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2023年度浜の活力再生プラン優良事例表彰式 諫早市小長井地区(長崎県)が農林水産大臣賞を受賞

2024年3月1日、農林水産省本館にて「2023年度 浜の活力再生プラン優良事例表彰」の授賞式が行われた。

浜の活力再生プランは、日本の水産業・漁業を基点にした地域活性化に向けた政府の改革の一つで、通称、浜プランと呼ばれている。「5年間で漁業所得の10%アップ」を目標に具体的な事業計画を立てて実践されており、全国漁業協同組合連合会(通称、全漁連)も全面的にバックアップしているほど水産業界全体で注目されている取り組みである。2023年3月末時点、全国で554件の様々な浜プランが実践されており、その中でも優良な8地区の表彰が行われた。その斬新なアイデア、果敢な取り組み、地域の協力など本当に素晴らしい取り組みばかりであった。受賞者の成功を私なりに分析してみようと思う。


農林水産大臣賞 

諫早市小長井地区地域水産業再生委員会

有明海に面した長崎県諫早市。牡蠣やアサリといった貝類の養殖で有名な諫早市小長井地区の取り組みの特色は、堅実な運営改善と地域住民の協力体制にあると感じた。水温によって育成が左右される牡蠣養殖だが、安定供給のため、生産時期をずらしたり、作業性の向上のため漁具を改善したりして出荷量を増やすことに成功した。そのほかにも直売所の品ぞろえの見直しや牡蠣小屋の設置など、集客力強化を行った。また地元の飲食店や高校生とタイアップした商品開発や、小学生の体験学習といった担い手育成の取り組みも並行して行い、漁業者自体が安心して水揚げできる体制の構築に成功した。

https://www.jfa.maff.go.jp/j/press/bousai/attach/pdf/240219-1.pdf

諫早湾漁業協同組合
http://www.jf-konagai.com/cooperative


水産庁長官賞

射水市地域水産業再生委員会

富山湾西部に面した富山県射水市。複雑な地形と恵まれた水環境により多彩な魚介類が獲れる地区。射水地区の取り組みの特色は、地元のブランド魚の磨き上げとデータによる漁法の確立にあると感じた。富山湾名産のシロエビの漁獲管理を徹底し、水産エコラベル認証(MEL)の申請を行ったり、地元でしか味わえない獲れたてのベニズワイガニ「高志(こし)の紅(あか)ガニ」の継続したPRが功を奏し、観光集客を増やした。また市内の小学校6年生にベニズワイガニを1匹ずつ給食で提供したり、ICTブイのデータ活用や操業の効率化により、操業経費の削減に成功した。

https://www.jfa.maff.go.jp/j/press/bousai/attach/pdf/240219-2.pdf

鳥羽磯部地域水産業再生委員会

三重県鳥羽市と志摩市にまたがる鳥羽磯部地区。真珠養殖や海女漁としても有名で、リアス式海岸を活用した良漁場に加え、産官学が同地域に揃う珍しい地区でもある。鳥羽磯部地区の取り組みの特色は、徹底したブランド魚の管理とクロノリ養殖の整備にあると感じた。答志島のサワラについては、魚類脂肪含量測定器「フィッシュアナライザ」を使って徹底し、「答志島トロさわら」としてブランド化を堅持。魚価が2.8倍にまで上がったばかりではなく、鳥羽産サワラ全体の魚価をも上げた。またサワラを観光資源としても活用し、収益を増やした。さらにクロノリ養殖について、漁協が運営する委託加工施設を整備し、漁業者の負担を軽くすることによりバラノリ加工といった新たな事業も生まれた。そのほか藻場造成なども手掛けている。

https://www.jfa.maff.go.jp/j/press/bousai/attach/pdf/240219-3.pdf

参考取材記事はこちら
【海業のススメ】三重県鳥羽市~肩を寄せ合い、ピンチをチャンスに変える海(2023年12月11日)

鳥羽磯部漁業協同組合
https://jf-tiss.net/


全国漁業協同組合連合会会長賞

山形県水産業再生委員会(底曳き部会)

山形県の沿岸漁は冬季の厳しい環境から、操業が少ない年で80日程度と限られてしまう地区。漁獲も少量多品種にまたがり非常に漁業を営むのには難しい地区である。この山形地区の取り組みの特色はブランドガニの育成と漁業者のたゆまぬ努力にあると感じた。山形県のズワイガニはもともと認知度が低く、ばらつきもあり、市場からなかなか評価されていないという状況を引き起こしていた。この状況を打開すべく、平成30年に「庄内浜ブランド創出協議会」で「ズワイガニ部会」を発足し、専任講師や漁獲のマニュアル化を徹底。「庄内北前ガニ」のブランド化を推進していった。また、資源管理でも曳網回数の制限といった独自の厳しい基準を設け、地元飲食店や宿泊施設でのキャンペーン展開等、あきらめずに取り組むなかで認知度も上がり、令和3年度には魚価を1.7倍に引き上げた。

