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同じ月を見上げている

同じ月を見上げている

皆既月食の夜に

赤茶色に翳った月が明るく輝き始めるのを見上げていたら、
子どもたちの無心なつぶやきをふたつ、思い出しました。
まるで無垢な自由律俳句のようなことば…。

一つは、
「お月さまー そこから海が見えるかー!」

これは、親友の広沢里枝子さんが、幼い子どもさんたちとの会話を綴った会話集
『あきと まさきの おはなしの アルバム '90(第四集)』の表題です。
元々は、「月に聞く」という題の、

まさき「あっ、おつきさま。われた おつきさまだ。オーイ、おつきさまー!そこから うみが みえるかー!」から、表題として一部を抜き出しました。

里枝子さんの序文によれば、
「ひょうだいと した 「おつきさまー、そこから うみが みえるかー!」は、ツムギ さん おやことの かなざわ りょこうで、はじめて うみを みた まさきが、しんしゅうに かえってから、つきを みあげて、むしんに さけんだ ことばでした。」
とあります。

表紙の絵は、あきひさ君が描いた大きなまっ赤な蟹がモチーフでした。
低予算の手作り文集のため赤色が出せなくて、満月色の表紙に六匹の黒い蟹が元気いっぱいに横歩きをしているデザインです。
可笑しかったのは、もうすぐ3才になる私の長男がこれを見て

「カニさん、おつきさまがみえるかい」
と言ったこと。
これが、月を眺めて思い出した、ふたつめのつぶやきです。

『あきと まさきの おはなしの アルバム』

『あきと まさきの おはなしの アルバム』は、
記録、発行・広沢里枝子 / 編集・神山朝子のコラボで、第4集まで制作しました。

里枝子さんの序文の一部を再録します。
(余談ですが、この頃の里枝子さんは、点字をカナに変換するタイプで執筆していました。この少し後に音声パソコンを取り入れ、ワードやネットをどんどん使いこなすようになっていきます。)

「ことしは、ちょうなんの あきひさが にゅうがくし、こころを いっぱいに して、かけだして いく こどもたちを、いのりながら みおくる ひびでした。わたし じしんも、あきひさの にゅうがくと どうじに、ラジオの しごとを いただき、かだいを のりこえる たび、ときはなたれて いくような よろこびを かんじて います。ただ、ことしは まだ、べんきょうや じゅんびに じかんが かかって しまい、うちに いても、きもちの きりかえが うまく できず、ははおやと して、この ほうこうで いいのだろうかと、ゆきつ もどりつする まよいも たえず ありました。けれど、もう、もどる ことよりは、こころ はずませて、きりひらいて いく ことを かんがえようと おもいます。」

里枝子さんがラジオのパーソナリティーの仕事をはじめ、意識が外の世界に向き始めたのと同じ頃。私自身も、脱サラしたオットが巻き起こすハリケーンのような渦巻きの中に放り込まれて、もみくちゃ(苦笑)。
3人の子どもたちも巻き込んで、てんやわんやの共働き生活へと一変していったのでした。

シンクロニシティ

離れて暮らすふたくみの母と子が、どこか似たような会話を交わし、あがいたり、もがいたりしながら、心を響き合わせている。
シンクロニシティを感じている。
そのことが不思議おもろかったし、
そのことでずいぶん助けられてきました。

同じ月を見上げている。
それだけで生きていける。

2022年11月8日

#創作室



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