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アーティストを「全盛期」でなく「一生規模」で見る時代に

どうも。

今日も、一昨日に語ったスパークス絡みのことを語りましょう。

僕がスパークスに注目し始めたきっかけというのがありまして、それは2017年に彼らが発表したアルバム「Hippopotamus」 が43年ぶりの全英トップ10入りを果たしたことでした。

その頃、BBCラジオよく聞いてたんですけど、この「Edith Piaf」って曲がものすごいヘヴィ・オンエアだったんですよ。だから「何事?」と思っていたら全英トップ10だったというね。

 この件は、僕の職業的にも、「アーティストの評価の仕方、変えないといけなくなるな」と思った決定的な出来事でした。

 実はそれまで、音楽アーティストの評価の仕方って、「全盛期にどの時代のシーンに所属して、そこで代表作を出したか」だったんですけど、アーティスト寿命が60代、70代と伸びるに従って、「一生のうちにどこまでの仕事をしたか」に移行してきてるような気がするんですよね。

 これは他にも事例がありまして。

例えばニック・ケイヴですよね。彼は80年代の名作映画「ベルリン天使の歌」にパフォーマンスが紹介されてるような存在ですよ。世代的にはザ・スミス、キュアー、ニュー・オーダー、デペッシュ・モードと同世代。この辺りは今も「ニューウェイヴ四天王」と目されてますけど、申し訳ないですが、ここ10数年、新作で話題になってはいないんです。そこに引き換えニック・ケイヴは、2010年代からが批評的、商業的なピークで、今やフェスのヘッドライナー・クラスです。2008年の「Dig! Lazarus Dig!」「Push The Sky Away」「The Skelton Tree」「Ghosteens」、いずれもその年の年間ベストで上位評価で、この間、イギリス、オーストラリア、ドイツ、イタリア、北欧、ほとんどの国のアルバム・チャートでトップ5入ってますからね。不思議なものですが、今、80sニュー・ウェイヴでU2の次に売れているのが彼です。

 これだけじゃありません。他にも例がありまして。

デュラン・デュランも見事ですよ。「80sMTV時代のアイドル」だと思ってるでしょ?ところが、この10年、2011年の「All You Need Is Now」が全英11位に返り咲いて以降が見事です。2015年の「Paper God」が全英5位の全米10位。昨年の「Future Past」が全英でエルトン・ジョンとラナ・デル・レイと首位争いしたし末で3位、全米28位もセールスだけで見たら3位でした。この功績が認められたからなのか、去年の末になって突然彼らはロックの殿堂に初ノミネートされました。

これ2月にも特集しましたけど、ティアーズ・フォー・フィアーズ、彼らも約30年ぶりの全英、全米トップ10の返り咲きを果たしました。しかも新作「Tipping Point」のレビュー総合平均は80点を超えてました。


メタルだとアイアン・メイデンを忘れるわけにはいきません。彼らの場合は最近というよりも、2000年代入ってずっと調子がいいです。ブルース・ディッキンソンとエイドリアン・スミスが戻ってからはセールスがすこぶる良く、2006年の「A Matter Of Life And Death」以降はヨーロッパ全土、ほぼ1位です。最新作の「Senjutsu」も同様の上に、全米で自己最高位の3位。それに加えて、ラウドロック系批評メディアのほとんどで年間トップ10入りの評価ですよ。「メイデン、懐かしい」なんて、日本だとメタル・ファンでも言ってるの、ツイッター上でも実際見たんですが、「懐かしい」なんて言ってる場合じゃないんですよ。南米でも「アイアン・メイデンがやってくる」というのは毎回大ニュースになってサッカースタジアム即完ですからね。現在進行形のメタル界のキングです。チャート実績だけなら80年代よりむしろ上なくらいです。

あと、メタルだと、ジューダス・プリーストからも同様の復活ムードを感じますね。彼らも2018年の「Firepower」で38年ぶりの全英トップ10、全米自己最高位の5位。彼らの場合は、ロブ・ハルフォードのゲイ・カミングアウトも効いてると思います。

 これって、本当に面白いことですよね。というのは、僕が社会人になる90年代までには、ロック史って、セオリーがすでにだいたい決まっていたわけですから。それというのは、もう決定的なもので、もうアーティストも40歳を超えると、若き全盛期を超える作品は作らないと思われていたんです。

ところが、その定説が覆されました。その始まりを、僕はこの人に見ています。


        ボブ・ディラン!


