていったこと」、ここがあると思います。ロックンロール・リバイバル、ポスト・ロック・リバイバル、ピッチフォーク以降のUSインディ。どれも、音楽を深く聞き込んだ人たちが主導になって行われた、いわば優等生的な感じもするものだったように思えます。

 このテのサウンドの場合、とりわけラウドロックとの住み分けがはっきりするようになって、よりこうした傾向が強まったように思います。まあ、ラウドロックの場合、前も話したウッドストック99みたいなマッチョなミソジニー問題があったので、そこと差別化してバンドを文科系っぽく売っていかなくてはならなくなった事情というものもあったと思いますが、それがゆえにどこか「よしとされる」ものが固定されてしまった印象が否めなかったと思います。

 欧米のインディ・ロック・ファンとFacebookでやりとりしてた経験からもわかるんですけど、彼らの中でどこか新しく出てくるバンドにヴェルヴェット・アンダーグラウンドとかジョイ・ディヴィジョン、ピクシーズ、ペイヴメント、まだまだ他にもありますが、こうした「これぞインディ・ロック」な雰囲気を求めてしまう空気がいつのまにかファンのあいだで出来上がってしまった。そうなると、結果的に、「センスいい音楽だけど、どれも似たり寄ったりだね」ということになりがちなんですよね。2010sに飛び抜けて売れるインディ・ロックバンドが生まれにくくなっていた背景に、僕はそれがあったと思ってます。

 そこにいくと、The 1975、マネスキン、PATD、どれもそれにあてはまらないでしょ(笑)?

 とりわけ、欧米のインディ・ロックファンのあいだでThe 1975って評価が真っ二つで。彼らを「ポップ」といって批判する人、多いんですよ。この理由を僕は、彼らがそういうインディ村が好むタイプのアーティストをルーツとして勝負しないからだと思ってて。1975の場合、表に出しやすい音楽性ってプリファブ・スプラウトとかブルー・ナイル、インエクセスとかでしょ?80sのニュー・ウェイヴの中でも過小評価されがちなとこですよ。そういうところがわかられてないんですよね。

 あと1975の場合、元々の出自がエモだからインディ・ロックのファンが嫌ってるところもあるんですけど、その点でいえばマネスキン、PATDなんかも思い切り偏見で見られますよね。マネスキンは、本当はアークティック・モンキーズとかフランツ・フェルディナンドの影響を受けているにもかかわらず見かけだけでハードロック、グラムロックだと思われて「インディロック外」だと勝手に判断されている。PATDにいたっては、2000sにモロにポップ・エモの代表的バンドだったわけでしょ?だから、その意味で、インディ界隈ではあまりいい印象を持たれてません。

 でも

 そういう彼らの方が結果、ロックの中で目立って売れてしまっている。

 そこが、現在の皮肉なところです。

 で、面白いことに、ヒゲダンに僕は今いってきたことと同じ要素をみます。

 さっき言ったように、「Traveler」、そんなにピンときてなかった、って言ったでしょ?それはやっぱり僕の中でどこか、「この人たちの音楽ルーツ、欧米のインディ・ロック的なものってあんまりないでしょ?」と思ってたところはあったからではあります。しかも、あんまり洋楽的な要素さえ感じられなかったんですよね。そこがちょっと引っかかって、入れなかったのかもしれないと思ってます。

 ただ、今回の「Editorial」で、「批評的にほめられやすいルーツを持っていないから、なおさら面白かったんだな」と思えるようになったんですよね。

 今度は、それがどういうことなのかについて語っていきましょう。


②非ロック的な要素を注ぎ込むのがうまい

 ここもすごく、ヒゲダンと、例に挙げた洋楽3バンドは巧みなんです。

 まず1975からいきましょう。彼らの曲には

こんな風に、トロピカル・ハウスやネオソウル、ときにはトラップも導入したりしますけど、こういうR&B/ヒップホップ、エレクトロのはやりの要素を入れるのがすごく上手いんです。この対応がうまいからシーンで生き残れてかつ、わかる批評家には絶賛されて今に至るわけです。

 続いてマネスキンも

一見、「古き良きロック黄金時代の正統派」のように見せかけておいて、実はエイミー・ワインハウスやカニエ・ウェスト、ビリー・アイリッシュをカバーする器用なセンスがあります。このほかでもマイリー・サイラスとか、あとレゲエも上手く歌えるし、ラップもかなりうまいんですよ、ダミアーノって。こんな感覚はグレタ・ヴァン・フリートにはない要素です。マネスキンはただ「古くさいから人気がある」わけでは全くないことは認識しておくべきだと思います。

