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映画『LOVE LIFE』

 この物語の鍵は作中に出てくる『オセロ』かなと思いました。オセロとは白と黒。人生はオセロのように白黒はっきりとはいかない、これが私が受け取ったメッセージかな。

 主人公は6歳の男の子を連れて再婚した妙子。職場の後輩に慕われる夫との3人暮らしは一見、幸せそうだ。しかし向かいの団地に住む義理の父母とは良好な関係とはいえない。さらに夫の職場で働く元カノや、蒸発していた元夫なども現れ、いろんなことが起きる。不安定な状況の上に、不安定なことが重なる。上から一生懸命蓋をして、なかったことにしようとしても結局は溢れてでてきてしまうような感じ。

 うわぁ、大変ね、となるのだけど、どこにでもある団地というシチュエーションのお陰で、考えたらこれって割と普通のことでは?と気づきます。ひと皮剥けば、誰もがこういうことを抱えているのでは、と。みんな善人じゃないし、いい人を装ってもなかなか折り合いはつけられない。白黒ではなく、誰もがグレー。オセロのようにマウントをとりつつ、一方が一方を呑み込むことなんてできなくて、グレー同士で一緒に生きているはず。そんなに簡単に交わることはできないのよね、と。傍観者であったはずなのにいつの間にか引き込まれてしまいます。

 人は誰もが不完全。だから愛おしいんだ、なんてどこかで聞いたような言葉が頭に浮かんだとき、大林宣彦監督のエピソードを思い出しました。夫婦仲の秘訣を尋ねられて、相手の欠点を愛することだとおっしゃっていたとか。家族って、人のつきあいって、不完全なところ、グレーなところを愛することから始まるのかも知れない。

 この物語で描かれるのは、結果ではなく、経過です。だから刺さる。

 余白のように感じる映像と、着想の元となったという矢野顕子さんの曲『LOVE LIFE』の間奏部分を重ねて、ゆらゆらと感じていたい作品でした。

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