山形県漁業協同組合
https://www.kengyokyo.or.jp/

久米島漁協地域水産業再生委員会

久米島は、沖縄県那覇市の西方約100㎞にある島。漁業は盛んであるものの物流コストや販売開拓という面で大きなハンデを持っている地区。久米島の取り組みの特色は、SNSを利用した魚食普及イベントとサンゴ礁の保護を1つの観光資源としての活用したというところにあると感じた。クルマエビ養殖では、コロナ時期の営業自粛により出荷量が減ったのを期に新たな販路を検討。成長中のものを「チビ車海老」として出荷し、SNSや魚食普及イベントを活用した情報発信により、人気に火がついた。また魚食イベントに合わせて、サンゴの種付け体験を実施し相乗効果としてサンゴ保全ばかりではなく、久米島の海業支援施設の存在をアピールした。

久米島漁業協同組合
https://kumejimagyokyou.net/


農林中央金庫理事長賞

西尾地区地域水産業再生委員会

三河湾北部に位置する愛知県西尾市。ウナギの養殖やアサリの産地として全国的に有名な地区。西尾地区の取り組みの特色はブランドウナギの再設計にあると感じた。一色産ウナギと言えば全国でも有名な養殖ウナギでだが、出荷はあるものの地元には一色産ウナギを提供する店が少なかった。そこで漁協直営のレストランで地元のウナギ料理を提供。また学校給食やイベントへの参画を通して、認知を上げていくのに成功する。また、アサリの地道な資源回復に向けた取り組みを進めたほか、ノリ養殖網とウナギ製品を保管する冷凍庫について、業種の枠を超えた共同利用を推進。鮮魚市場の集約も行い、魚価のアップにもつなげた。

一色うなぎ漁業協同組合
https://www.katch.ne.jp/~unagi/


全国共済水産業協同組合連合会会長賞

秋田県地域水産業再生委員会(八峰町地区)

青森県との県境に位置する秋田県八峰町。一本釣と採貝藻の伝統が残る地区である。八峰町の取り組みの特色は、ギバサ(アカモク)の再生へのたゆまぬ研究努力にあると感じた。ギバサ漁は八峰町の伝統漁であったものの近年の藻場減少の影響は八峰町にも及んでいた。そこで、漁業者で構成された「北部ギバサ増殖会」では、潜水技術を習得し、海底観察を行い、ギバサ増殖を試みた。その中で岩肌をきれいにすることでギバサ漁場の造成方法を考案し、1㎡あたり9~12倍のギバサが繁茂。相乗効果として、藻場再生からアワビ、サザエも増えた。その他、未利用魚の活用や活締め・神経締めによる鮮度保持によって魚価の向上にも成功した。

秋田県漁業協同組合
https://akita-gyokyo.or.jp/intro/shisho


全国漁業共済組合連合会会長賞

串間市西地区地域水産業再生委員会

宮崎県最南端に位置する志布志湾に面した串間市西地区。ブリ、カンパチの海面養殖で有名な地区である。同地区の取り組みの特色は、海面養殖の徹底したコスト削減と海外輸出の増加にあると感じた。ブリの海面養殖にはすでに飽和状態であったが、隣接海域の区画漁業権を新たに取得し、漁場を拡大したほか、自動給餌システムの導入など省人・省力化に成功。「もうかる漁業創設支援事業」の補助金を活用して大型生簀を設置する等、ブリの生産量を上げて、20カ国の輸出先を確保したことで、増収を成功させた。また、ブリの完全養殖に成功し、世界で初めてブリでのASC(養殖の水産エコラベル)を取得する。その他、漁協直売所や地魚料理店などを活用した販路開拓により、地域経済の活性化にも導いた。

港の駅 いままち/串間市漁業協同組合
https://www.facebook.com/profile.php?id=100054550356243


まとめ

様々な境遇、様々な取り組みといった感じで、他の地区にも十分参考になりそうな事例ばかりという感想であった。今回の受賞を見て感じたのは、新たな取り組みを信じて、諦めずに自分たちの手や足を使って地道に研究した地区が受賞したのではないかと思う。そして重要なのが地元の協力が必要なのではないかと痛感した。
デジタル化や自動化など新たな局面に立たされている水産業ではあるが、すぐに結果が出ないのが自然相手の水産業なのかもしれない。まずは

新たな取り組みを小規模でもいいので取り組む。
そして続ける。

そうすればもっと明るい日本の海になってくれるかもしれない。


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