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大海へと旅立った白杖

黒姫ヒーリング紀行⑤


大海へと旅立った白杖


[滝浴(たきよく)とヨガと森林浴の1日]
黒姫高原から日本の滝百選の地震滝(ないのたき)別名、苗名滝(なえなたき)まで歩く約7㎞のロングコースは、信州信濃町癒しの森®が提案する森林散策モデルのなかのひとつ。森林浴と滝浴の両方を味わい森と一体になれる1日コースだそうです。

地震滝(ないのたき)で滝浴


2017年9月4日、晴れ渡った空に初秋の黒姫山が美しい早朝。
私たち「極上の旅」の仲間7人は、滝をめざして出発しました。  
トレーナーさんとみんなで相談して選んだオーダーメイドプラン。それは、安全や体調を考慮して、宿から車で滝入り口の駐車場まで送迎してもらい、滝つぼまで片道30分程の山道をゆっくり歩くショートコースです。
滝浴を満喫したら、車で黒姫高原に戻ります。ヨガインストラクターのりえちゃんを囲んで、木漏れ日の中で、リストラティブヨガ(休息のヨガ)をして心身をほぐします。
お腹がペコペコになったところで、へっぽこぐるまんさん特製のピクニックランチ。
帰りの時間まで、ハンモックに揺られたり、御鹿池周辺を森林浴しながら自由に過ごすというゴキゲンな1日コースです。

オリーブさん、ごろさん、うたどりさん、エルフちゃん、こじかちゃん、ツムギの同世代6人は、しなやかで長くゆるい絆を培ってきたあいだがらです。私の次女で25歳の豆柴ちゃんも加わり、久しぶりのにぎやかな再会となりました。

今回、私たちのサポートをお願いしたのは、信濃町森林メディカルトレーナーの、りえちゃん、おとうちゃん、みっちゃんの3人です。

エルフちゃんが感想で「トレーナーさんがいて下さったおかげで、それぞれが自分と向き合えるときを持てたと思いました。」と書いていましたが、私も同感です。今まで以上に絶妙な距離感で見守ってもらえたように感じています。

元気のある豆柴ちゃんは、おとうちゃんと一緒に崖をよじ登っていましたし、昆虫に興味があればじっと見ていられました。泣きたければ涙が乾くまで泣かせてもらえました。急かさず、止めずに、待っていてくれました。

森林メディカルトレーナーのおとうちゃんのお便りをご紹介します。

そっと寄り添う森林メディカルトレーナー


「滝にお連れできて良かったです。あの水量は例年の倍以上です。景色だけでなく、独特の匂いや空気感、体に響く感じは、今年は特別だと感じていました。巨石に寝転んでの滝浴、気持ちよさそうでした。 
初めてお越しいただいたオリーブちゃん、ごろちゃん、豆柴ちゃんは、時間の使い方が独特なので、少し戸惑いもあったかもしれません。一言で言えば、目標(時間、内容)に向かって進む(周りのために)のではなく、感性や心のままに過ごす(自分のために)という時間にしていただければな、とご一緒していました。」

つまり、プランは一応あるけれど、その場の空気で自由自在に伸び縮みするわけですね。

実際の滝浴の様子はこんなふうでした。うたどりさんによる手記です。

滝浴・うたどりさんの手記


「滝つぼの前の巨石にあがって友人たちが手を振っている。
「私達もそこへ行きたいです!」
目の見えない私とこじかちゃんは、声をそろえた。
「わかりました!」
みっちゃんとりえちゃんは私達の先に立った。
「ここには大きな岩がありますから、足を大きく広げてまたいでください」などと伝えながら、ごつごつした岩の間を案内してくださる。腕やリュックサックにふれて動きを感じながら、ぴったりとついて進んだ。そして滑らかな巨石に寝そべった。
絶え間ない滝の轟き。水飛沫を含んだ清涼な風。森の深い香り。
大樹が広げた枝が優しく風にそよいで、まるで掛け布団のように私たちを覆ってくれていると聞いたとき、私は急に泣けてきた。」

吊り橋のアクシデント



さて、おもいおもいに滝浴を満喫した帰り道のことです。この吊り橋を渡りきれば駐車場というタイミングで、アクシデントが起こりました。こじかちゃんの白杖が手から離れて、岩だらけの急流へ落ちてしまったのです。

いつも冷静なこじかちゃんが、
「どうしよう! グラスファイバーだから粉々に砕けちゃうよ。きれいな自然を汚してしまう!お魚さんが食べてしまうよ!」
と、おろおろするのを見て、私は、
「え、そこ? 帰宅の心配じゃなく?」
とびっくり。
その上、うたどりさんが、
「落ちるべくして落ちてくれたんだねぇ」
となぜか晴れやかに超然としているので、もうすっかり驚いてしまいました。

うたどりさんは滝で癒やされたあとで杖が落ちた偶然に、スピリチュアル的な暗示を受けたようでした。

アクシデントからリカバリーするというのはすごいことです。ましてや、パーソナル・リカバリー(自己回復)は、容易ではないはずです。
森林セラピーによって、うたどりさんは思いがけない方向から自己回復のきっかけを与えられ、私たちはその瞬間に立ち会えたのです。

3年が経過した今、私はその奇跡を書いてみたくなりました。試行錯誤するうち生まれたのが、創作民話「ナイノタキと白い鳥」という作品です。

ところで白杖の件ですが、ペンションのオーナーさんがウォーキングポールに白いビニールテープを巻いて即席の白杖を作ってくれました。おかげで、みんながすっかり元気になって、予定通りに帰宅できたことは言うまでもありません。ありがとうございました。

創作民話「ナイノタキと白い鳥」

むかしむかしあるところに、仲の良いあねいもうとがおりました。
姉は毎晩、切り立った崖に追い詰められて暗闇に落ちていく夢ばかりみては、悲しみにやつれるばかりでございました。妹も姉の身を案じて苦しんでおりました。

ある日、姉はくりかえされる夢の中で
「ココヘオイデ」とじぶんを呼ぶふしぎな声を耳にします。それは信濃と越後の境にあるナイノタキの声だったのです。
そこで姉妹は、手をとりあって山に分け入り、美しい滝をようやく見つけました。
ふたりは滝つぼの前の大きな岩に立って、虹色のしぶきを浴びながら祈り続けます。

ふいに、姉のからだから白いモノが飛び立ちました。真っ白な羽をした美しいシロツバメです。激しくもだえるように羽ばたきながら、鳥は滝をさかのぼり空へ舞い上がっていきます。
時を同じくして、妹の大切な白い杖が、するりと手から離れて急流へ落ちていきました。
白い杖は、ふたりの身代わりとなりました。
苦しみをいっしんに背負って落ちるべくして落ちてくれたのでありましょう。
悲しみは砕けて散って流れていったのでありましょう。
姉妹は抱き合ってあつい涙を流しました。

大空を自由に飛び舞うシロツバメと、大海へ旅立った白い杖は、ナイノタキの宿り神となりました。岩の上の小さな祠にいまも大切に祀られております。

滝の轟くこのあたりは、いつしか、「癒しの森」と呼ばれて、ひとびとのこころのよりどころになったそうな…。

ツムギ 61歳・女性。
旅と本と、美味しいものが好きな整体師。
整体師歴5年

(ロゴス点字図書館 月刊点字雑誌『あけのほし』2020年7月号掲載)

#創作室

#虹の滝



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