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シンガポール MILO®︎に関する自由研究

「MILO」を「ミロ」と呼ぶか「マイロ」と呼ぶかーここシンガポールを含む東南アジアではMILOの人気は絶大なものがあります。
それゆえか、シンガポールで発売されているMILO商品の種類が余りにも多いことに戸惑い、「一体それぞれどこが違うのか?」という個人的かつ素朴な疑問を発端に、本稿では各商品の栄養価の比較を行うとともに、MILOにまつわる情報をあれこれ掘り下げてみました。

MILO®︎の基礎知識

MILOそのものの存在をご存知の方は多いと思いますがおさらいをしますと、MILO®︎は1934年にスイスの食品メーカーのネスレがオーストラリアはシドニーで発売を開始した、麦芽・粉乳・ココアを合わせた飲料で、その栄養価の高さと味の良さで今日に至るまで東南アジア、オセアニア、南米、アフリカを中心に高い人気を誇るネスレの看板商品です。(以降表記は全てMILOとします。なお全て大文字が正式表記だそうです)
MILOは世界恐慌後の食糧不足下における子どもの低栄養の問題に応える形で、当初はTONIC FOOD(滋養食品)という機能性を前面に打ち出していました。なおMILOという商品名は古代ギリシャ最強のレスリング選手、クロトンのミロから名付けられています。シンガポールとMILOの関わりやMILOの歴史については以下のStraits  Timesの記事などが詳しいですが、要旨を記載しますとー

  • シンガポールでの販売開始は1938年、原料を輸入しJurongの国内工場で生産。

  • シンガポールでは年間4億杯のMILOが飲まれている(世界最大の消費国はマレーシア)

  • 1974年にMilo Football Training Schemeというサッカー選手の育成プログラムを立ち上げ、シンガポール代表選手も輩出した。

  • 2015年にシンガポールがホスト国となったSEA Games(東南アジア競技大会)のオフィシャルスポンサーだった。

  • シンガポールでは学校の運動会や地域のイベントにMILO Vanというワゴン車が出動することがあり、無料でアイスMILOが振る舞われる。主催者はネスレのWebサイトから手配可能(料金等不明)

  • シンガポールの研究開発施設では17カ国から様々な分野の研究者約100人を集め、MILO商品のイノベーションを推進している

さてここからはシンガポールで販売されている商品を一つずつ紹介していきます。商品ごとの栄養価を比較した一覧表をスプレッドシートで作りました。こちらでは画像にしたものを掲載します。

シンガポール国内販売13商品栄養成分表 (1.26MB)

商品名の表記は販売店によってかなりバラつきがあるのですが、極力ネスレの公式表記に従いました。赤字・青字は13商品の間でのそれぞれ最高値、最低値です。粉末タイプの場合、栄養価は200㎖を作る際の規定量で比較しているため、粉末状態での重量は若干異なります。ナイアシンはニコチンアミド表記のものも含みます。#12・13の缶入り飲料のビタミンB2は100㎖あたり0.1mgと0.2mgの表記の2種類が存在することを確認しました。製造時期による違いかもしれません。(2022年4月時点)

1. MILO Regular

最もスタンダードな基本のMILOで、栄養価も全商品の中で突出したものはありませんが、added sugarは多めなので甘味はしっかりです。ナトリウム(≒塩分)量が最も低いという意外な特徴がありました。

2. MILO 3-in-1

ネスレによれば①MILOパウダー②粉乳③砂糖の3つが全て入っていることから3-in-1と名付けられています。この3-in-1とは当地の小袋入りインスタントコーヒーミックスでよく見られる表現で、砂糖とミルクが既に入ってるためお湯で溶いてすぐ飲めるので、コーヒーにミルクも砂糖も入れる人が多い東南アジアではその便利さがウケています。しかし、そもそもMILOは前述の通り原料に元から粉乳も砂糖も入っているので、個人的にMILOの3-in-1と言われると「?」です。栄養的にはadded sugarが最も多くタンパク質が最も少ないというややお寒いものではあります。

3. MILO 2-in-1 Calcium Plus

この2-in-1はシンガポールのネスレのMILO公式Webページには掲載されていないものの、スーパーではシンガポール製造のレギュラー商品として販売されているという、少々謎な商品です。公式商品説明が無いため何の2-in-1なのかは不明ですが、栄養価から推測するに3-in-1よりタンパク質・脂質が高く、added sugarが少ないことからMILOパウダーと粉乳の2-in-1と思われます。栄養的にはリンとカルシウムが全商品中最も高く、タンパク質もRegularを上回り優秀です。

