ヨーロッパ日 der Europatag(デア オイrローパ・ターク)

  発音としては、euという複合母音は、「オイ」と発音し、Tagのg字は、音節の〆になるので、清音として発音する点が、この言葉で気を付けることであるが、後でする説明で必要となるので、Europaの形容詞をここで述べておく。europäischオイrロペーイッシュという。ä字は、aのウムラウト、つまり変音であり、日本語的に「エ」と発音して構わない。-schの綴り字は、形容詞によくある語尾であるが、発音は、「シュ」である。

 さて、この言葉は、元々は、Europaという固有名詞とTagという男性名詞との複合名詞である。一般には、ドイツ語では、名詞をいくつもつなげて、一つの長い名詞を作ることができる点で造語が作りやすい言葉であるが、その、名詞が長くつながった名詞の性は、一番最後の名詞が規定する。故に、このEuropatagという言葉でも、Tagが男性名詞なので、その名詞全体が男性名詞となる。

 問題は、この名詞同士のつなげ方である。このつなげ方の一つの方法は、名詞A(例えば、大学)と名詞B(例えば、図書館)という二つの名詞があるとし、大学図書館と言いたい時には、ドイツ語でこれに当たる単語では、「A+s+B」となる。つまり、このs字は、「AのB」における「~の~」に当たる。同様に、前置詞vonフォンを使えば、「B von A」とできる。また、Aを形容詞化してBを形容すると、der europäische Tagと書けないこともない。最近では、単語内の構成要素をはっきりさせるために、ハイフンを使って、der Europa-Tagと表記しても可笑しくない風潮もあるが、ある複合名詞が、それ自体として広く認知されている場合、表題のように、一気に続けて、der Europatagと表記する。

 それでは、この「ヨーロッパ日」、日本語としては、「ヨーロッパの日」の訳の方が馴染みやすいであろうが、何月何日であるか。実は、それは、二つあるのである。日本での「子供の日」に当たる五月五日と、五月九日の二つである。

 話しの展開上、まずは、なぜ五月九日であるかから始めよう。「ヨーロッパの日」であるから、ヨーロッパのこと、とりわけ、ヨーロッパ大陸のことが、もちろん、テーマになる。それであれば、誰でも「Europäische Unionヨーロッパ連合」のことを考えることであろう。欧州連合は、略語では、「EU」であり、これをドイツ語風に発音したいのであれば、両唇を細く横に引っ張って「エー」、両唇をできるだけ丸く小さくすぼめて「ウー」と発音したい。

 EUは、マーストリヒト条約が発効した1993年11月1日以来存在している連合体で、この点から言えば、今年2023年で30年目を迎えることになるが、このEU成立までには、第二次世界大戦中以来の、ヨーロッパを経済的にも政治的にも統合していこうという、長い試みがあった。

 その試みの決定的契機は、1950年5月9日に行なわれた、フランス外相ロベール・シュマンRobert Schumanの演説、いわゆる、「シューマン宣言」であるとされている。ゆえに、この五月九日が、「ヨーロッパの日」とされているのであるが、このシューマン宣言により、のちに様々に成立することになる欧州共同体の最初の共同体となる、欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が創設された。しかも、この宣言の目的は、単に経済的理由だけではなく、フランス、西ドイツ、ベネルクス三カ国の各国が戦略上の重要物資(石炭と鉄鋼)を共有することを意味し、そのことにより、この国々同士の戦争をできるだけ防ぐ意味も持たせられていたのである。このことは、五月九日が、5月8日の対独戦勝記念日の翌日であることにも現れている。1945年5月8日は、ナチス・ドイツが無条件降伏を受諾・署名した日である。しかも、ソ連側では、それが、既に時差の関係で翌日であったことから、五月九日は、ヨーロッパの日だけではなく、同時に、ソ連・東欧側の「対ナチス・ドイツ戦勝記念日」でもあるのである。

