見出し画像

『もうすぐ あえるね』

〈三五年前、お産のため初めて二歳十一ヶ月の長女と離れて過ごすことになった私は、娘が心配でいてもたってもいられず、絵本を作り始めました。
見様見真似で糸綴じをして、色鉛筆で絵を描きました。ぬいぐるみのきりんさんたちと冒険しながら、娘がその小さな体で元気いっぱい自立していくお話です。

去年、長女は第三子を出産しました。そして『カラペハリエ』という貼り絵のワークショップを主催して、子育て仲間と共に一年の時間をかけて、一冊の美しく瑞々しい絵本を完成させました。
「子どもの為に、自分自身の為に、ずっと残る物を自分で作るってとても嬉しいこと」と娘は言います。そして「小さな頃、母は私に、手作りの絵本を作ってくれました。その事は、今でも自分の心の宝物として、色濃く刻まれ、手に取るたびに嬉しい気持ちになります」と。
娘がかけてくれたことばや、絵本を囲む孫たちの笑顔は、私の胸を内側からほかほかと温めてくれます。さやさやと清々しい風を届けてくれます。

三五年の時を経て誕生した、母と娘、それぞれの手作り絵本を、娘の賛同を得て、
『もうすぐあえるね』という連作物語にしてみました〉


ゆきがふるころに 
〜かおるへ〜
(一九八八年)



あさ めがさめるとゆきでした
まどのそとはまっしろ
「まぶしいね おはなみたいね おかあさん」
あれ おかあさんがいません


「おかあさんはどこ」
するとゆきのなかから うさぎさんが
「いつつ ねるとかえってくるよ」
それでうさぎさんといっしょに
ゆきだるまを いつつ つくりました

またあさです
「おかあさんはどこ」
するとくまさんが
「よっつ ねたらかえってくるよ」
とわらって だいすきなホットケーキを 
よんまい やいてくれました

つぎのひはこうえんであそびます
ブランコ おすなば すべりだい
でもときどきおもいだして
「おかあさんはどこ」

するとロッキーが 
ワンワンワンと みっつ ほえました

よるになりました
「おかあさんはどこ」
ちょっぴりさびしくもなりました
「おかあさんはびょういんだよ 
あとふたつで かえってくるよ」
おとうさんがこたえます
それからおふろにはいって
おおきなシャボンだまを 
ふたっつ つくってくれました

♪ねんねんよ おころりよ
かおるはいいこだ ねんねしな
ちっちゃくて ふわふわの
おみやげ きっとあげようね♪

つぎのあさ
「おかあさんはどこ」
ぬいぐるみのキリンさんがきいたので
わたしは
「あとひとつ」
とおしえてあげました
だって
おかあさんはあしたかえってくるんです



ゆめをみました
ゆめのなかで みんないっしょ
くまさんといただきます
うさぎさんとおいかけっこ
しゅっぱつしんこう きりんさん
ロッキー ボール ポーン

あさ めがさめるとゆきでした
「まぶしいね おかあさん」
「ほんとね」
「あっ おかあさん おかえりなさい」

「ただいま」
おかあさんは 
そっとあかちゃんをだきあげます
ちっちゃくて ふわふわのおみやげって
このことだったのね

「ゆきがふるころ おねえちゃんになって
そして もうすぐさんさいになるんだね
かおる おめでとう」


(絵と文 神山 朝子)


十月十日(とつきとおか) 

〜たからものの日々〜
(二〇二三年)

若葉が青々と輝く季節…
あなたがお腹にいることを 知りました

あなたはその時 全長3センチ
ミニトマトぐらいの大きさだったけど
もう既に ちゃんと人の形をしていて
手足をバタバタさせていた!
…ドクドク ドクドク…
心臓の音も元気に聞こえたよ

あなたが女の子だとわかった日
にいには 大泣きしました
「男の仲間が欲しかった!」ってね
一方 ねえねは この笑顔

みんなそれぞれに
あなたのことを想像して
ワクワク ドキドキしたよ

暑い夏
あなたが お腹の中で元気に動くのを
はっきり感じるようになりました
「今日も元気だよ」
「あんまり無理しすぎないでね」
あなたからのメッセージが
毎日 とてもうれしかったよ

SUZU

秋には あなたの名前が決まったよ
その頃にたまたま観た 2つの素敵な映画
どちらも主人公が
「すず」という女の子だったんだよ
彼女達の芯のある生き方
「すず」という可愛らしい音の響きに
とても心が惹かれたの

冬の朝には たくさん歩いたね
霜で覆われた畦道の草が
キラキラ輝いて きれいだった
温かい太陽をお腹に当てて
新鮮な空気をたっぷり吸い込んで
あなたに届けたよ

あなたと過ごした十月十日(とつきとおか)

ママの大切な
たからもの
“もうすぐ あえるね"

(貼り絵・文  大野 薫)

※童話の雑誌「くろひめ」32号寄稿作品に、絵本の写真を加えて加筆しました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?