4. MILO Gao Siew Dai

Gao Siew Dai (厚少底)とはStrong/Dense Less (Sugar)の意で、Siew DaiはKopiやTehの注文で甘さ控えめにしたい時の呪文です。成分的にはadded sugarが若干控えめ、かつスクロース(ショ糖≒砂糖)がadded sugarの6割程度となっていますが、栄養成分表にスクロースの表記があるのはこのGao Siew Daiだけなので相対的に少ないのかどうかは不明です。規定量で作ると"Gao"の通りMILOの風味がしっかりしていて、ミネラルも全体としてRegularより若干多めです。

5. MILO Gao Siew Dai Whole Grain Cereal

前出のGao Siew Daiに全粒粉小麦を加えたバージョンで、米やコーンといった穀物も含まれている点、異彩を放っています。栄養を見るとカロリー・炭水化物はトップですが、これは200㎖に対する粉の重量が36gとこれまたトップであることから必然とも言えます。高エネルギーながら糖質は少なく、食物繊維が最も多い点も見逃せません。

6. MILO Australian Recipe

ミロ発祥のオーストラリアの配合と銘打って、よりミルキーな味わいと謳っており、栄養価の面ではタンパク質・脂質・炭水化物はシンガポールのRegularと似通っているものの、ビタミン・ミネラルは全体としてRegularを上回り、鉄分が全商品中トップです。他方、オーストラリアで実際に売られているMILOと全く同じという訳でもありません。オーストラリアの商品は20gのパウダーに対し、200㎖の牛乳で溶いて飲む事を基本としているため、飲み方の違いが成分に影響しているかもしれません。

7. MILO Gao Kosong

こちらもコーヒーショップ定番のオプション、Kosong(マレー語でゼロの意)で、糖質が気になる人の最適解ですーが、これにはカラクリがあり、tablespoon sugarがゼロであるだけで、added sugarがゼロというわけでは無い点、注意が必要です。甘味は砂糖の代わりに乳糖(ラクトース)で補っており、タンパク質も全商品中トップですが、脂質は高めで、カロリーはRegularより高く、ミネラルも平均的であることを踏まえると必ずしも手放しで評価できるわけではありません。
*栄養成分のスクロース行の値は本商品についてはラクトースの値です

8. MILO Ice Energy

通常パウダー商品は熱湯で溶く必要があるところ、冷水に入れてそのまま飲めるという便利な商品。標準量が26g(大さじ5杯)に対して150㎖と少ないため、栄養価の比較にあたっては6/5倍換算しています。脂質が控えめでさっぱりしていますが、アイスで飲む前提のためか砂糖はがっつり入っていて、ミネラル類は全体として低めです。なお件のMILO Vanで供されるフリーアイスMILOはこの配合なんだそうです。大袋の商品しか無く、小袋があればアウトドアなどの出先でちょっと作って飲みたい時に便利かと思いました。

9. MILO UHT

ここからは粉末ではなく飲料として売られているReady to Drink商品です。UHTとはUltra High Temperatureー超高温・短時間で殺菌処理をした製品で、常温保存可能な牛乳などでよく見られる手法です。成分を見ると脂質・added sugarがトップな一方、カルシウムと鉄が最下位と、手軽ではあるものの栄養的には劣等生です。
なお、以降のReady to Drink商品は商品ラベルのスペースの制限からか栄養成分表が粉末製品と異なり一部のビタミン・ミネラルの表示が省略されています。

10. MILO More Milk and 50% Less Sugar

前出MILO UHTの栄養価の弱点を補う形で登場した商品で、脂質・糖質を抑え、カルシウムが大幅に強化されています。一方で味はかなり甘さ控えめで牛乳感が強く、MILO風味の乳飲料という方が近いです。従って、MILO特有の味が好きな人にとっては物足りなさもあります。こちらは前出UHTと異なり1リットルパックはありませんが、UHTと本商品は125㎖の少量パックもあるため、小さなお子様向けにはちょうど良いです。

