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心を動かすボードゲームデザイン論|パッケージ編

※このnoteでは、ユーザーに手に取ってもらえるボードゲームのパッケージデザインについてお話します。

ボードゲームの文脈からお知り合いになった人たちは初耳かもしれませんが、僕の本職はUXデザイナーです。簡単に説明すると、「製品やサービスそのものだけでなく、ユーザーの体験をトータルにデザインしてハッピーになってもらおう!」ってことをしています。

今回は、ユーザーの心を動かすボードゲームデザイン方法をご紹介します。長くなるので、

・パッケージ編(本note)
・コンポーネント編
・ルール編

の3つに分けます。今回はパッケージ編です。

パッケージの究極の目的は、「手に取ってもらうこと」

まずはパッケージの目的を確認しましょう。

コンポーネントを壊れないようにしまうこと?ユーザーにゲームの情報を伝えること?

どれも正解ですが、パッケージが果たすべき一番の目的は、ユーザーにゲームを手に取ってもらうことです。

「んなこたぁ分かってんだい!」と思われるかもしれませんが、この目的を見失わないことが、パッケージデザインにおいて最も重要な点です。(理由は後ほど)

「面白そうだから」では、ユーザーはゲームを手に取らない

そもそも、ユーザーがボードゲームを手に取る理由はなんでしょう。

よくある勘違いが、「面白そうだから手に取る」ということです。

パッケージでいくら「このゲームは面白いよ!」と主張しても、ほとんどのユーザーは見向きもしません。

世の中は面白そうなもので溢れています。テレビゲーム、イベント、映画、漫画、youtubeなどなど、あらゆる娯楽が「面白そう」を発信しています。
その中でいくら「面白そう」をアピールしても、すぐに埋没してしまいます。手に取ってくれる人は、ボードゲームを仕事にしている人か、ボードゲームが大好きな人だけです。

ユーザーは「つい本能で」ゲームを手に取る

では、ユーザーにボードゲームを手に取ってもらうには、どうすればいいのか。

そのヒントが名著『「ついやってしまう」体験のつくりかた――人を動かす「直感・驚き・物語」のしくみ』に、『スーパーマリオブラザーズ』を例に、わかりやすく書かれています。

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神戸電子ブログ様より引用)

『スーパーマリオブラザーズ』の最初のゲーム画面には、UXデザインの知見がたくさん詰まっています。そのうちの一つが、「ユーザーを右に行かせるように誘導するデザイン」です。

ゲームが開始されても、画面には「右に行け」とは表示されません。それでもユーザーは、自然と右に行こうとします。

これは、右を向いているマリオや、まるで壁にように設置された山、明るく視線を導く雲や草たちが、ユーザーを自然と右に導いているのです。そして、手元にはいかにもマリオを移動させられそうな十字キーが。

これにより、ユーザーは誰に言われるでもなく、自然とマリオを右に移動させるのです。

つまり、ボードゲームを手に取ってもらうには、本能的につい手に取ってしまうようにパッケージをデザインすればいいのです。

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僕がデザインしたボードゲーム『シトラスポット』では、「入っているものは本物のフルーツなのか?」という疑問を持つように仕掛けました。これは、「人は問題や疑問を目の前にすると、それを解決せずにはいられない」という本能を利用したデザインです。

この本能を利用したボードゲームパッケージは、他にもあります。例えば、オインクゲームスさんの『インサイダー・ゲーム』は、警戒心を煽るビビットな赤色に、まるで秘密結社の紋章のようなアイコンが施され、思わず「中には何が入っているんだ?」と確かめたくなるデザインです。

本能を刺激する以外の情報は徹底的に排除する

興味深いことに、先ほどの『スーパーマリオブラザーズ』の画面を子どもたちに見せたところ、ほとんどの子が「面白そうと思わない」と答えたそうです。

これは、先ほどの「右に行かせる」という目的のために、ゲームの面白さを伝えることを捨て、右に行きたくなる本能を刺激することに集中しているからです。

本の中で、著者の玉樹真一郎さんはこう述べています。

デザイナーはあらゆる虚飾を排除しなければなりません。おもしろそうだと思わせることすら捨て去って、プレイヤーが何をすればよいかを伝えることに集中する。これこそデザイナーに求められる最大の試練だといえます。

私たちボードゲーム製作者は、そのゲームに対してとても強い思い入れがあり、ついついあれもこれも伝えたいと思ってしまいます。

しかし、100のキャパシティに120の情報を詰め込んでしまったら、伝わる情報量は100ではなく0になってしまいます。パッケージの目的に立ち返り、伝える情報を絞る勇気が、パッケージデザインでは必要です。

シトラスポットのパッケージにおいても、あらゆる虚飾を排除しています。透明なガラス瓶には、何も装飾はされていません。フェイクフルーツ以外目に入らないようにするため、ルールブックすらQRコードの紙ペラ一枚にする徹底ぶりです。

当初はよりおしゃれに見せるために、「瓶と蓋に飾り用のクラフトテープをつける」という案もありました。しかし、この案も、ユーザー本能を刺激する上で無用である判断して、最終的にボツにしました。

ゲームの面白さを伝える手段はパッケージだけではありません。どの媒体でどの情報をどのレベルまで伝えるのか。情報構造の全体を見ながら設計すれば、パッケージデザインは自然と洗練されたものになります。

まとめ

パッケージをデザインする上で、ユーザーに手に取ってもらうために必要なポイントは以下の3点です。

・「ユーザーの手に取ってもらう」というパッケージの目的を見失わない
・「面白そう」ではなく、「つい開けたくなる」と思わせるようにデザインする
・パッケージで伝える情報は、徹底的に絞り込む

パッケージデザインは、どうしてもグラフィックデザインの話に寄りがちです。しかし、それを手に取るユーザーの視点に立ち返り、観察することで、新しい気づきを得ることができます。

最後までお読みいただきありがとうございました。本noteが皆様のボードゲームデザインの参考になれば幸いです。

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