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ネットフリックス映画「マ・レイニーのブラック・ボトム」 たった1日の描写に刻まれた約1世紀前の黒人の音楽と人生。そしてチャドウィック、最後の勇姿

どうも。

昨日に続いて今日も映画レビュー、いきましょう。これです!

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ネットフリックスで先週配信されました、「マ・レイニーのブラック・ボトム」。これは1920年代の伝説のブルースの女王、マ・レイニーの伝記映画・・という風に宣伝されて、主演の名女優ヴァイオーラ・デイヴィスの注目度が高かったんですが、同時に、かの「ブラックパンサー」で一世を風靡したチャドウィック・ボーズマンの遺作としても注目されていました。

僕はマ・レイニーにすごく興味があったのと、ヴァイオーラも大好きだし、そしてもちろんチャドウィックの最期の映画として、これはすごく以前からチェックしていた映画です。

どんな映画なのでしょうか。早速、あらすじから見てみましょう。

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舞台は1927年のシカゴのある日。この日、ブルースの女王、マ・レイニー(ヴァイオーラ・デイヴィス)が新曲のレコーディングを行うことになっていました。

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スタジオではバックバンドが準備を進めていましたが

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そこではトランペッターのレヴィー(チャドウィック・ボーズマン)がひとろでまくしたてていました。彼はマの白人マネージャーが気に入っておらず、自身の家族が白人にひどいことをされた歴史を甲高い声をひっくりかえしながら熱弁します。

彼は腕の立つトランペッターで、自身の作った曲で出世することを願っていました。

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そこに、ボスの貫禄十分なヴァイオーラがやってきて、レコーディングを進めますが・・・。

・・・と、簡単にいえば、そういう話です。

これはですね

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1920年代に「ブルースの女王」として、ベッシー・スミスと共に世を沸かし。当時の黒人としては異例のスーパースターだったマ・レイニーのストーリーですが、彼女の伝記ではなく、ある1日を追ったフィクションです。

そしてこれは

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2018年にブロードウェイで上演されたミュージカルの映画化です。これのオリジナルもぜひ見てみたいのですが、これ

ミュージカル以前に映画として、本当に素晴らしいです!


これ、何がいいかって、ただ単にマ・レイニーの伝記映画作るより、たった1日の姿を描写するだけではるかに1920年代の現実をコンパクトに凝縮できています!

音楽のルーツ追うタイプの人でも、1920年代まで興味がたどり着く人って、そう多くはないと思うんですよね。当時、まだ録音技術も稚拙な中、レコーディングというものがどう行われていたか、この当時、まだ露骨に人種差別されていた黒人音楽、ブルースがどういう扱いだったか、そこでのスターだったマ・レイニーがどんなスターだったか、黒人ミュージシャンの置かれている状況がどんなものだったか。そういうことが、90分くらいの短い間で非常によくわかるんですよ、これ!

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マ・レイニーという人は、ベッシー・スミスと並んで、黒人音楽史上において最初の黒人のスター、といっても過言ではないと思います。かのビリー・ホリデイよりも10年以上登場が早いですしね。彼女たちは、アメリカ南部で歌い継がれていたブルースをシカゴのような都会で流行らせたことでブルースが全国的に知らしめて、その功績をもって二人ともロックの殿堂にもかなり早い段階で入ってもいて。それで僕も知っていたんですけどね。年齢的にはマの方がベッシーよりも上で、8歳年上のマがベッシーに影響を与えた、とも言われています。2人は交遊もあり仲も良かったとも言われていますが、そうしたことも、一瞬の会話の中ではありながらも描写されています。


あと、レコーディングの拙さや、ミュージシャンのレコーディングの不慣れ加減、歌われる曲の内容から察知される当時のブルースの地位そういうこともわかって興味深かったですね。とにかく「これからレコーディングするよ」というコールさえ、緊張してできずに、当時としては貴重だったテープのロールが次々とボツになるのは見てておかしかったですけど(笑)、100年前ってこんなのどかなレコーディングだったんだなあ、と思わされますね。

 あと、曲の歌詞ね。「ブラック・ボトム」なんていうと、言葉の響きだけ聞くとかっこよさげなんですけど、これ、直訳すると「黒人女性の大きな尻」って意味で、100年前の基準からすれば、すごく下品な歌なんですね。1950年代のロックンロールでさえ、白人社会の怒りを買うくらい物議を醸したものだったんです。まだ、白人社会にそこまで浸透していたとは思えない「レイス(人種)ミュージック」とさえ呼ばれていた当時のこうした曲がどういう扱いだったかは推してしるべし、といった感じでしょうか。あと、黒人というだけでなく、女性を性的に卑下する意味合いも感じられて、複雑な気分にはなりますね。

ただ、こうしたこともありながらも、一番のみどころは

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やっぱ、チャドウィックですよ!


これ、実は彼が実質上の主役です!だいたい、スクリーンに登場する時間がマ・レイニーよりも圧倒的に長い上に、彼自身が象徴する「不当に差別、搾取され、白人に恨みをもつミュージシャン」を象徴する存在ですからね。

 当時はまだ、一部の白人による行き過ぎた差別による暴動などはありつつも公民権運動の30年くらい前の時代ですから、黒人も差別を受ける状況を告発もできなくて。そんな時代に、チャドウィック演じるレヴィーのように不満をぶちまけることがあっても、周囲の黒人は穏便に受け流すしかなかった。こうした状況がここではかなりの時間を割いて描かれてます。

 そして、このチャドウィックの演技がですね、普段の彼よりもかなりエモーショナルな激しめの演技なんですね。チャドウィックというと「ブラックパンサー」でのティチャラをはじめとした「聖人君子」的なイメージがありますよね。野球の伝説のプレイヤー、ジャッキー・ロビンソンもそうですけど、系譜としては「ネクスト・デンゼル」とも言われていたように、シドニー・ポワチエ〜デンゼル・ワシントンの流れを組む「人格者の正統派」な感じで落ち着いたイメージなんですけど、そのイメージを覆すかのような、ちょっと汚れな、激しいキャラクターなんですよね。いつもより声もかなり高めかつ大きめでね。これまでの彼の演技の中でもっともエモーショナルに訴えてくるものがあります。これを最期に亡くなってしまったことが本当に惜しまれるのですが、これをみると、「死期を悟ったからこそできた渾身の演技」だったのかな、とも思わされます。

また

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ヴァイオーラの貫禄もさすがですけどね。現在、最高の黒人女優なことだけはあります。当時としてはめずらしい、誇り高い成功した黒人女性を堂々と演じてますね。

 あと、歌に関しては、これ、吹き替えのようなんですけど、リップシンクも非常にうまく、彼女自身が実際に歌ってるような雰囲気を醸し出させているのもすごくいいです。これ、音楽、映画としても楽しめます。

これを見てマ・レイニーが気になった方は、Spotifyにかなり音源があります。チェックしてみてはいかがでしょうか。

 また、個人的には

チャドウィックのオスカーでの主演男優賞!


これにも期待したいところです。現状で、ロサンゼルスやシカゴでの映画批評家協会賞で受賞もしてるので、かなり期待できる状況。2009年にヒース・レジャーが「ダークナイト」のジョーカー役で助演男優賞受賞して以来の、「死後のオスカー受賞」も注目されるところです。

 



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