11. MILO Peng

225㎖のペットボトル入りReady to Drink製品です。Pengとは「冰」つまりアイスを意味するこれまたコーヒーショップ用語ですが、前出のIce Energyとの違いは脂質が多少高いものの、added sugarが抑えられており、カルシウムも強化されています。但し、食物繊維が唯一ゼロという他のどの商品にもない特殊な配合で、他のビタミン類の量を見てもNutri Upと謳われているほど栄養価に優れているわけでもなさそうです。

12. MILO Original (Can)

残る2つは缶入りのReady to Drink商品で、栄養価は240㎖缶入りなので200㎖換算で比較しています。Originalと謳うだけあって、粉末のRegularと成分的にはかなり近いですが、カルシウムが最も低い点がやや惜しいです。缶と紙パックどちらで飲むか?と問われれば、MILOを240㎖飲むとかなりヘビーなので200㎖の紙パックかなーと思う一方でMILOの紙パックのストローは紙製なので、飲んでいる途中で口元が少し溶けて食味に障るのが個人的に好きでは無かったりします…

13. MILO Calcium Plus (Can)

前出12.の糖質オフ、カルシウム強化バージョンです。added sugarの差は1.8gとさほど変わらず、飲んだ時の味にはほとんど違いを感じません。自動販売機で売っているMILOはこちらが主流な気がします。なお粉も大容量の缶入りのバージョンもあるのですが、それは同じ缶でも"Tin"ですね。今回気づいたのですが、MILOのパウダーはシンガポール生産ですが、缶やペットボトル入りの飲料はシンガポール向けパッケージでもマレーシア産なんですね。

MILOにまつわるその他の小ネタ

コーヒーショップのMILO

MILOはコーヒーショップでもKopi・Tehに並ぶ定番ドリンクですが、飲み方も色々バリエーションがあります。"How to order Kopi like a pro"というコピのバリエーションを紹介したイラストが有名ですが、これのMILO版もありました。(ネスレ公認っぽいです)

How to order your MILO®︎ like a pro

MILO単体でも甘い上に、エバミルクやコンデンスミルクを合わせる飲み方に加え、アイスMILOの上からMILOパウダーを溶かずに振りかける、MILO Dinosaur はかなり強烈です。極め付けはアイスMILOにホイップクリームやアイスクリームを載せた上からMILOパウダーをかけたものでMILO Godzilla というそうです。またMILOにネスカフェのインスタントコーヒーを合わせたNesLo (ネスロ)というドリンクもあります。コーヒーと紅茶を合わせる香港のYuan Yang (鴛鴦)みたいなノリですね。

またネスレは2012年に"Best MILO®︎ Go Where?"という美味しいMILOを出す店の消費者投票キャンペーンをやっていました。現在も残っている店はだいぶ減ってしまいましたが、外で飲むMILOの名店10選がYouTubeで紹介されています。

  1. Al Falah Restaurant

  2. S-11 Food Centre

  3. A Star Coffee Shop @ Fajah Shopping Centre 

  4. Kim Sang Leng Food Centre @ Bishan

  5. Killiney Kopitiam @ Changi Airport T3

  6. Mr. Teh Tarik Eating House @ Tampines Central One

  7. QiJi @ Suntec City

  8. The Roti Prata House 

  9. Toast Box @ United Square

  10. Ya Kun Kaya Toast @ Far East Square 

同じく2013年にはMILO®︎ Champions Leagueと題してハイクオリティなMILOを出すナンバーワンの店を審査員評価と一般投票で決める企画もありました。これは審査員らが実際にお店で作ってもらって飲むやり取りが結構面白いです。

ファイナリストの4店は以下。

  1. Kopitiam @ Hougang Mall

  2. S-11 @ Taman Jurong Food House

  3. Sing Heng Coffee Stall @ Toa Payoh Lor4 Blk93 Market & Hawker Centre

  4. McDonald’s 

ここでふと疑問に思ったのは、同じMILOのパウダーから作るにもかかわらず店員の技術でどれだけ味に違いが出るのか?という点ですが、前出のYouTube動画でMILO愛好家が語る美味しいアイスMILOの条件として挙げられていたのは"Gao (厚)"という要素ーつまり、MILOのフレーバーが薄まらず、しっかりと感じられる事でした。しかし、かといって粉を沢山入れて濃い目に作れば良いかというと、甘すぎるのもまたさっぱりとした口当たりを損なうため、マイナスポイントであり、氷で薄まる分も計算した上で絶妙な濃度で作るのが腕の見せどころという訳です。

