マトリョミンも来年成人式

 マトリョーシカ型テルミン「マトリョミン」の量産型モデルを発表したのが2003年。早いもので19年経ち、人間であれば来年成人式を迎えます。

 第一世代モデルなのにME02型。どうしてME01でないのとよく訊かれますが、マトリョミンの前に作ったEtherwavetheremin用の幻のカスタマイズ機材があるのです。弊社の型番管理はシンプルに時系列で順番に付番しているので、第1世代のマトリョミンがME02と、少々ややこしくなっています。

 楽器は買うものであって作るものではない。そういう考えからすれば私は自分の道具は自分で作る「プロゴルファー猿」のようかもしれません。電子楽器は誕生してから100年の若い楽器です。ほとんどやり尽くされた感が支配する現代においても、自分で楽器を作る可能性が残されているのは、それだけでもワクワクします。
 マトリョミンを作った当時、テルミンが話題になっていて、巷にはただテルミンとして機能するだけの、あまり品質のよくないものがたくさんありました。それらの発音特性はいびつで、低い音域と高い音域のオクターブ距離が極端に違うものばかりでした。私がマトリョミンに求めたのはテルミンの入門としての役割。できる限りEtherwavethereminの発音特性に近づけることにこだわりました。それぞれの楽器が異なる演奏法を要求したのでは違う楽器を創ることになってしまい、それがテルミンの普及を阻んでいると考えたからです。とってつけたようなアンテナを使わず、それでいて本家のテルミンと同等の発音特性を求めた結果、人体アースをとるという、マトリョミンのアイデンティティとも呼ばれる手のひらの上に乗せて弾く演奏スタイルも生まれました。
 マトリョミンの誕生については先日刊行した拙書「テルミンとわたし」において詳しく書かれています。

 ME02前期型は、長年使っていると、つまみ部分が部品ごと回転してしまうことがあり、それを時折補修するくらいで、今も普通に楽器として機能します。マトリョミンの「二十歳の歌声」を高らかに響かせています。

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