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Amazonとの直接取引は異例でも衝撃でもないんだぜ

というニュースの解説ですよ。

そもそも何でAmazonが直接取引(「e託」と名付けられています)をしたいのか、に実際の現場とメディアに齟齬が。
メディアはAmazonが取次を飛ばしたい、取次は飛ばされたなくない、と思っている、というポジションをとっています。だからか世間でもそう捉えられがちですが、まずここが違います。

Amazonも取次も出版社も普通に「自分たちのビジネスに有利な選択」をしているだけです。Amazonというかちゃんとビジネスしている企業はみんなロジカルに考えています。「取次を飛ばす」といった捉え方はとてもエモーショナル。自分たちの求める「結果を得る」ために取次を使わないという選択になるだけの話で、そこに感情論は入ってこないんですが、報道のエンタメ化と報道している人たちはビジネスしている人たちではないので、そういう報道になっちゃうのはまあ仕方ないのか。

むしろ従来の新聞やテレビの報道がビジネスモデルとして崩壊しているいま、すでに報道をやっていること自体がエモーショナルなので、より感情的な方向に寄るというロジックなんだなあ、とこういう報道の仕方見るたび思ったり。

あ、でも現場で直接取引を推進したAmazonの担当者がなかなかにエモーショナルな(に見える)男だったんで、感情的に取次を飛ばしているように見えたかもしれない。けどああ見えてあの男はめっちゃロジカルだったので本当のところは違いますよ。まあその彼もこないだ退社しちゃいましたが。

……話がずれてる。

さて、本題に戻ってじゃあそもそもAmazonはどうしたいのか?すごくシンプルな話「必要な数の本がなるべく早く欲しい」それだけですたぶん。

ざっくりとした出版流通の仕組みがどうなっているかというと、Amazonから見たら、まずある本が発売されるにあたってAmazonは予約数などを参考に何冊仕入れるかを決めます。例えば500冊としましょう。そうすると所定の日(配本日と言います)に印刷所で出来上がっている6000冊から2000冊を取次の倉庫まで運んで(これは出版社の仕事)、その2000冊から日販がAmazonのある倉庫(関東近郊のいくつかです)まで500冊を納品します。そしてその500冊から予約された分をはじめ注文の入った分をAmazonが全国の自社倉庫に分配して送り、そこからさらに皆さんの家まで1冊単位で届けられる、こういった仕組みになっています。

が、これは新刊(中古本に対する新品の意味ではなく発売ほやほやの本という意味での新刊)の仕組みです。
既刊(決まった定義はないのですが発売されてからしばらくたった本のことです。だいたい発売から3ヶ月が過ぎたら既刊です感覚的に)はもうちょっと違ったルートをたどる。

Amazonであなたが本を1冊頼んだとしましょう。「在庫あり」となっていればそれは翌日か翌々日には届きます。Amazonが仕入れた本がAmazonの倉庫に置いてあるからです。
が、当然在庫がない本もあります。この世には本当にたくさんの本が存在していますからね。この場合、Amazonはその本を手に入れようと取次に発注をかけます。
この発注に応えるために取次はEC専門の倉庫を持っています。取次はAmazonをはじめとするECから注文が来そうな本をあらかじめ出版社から仕入れて持っています。なのでAmazonから注文が入ればその本をAmazonに出荷します。これがあなたがAmazonに発注をしてから5−7日程度で届いた時のパターンです。

ところがこの取次の倉庫にもあなたが注文した本がない場合があります。というかちょっと古い本であればだいたいないです。取次が倉庫に構えているのは割とよく売れるなというタイプの本なので。その場合、取次は出版社に在庫があるかどうかを問い合わせ、在庫があったらそれを取次に取り寄せてさらにAmazonに送ります。Amazonに送った後は新刊と変わらないルートですね。

出版社倉庫→取次倉庫→Amazon関東近郊ハブ倉庫→Amazon地方倉庫→あなたの自宅

あなたが東京以外の地方に住んでいた場合、こういうルートを通って本がやってきます。
そしてこの移動が始まる前や途中に在庫確認や伝票処理など事務処理が多く発生して、あなたの注文から本の到着まで実に2週間から1ヶ月かかったりするハメに。

基本的には地方の書店さんで注文しても同じ仕組みです。

昭和のはじめから同じような仕組みで運営されているもので、時間感覚がゆっくりなんですよねえ。小売と流通には商品の注文から実際に到着するまでを表すリードタイムという言葉があるのですが、現代に置いてはそのリードタイムをいかに短くするかにみんなしのぎを削っているところ、この悠久の時の流れ……。Amazonさんなんてすべての商品の翌日到着を目指しているわけですから、この時の流れにまず我慢できないわけです。

これはAmazon上陸時からずーっとAmazonが抱いていた不満ですが、出版流通はこれを解決するどころか、悪化させていくばかりでした。なぜか。本が売れなくなって物流が減るのに加えて物流費が高騰を続けるというダブルパンチだったからです。

コストを抑えるためになるべくトラックを満載にしてから発車するようなオペレーションをとったがために注文のあった本がトラック1台分溜まるまで待ったりしてるわけだから、リードタイムはさらに長く。実にやれやれ案件。

しかしそうまでして頑張っていたものの、物流費はさらなる高騰を続け、取次はついに全出版社へ追加の運賃をリクエストしてきました。これ以上この価格じゃ運べない、ということです。まあこれはいいも悪いもないです。かかるものはかかる、それだけの話。

しかしそれによって!ここにきてなんと出版社、取次、Amazonの思惑が噛み合う日がきたのです。
「わざわざ赤字になる本を取次が運ばなくてもいいんじゃない?」

出版社とAmazonを直接繋げてしまえば、

出版社倉庫→Amazon地方倉庫→読者の自宅

という超簡潔なルートが完成。当然、運ぶ距離や回数は減るからコストダウンになってるし、リードタイムも大幅に削減。AmazonはEDI連携といって出版社の在庫とAmazonの発注をデータ連携することを直接取引のマストとしているので手続き的なリードタイムも大幅削減です。

出版社:運賃・事務コスト削減、速やかな出荷
取次:負担となっていた倉庫・物流コストの削減
Amazon:発注物の速やかな納品によるリードタイムの削減
(Amazonだけ物流やシステムコストの追加負担があるけどあの巨大会社は余裕で吸収)
読者:注文した本が速やかに届く

みんなに大きなメリットがあるめちゃめちゃハッピーなシステムが完成しました。
夢のようだな!!!←←←

さてここで報道を振り返ると

・Amazonと講談社が今月から取次会社を経由しない「直接取引」を始めた
→4者にメリットのある「直接物流」の採用のため直接取引も始まった。
・消費者に本を届ける日数の短縮やコスト削減を狙う
→その通り
・取次会社などに衝撃が広がっている
→たぶん広がってない。強いていうならばポジティブに衝撃的なんじゃ。
・直接取引の当面の対象は講談社現代新書、ブルーバックス、講談社学術文庫
→ラインナップが多く小ロットなレーベルが効率化しやすかった
・既刊本
→逆にいうと新刊は従来通りの取次を通したオペレーションの方がまだ効率的

ということですね。
いやーいいことづくめだと思うんですよぼくはこの件。
このような動きは広がっていくと思いますが、Amazonだけじゃなくて全国の本屋に対してもこのようなオペレーションを広げていくのが次の課題かと思います。

以上、「異例の事態でも衝撃でもないよなあ」とちょっと思っちゃった件の解説でした。
関係してくるところでは↓↓↓もよかったらどうぞですよ。

あ、すべて敬称略!

それではまた。

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