MILOを使ったレシピ

MILOは粉乳・ココア・砂糖が合わさっているため製菓材料としてお菓子作りとの相性が非常に良いです。麦芽の独特の香りが加わることでアクセントにもなり、手作りのお菓子が一味違う仕上がりになります。最もご家庭でも試しやすいのはパンケーキで、ミックスに合わせるだけで、栄養の補強にもなります。その他にも粉末のままアイスクリームやヨーグルトにかけるといった使い方もあります。私が好きなのは、無糖のコーンフレークにMILOのパウダーをかけ、少な目の牛乳で和える食べ方です。牛乳を吸ってダマになったMILOとパリパリのコーンフレークが一体となってとても美味しいです。
以下のリンクではフォンダンショコラ、ブラウニー、ティラミス、お餅など15種類ものMILOを使ったレシピがありますのでぜひお試しください。

MILOを含むシングリッシュ "Stylo Milo"

MILOがどれだけシンガポールの日常に溶け込んでいるかを象徴しているのがこの"Stylo Milo"というシングリッシュ(Singapore+English シンガポール特有の表現)のフレーズです。意味としてはスタイリッシュである、容姿が良いという意味で、Stylo単体でも同じ意味ですが、Miloが加わる事で韻を踏みリズムが良くなります(読み方は「スタイロマイロ」です)。ここでいうMILOに特段の意味はなく、日本語で言うところの「仲良しこよし」の「こよし」とか、「驚き桃の木山椒の木」といった付け足し言葉のようなものです。

MILOは本当に健康に良いのか?

MILOで糖質オフ商品が多く打ち出されるように、MILOを嗜む上で気になるのがそのカロリーです。200㎖で120kcal前後と330㎖で139kcalのコカコーラオリジナルを上回ると知ると少々怯んでしまいますが、その一方でMILOの商品にはいずれも"Healthier Choice"を表す赤いピラミッドマークが付されており、それもまた困惑させる一因です。
MOH (Ministry of Health)のHealthHubの説明を読むと、このHealthier Choice Symbol (HCS)は全41種類あり、代表的なものは高割合の全粒粉、高カルシウム 、低糖質、加糖ゼロ、無糖、減塩、無塩、低飽和脂肪酸、トランス脂肪酸フリー、低GIなど実はかなり細分化されています。付与の基準は食品の種類ごとに異なり、科学的調査、市場調査、他国の同種基準とのベンチマーキングに加え、メーカーと共同で達成可能性の評価も行っているとされています。すなわちこのHCSは食品の一部の栄養素の優れた部分を評価しているに過ぎず、その食品がトータルで健康に良い食品であることを保証しているわけでは無い点、留意が必要です。

糖質の吸収されやすさ≒血糖値の上がりやすさを示すGlycemic Index(GI)の値を見ると、MILOはおおよそ55とされ、コカコーラの53と同程度であるとされています。ネスレは公式データとしてGIを公表していないため、以下のUniversity of Sydneyのデータを採用していますが、結果として巷の定説を裏付けるものでありました。(55はオーストラリア国内製品の値で、ニュージーランドのものはこれより若干低く52でした。またコーラも生産地によってGIにはかなりバラツキがありますが、53は最低値です)

なおこのGIはMILO粉末をお湯で溶いた場合の値であり、GIの低い低脂肪乳に溶かす事で、GIを40台に下げられるとあります。
総評しますと、やはり栄養不足の戦前に開発された飲料という背景もあり、栄養過多な現代においては若干過剰な糖質と言わざるを得ませんが、エネルギー消費の多い子どもやスポーツを嗜む人には美味しく多種の栄養を摂れる優れたドリンクと言えると思います。なお日本で登場した「ミロ大人の甘さ」は砂糖控えめを謳いますが、同じ容量中の糖質はシンガポールのGao Siew DaiやGao Kosongの方が低く、依然として1杯100kcalを超えるエネルギーではあります。

Jurongの工場見学

結論:大人はできません。残念!大人が引率する学童のみ受け入れているようですが、とても楽しそうです。大人の見学も受け入れてくれるようになると良いのですが…

時代を超えて愛されるMILOはもはやシンガポールの文化の一部と言ってもよいでしょう。シンガポールにお住まいの方、そしてこれから旅行でいらっしゃる方へ、シンガポールの多種多様なMILOカルチャーを楽しむのも、きっと日本ではできない貴重な体験だと思います。


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