 それでは、その後にできていくヨーロッパの共同体諸機関をここで若干整理しておこう。ある政治体のシステムを考える時、三権分立の観点、すなわち、立法、行政、司法の観点から見るとよい。それは、具体的な組織としては、議会、政府、裁判所の存在である。EUでは、まず、司法を管轄するのが、「ヨーロッパ諸共同体の司法裁判所」である。政府に当たるのが、「Europäische Komission」であるが、この機関がKomissionコミッスィオーンと呼ばれるのは、Komissionの構成員が、まずは、EU加盟国から一人ずつ送られてくるからである。

 一方、EUの議会制度は、大雑把に言って、「二院制」であると言えよう。下院に当たるのが、各国から選挙されて送られてくる議員によって構成される「ヨーロッパ議会Parlament」である。2023年4月現在、議員総数は705人で、各国からの議員数は、その国の人口数によるので、ドイツからは96人の議員が送られている。

 「上院」に当たるのが、英語で言うところのCouncilである。Councilには、色々な翻訳があるが、ここでは、「協議会」と訳しておこう。EU関連では、この機関は、「理事会」と和訳されているが、私見、これは、誤解を招くので、この訳は避けておく。このCouncilの構成員は、EU加盟国の政府の長ないし国家元首・大統領である。ゆえに、分かりやすく言えば、EUサミット協議会とでも訳せようか。これを補佐する形で、EU担当閣僚会議があり、例えば、農業問題については、各国の農林水産大臣が集まって会議をすることになる。そして、このCouncilは、ドイツ語では、der Ratデア rラートとされている。

 ドイツ連邦共和国の議会構成も、二院制で、下院が、Bundestagブンデス・ターク(このTagは、会議という意味の言葉)で、日本の衆議院に当たり、上院が、Bundesrat連邦「参議院」である。このBundesratの構成員は、ドイツ連邦内の各州政府の州首相とその州政府の構成員である。この州、すなわち「邦国」を、EUのレベルに置き換えると、それは「国」となるので、上院たる「Council」をder Europäische Ratと見做せる訳である。

 さて、少々ややこしいのであるが、このder Europäische Ratを、Europatagについて上で述べたように、一つにして、der Europaratと書くと、実は、EU諸機関とは全く異なる合議体を意味する。和訳では、「欧州評議会」と訳されている機関である。そして、この機関の設立が、1949年5月5日にロンドンで署名されて決まったところから、この日五月五日が、二つ目の「ヨーロッパの日」なのである。

 この、EUと同じくヨーロッパの統合に取り組むEuroparatは、最初は加盟国が10カ国であったものが、これに、1989年11月にベルリンの壁が落ちて以降の1990年代には、東欧諸国が加盟しており、2023年時点で、加盟カ国数は、トルコなども含めて46カ国に上っている。

 実は、その前年の22年までは、47カ国であったが、この年に、ある国が「欧州評議会」から除名された。ロシアである。もちろん、ロシアのウクライナ侵攻が除籍の理由であるが、つまり、「欧州評議会」とは、単なる地域統合体ではなく、自由と民主主義と人権尊重の、価値の共同体なのである。ゆえに、Europaratの重要な下部機関は、「ヨーロッパ人権裁判所」であり、Europaratは、さらに、人権コミッショナーを加盟各国に置いているのである。この人権コミッショナーは、加盟各国における人権尊重の状況がどんなものであるか、評議会の会議で報告する。

 評議会の会議には、各国から送られてくる議員によって構成される会議と、各国の閣僚レベルが集まる会議とがあり、この後者の集まりには、日本は、1996年以来、カナダとアメリカ合衆国と共に、オブザーバーとして参加している。

 「欧州評議会」と言うと、日本国からは地理的に遠い存在のように思われるが、日本もまた、ロシアのウクライナ侵攻以降、自由と民主主義と人権尊重の、価値の共同体の一員であると主張するのであれば、日本には、NATOとの軍事面だけではなく、Europaratとの、理念的な面での、単なるオブザーバー的立場ではない、もっと積極的な関り、アンガジュマンが求められている。

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