ナラ・小角 Eichhörnchen (アイヒ・ホェアンヒェン)

 ナラは、2021年7月17日の前回の投稿で出したとおりで、die Eicheである。この名詞の発音についても、前回をご覧あれ。ちなみに、ここでは、複合語を作るために、-n字を付け足すのではなく、逆に-eの字を削っているのも、面白い。

 小角(こづの)が、das Hörnchenである。この、~chenは、名詞を縮小化する語尾である。それゆえ、「小~」と、ここでは訳してあるが、何かを愛(め)でたい時に、よくこの語尾を付ける。例えば、Kätzchen (ケッツヒェン)が、「子猫ちゃん」という感じである。~chenの発音は、例の通りで、ここでは、バイエルン州州都のMünchenと同様に、「~ヒェン」とした。

 それでは、もともとの「角(つの)」はドイツ語で何というかと言うと、das Hornである。縮小化する場合、本来の名詞の中にある母音が変音化(ウムラウト)することがあり、ここでも、HornからHörnchenとなっている。ö音は、口の形をまずo音の形にし、舌の位置は、しかし、e音の位置にもっていって、一挙にoeと発音する、ドイツ語の発音としては、日本人に慣れない発音である。さらに、音節を〆るr音も、若干異なるのであるが、むしろ、「ア」と発音した方が原語に近くなるので、あえて、題字のようにした。なお、Hornには、別の意味もあり、楽器のホルン、また、「角状に突出した部分」の意味もあり、クロワッサンのように三日月型をしたお菓子には、この名称 ~hörnchenが付く。

 それでは、Eichhörnchen (アイヒ・ホェアンヒェン) は、何と言う意味であるかと言うと、何のことはない、「リス」である。別名は、いくつかあるが、その一つが、Eichkätzchen、「ナラ・子猫」である。「ホェアンヒェン」か「子猫」か、この言葉は、ゲルマン語として語源が古く、場合によっては、イタチ科の「フェレット」のことを指していたのではないかとも想像されている言葉ではあるが、いずれにしても、ナラの木に関わって名付けられたもののようで、前回の投稿でヨーロッパ・ナラが昔は多く見られたことからも、そのナラの木によく見られた小動物、とりわけ、どんぐりをよく食し、また、これを口でくわえてどこかにもっていった、すばしこい小動物に付けられた名前であった。(ある研究によると、リスは自分がどこかに埋めた餌について、半年はその埋めた場所を記憶していると言う。)

 Eichhörnchen は、ドイツ語の、種名だけではなく、範疇が一つ上の属名にもなっており、学名としては、Sciurusである。もともとは、ギリシャ語から来ている、この名称は、「尻尾が影を投げるもの」と言われ、尻尾の大きいことが特徴とされている。さらに、動物学の分類で、属名よりさらに上位にある「科名」は、ドイツ語ではHörnchenと「ナラ」に当たる部分が取れている。これは、動物学の発展により、19・20世紀に分類が精密化したことに因る。

 さらに、種名としては、ヨーロッパにもともと生息しているものを指して、学名をSciurus vulgaris というが、この種のリスは、体型が比較的小型で、毛の色は赤茶色をしている。これに対し、比較的体型が大きく、毛の色が灰色をしているものが、ヨーロッパに入ってきていると言う。この、ドイツ語から訳すと「ハイイロ・リス」という種は、もともとは北アメリカに生息している種であり、何かの契機でヨーロッパに入ってきたと言う。体格がいいことから、ヨーロッパ固有の赤茶色のリスを駆逐してきていると言われる。これもまた、グローバル化がもたらした弊害の一つであり、残念である。

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