やはり1997年、当時56歳だったディランが、誰もが認める大カムバック作、「Time Out Of Mind」が過去の傑作に並び得る会心作と評価されて以降ですね。それからもう20数年経ってますけど、ディラン、これ以降、80歳を迎えた現在まで、評価高い作品出し続けてますからね。

ポール・マッカートニーも80s以降、評価低かったですけど、2002年のツアーが爆発的に受けて以降調子が上がって、そのうちウイングス時代の再評価も始まって、自身の近作の評価まで上がりましたよね。

実はこれ、デヴィッド・ボウイもそうなんです。2000年のグラストンベリーのヘッドライナー・ライブが大ウケして、そこからアルバムの評価がまた戻ってきて、それが2013年の「Next Day」、16年の「Blackstar」とどんどん上がっていくうちに世を去った。彼の死があそこまで世間を騒がせたのは、背後にこうしたアーティストとしての復活劇があったからなんです。

 このようにして、「功績をすでに作ったアーティストの復活劇」って、この20年ですでに始まっていたんですけど、これがもう、いろんなアーティストに波及しつつあります。

 これを後押ししてるのが、全英チャートなんですよね。全英チャートはフィジカルのポイントが高くて、熱心なコア・ファンが買えば買うほど順位が上がるんですけど、この仕組みで多くのアーティストがチャート復帰してます。ディープ・パープルなんかもそうですし、ダムド、スペシャルズあたりもその傾向あります。ただ、このあたりは評価がそこまで付いてきてる感じは個人的にはしないのですが、個人的に気になってるのは

ゲイリー・ニューマンなんですよね。「ニュー・ウェイヴ初期の一瞬人気のアーティスト」のイメージでしょ?ところが彼、近年すごいんですよ。2017、2021年のアルバム、ともに全英2位なんですよ!この影響で、ヨーロッパの他の国でも40年近くぶりにチャートに戻ってきてます。ちょっと僕も気にし始めてます。

これと同じような事例、日本だと、はっきりとはないかなあ。個人的には

ジュリー、そうならないかなあ、という期待があるんですけど。少なくともオリコンのシングル・チャート見る分には、それが当てはまらないわけではないので。

あと

ある程度ずっと売れ続けているので「カムバック」と言いにくいものの、40代、50代でも充実作作って評価を上げているという意味ではグレイプバイン、Buck-Tickあたりも当てはまるかとは思います。僕のツイッターのTL上ではかなりそういう評価を感じます。


あと、これと逆に

年をとったことで評価を下げたアーティストというのも存在します。

その最大の典型例は彼でしょうね。


ジョニー・ロットンですよね。キャラクターとしては面白いものの、右傾化して発言も滑ってるし、加えてアーティストとして何も発信してないのがね。もう、パンク/ニュー・ウェイヴのオリジネーターとして、必ずしもセックス・ピストルズが筆頭で上がらなくなってきてるでしょ?このあたりは近年の活動からの悪影響ですよね。


あと、エアロスミスもキツイですね。復活以降、80s後半から90sにかけてあれだけ人気あったのに、98年に「I Dont Wanna Miss A Thing」でスクエアなイメージつけて以降、ロックバンドとしての人気を落として、そこからスティーヴンがドラッグ禍で長い間、曲が書けなくなってるうちに話題にされなくなって。こないだツイッターでアンケートかけたんですけど、「どのハードロックバンドが好き?」の四択質問で、レッド・ツェッペリン、AC/DC、ブラック・サバスに大きく水をあけられて最下位だったんですよね。再評価の波らしきものもない。正直、厳しいです。

それから

油断するときついなと思うのがレッチリです。ジョン・フルシャンテ戻ってきましたけど、過去10数年の3作、今作含めて評判良くないの続いている上に、ツアーでの評価を落としてるでしょ。あれ、日本だけじゃなく、いろんな言語で僕の耳に入ってるんですけど。今はまだ、「出せば売れる」バンドになってますけど、「それがゆえにクールか否か」はまた別の問題で。ツアーで評価を再獲得していかないと難しいと思ってます。

 いずれにせよ、アーティストの活動期間は今や「生涯」。固定観念を随時、変えていく必要があると思います。


























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