 そしてPATDは

カムバック・ヒットをはじめた2015年あたりから、トラップとジャズをサウンドに導入するという、ものすごく不思議な路線に行ったんですよね、この人(笑)。ただ、これが契機になってロングヒット。次のアルバムからは全米シングル・チャートのトップ10ソングが生まれるなど、このアプローチが好まれてアメリカのロック界屈指の人気者になっていたりします。

 で、そこでヒゲダンなんですけど、シティ・ポップ・ブームに食い込むわけですから、元からソウル・ミュージックの咀嚼はうまいわけです。

 とりわけ僕、彼らの初期のサウンドから「男版aiko」みたいな要素も感じていたからなおさらだと思います。aikoもソウルとかAORをルーツに都会的なサウンド・エッセンスをオルタナ以降のバンド・サウンドに乗せるのがうまいですから。ヒゲダンにもそういうところはあったと思うし、「Traveler」というアルバムに関して言うなら「日本で典型的にシティ・ポップだと認知されやすいサウンド」をとりあえずやってみた作品だと思います。

 ただ、今回の「Editorial」がいいところは、そこだけで満足してないところですね。

この曲あたりを聞くと、さっき言った1975のトロピカル・ハウスっぽい要素を交えたR&Bテイストだったり、あと、アルバムの中にも「それ、フランク・オーシャンとかジェイムス・ブレイク、聴いた?」と思われるような、「学習」した痕跡があって、そこがサウンドをグレード・アップさせているんですよね。このあたりが、よりジャンルレスでハイブリッドなサウンドを生み出す原動力になっているというか。

 そして、もうひとつ大事な共通点があります。

③高度な「うた」に結びつける力

ここがある意味、一番大事なんですが、ここにあげたどのバンドも、この点が優れているんです。

 1975の人気の秘密って、やはり多様な音楽のサウンドを持ちながら、それをポップでコンパクトな楽曲に収めるのが抜群にうまいところにあります。そして、

メロディ・センスもさることながら、マティ・ヒーリーの甘い歌声が巧みに武器になっていたりもします。

 さらにマネスキンも、ヴォーカルのダミアーノ、低めのガラガラ声なのでダミ声と呼ぶ人もいるんですけど、声がとにかくでかく、エモーションの込め方が抜群です。

こうやって、ソウルフルに歌い上げるバラードもすごくうまいですしね。

 そして、僕個人的にヒゲダンに一番近いのはPATDだと思っていて

この2曲なんて雰囲気、そっくりですからね(笑)。

 というのも、シンガーのタイプ、似てると思います。ブレンダン・ユーリーも、藤原聡も。両者ともにかなりテクニカルなシンガーで、一般人がカラオケで歌うには非常に苦労するタイプというか。サビに入っての「これでもか!」ってくらいのグイグイとくるキーの上げ方なんて特にですね。

 それも、そのはず

PATDのブレンダン、有名な特技がありまして。それが、クイーンのかの「ボヘミアン・ラプソディ」をひとりで歌い切る、というものです。

 藤原聡の声を聞いてると、「彼もひとりボヘミアン・ラプソディ、できるんじゃない?」と思う瞬間がありますね。

 とくに

このあたりのヴォーカル・テクニックは半端ないですね。日本人の歌で、僕がこれまで記憶にないレベルの難易度だと思いましたね。

 全体のキー設定が高めの上に、サビの後半で、1小節の中で急にキー上げたりするでしょ?あれ、ブレスの問題とかあって一番難しいとこなんですよ。これ、それこそフレディ・マーキュリーがよくやる手法なんですけど、この歌い方ができるんですからね。あと、歌い終わりの一番高いキーでシャウトするやつですね。あんなの無理ですね(笑)。いちばん喉がいたくなる最後のところで、ファルセットなしで一番高いキーだすわけですからね。しかも、あれ、3オクターブ目に到達してるんじゃないかな。だいたい、うまいR&B系のシンガーでも2オクターブ目のA(ラ)とかB(シ)を出せたらすごくうまい感じなんですけど、その音域は超えてますね。

・・と言った感じでしょうか。

そんなこともあり、ヒゲダン、すごく2020年代の今、鳴らされるべきバンド・ミュージックだな、という気が僕はしています。















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