市民開発と統制

ご興味を持っていただき、ありがとうございます。
キキモトといいます。今回は市民開発のお話です。
https://twitter.com/ticktackworker


市民開発、内製化、それらを前提としたリスキリングが流行しています。(この記事ではまとめて「市民開発」と表現します)

ノーコードやローコード化で、ITツールを作成する敷居が下がったことで市民開発の動きが広がる一方で、それに危機意識を持つ方も居ます。

私は、双方の気持ちが解ります。
どちらも「状況を良くするために動いている」のです。

今回は、状況を良くしたい方同士で力を合わせるために、橋渡しのための考え方を提供できないかと考えました。


※最初は図が小さいのが気になるかもしれませんが、ひととおりお読みいただきたいです。


さて、市民開発の話の前に、まずは基本を共有する必要があります。説明の便宜上、業務のためのシステムやツールをまとめて「IT」と表現します。

  • 社外の受注者が、ITを作っていました

  • 社内の発注者は、ITを使う側でした

※もっと遡れば作る人=使う人だった時代もあると思いますが、ややこしくなるので割愛してます。


市民開発が推奨されることで、発注者(発注者企業の内訳)が2軸になります。
ITを使う側でありながら、作る側となります。

※あくまで「市民開発」として格上げされて以降のお話です。もともとエクセル等で作っていたツールの話は、ややこしくなるので割愛してます。


さて、ここからが本題です。
この組織が100人で構成されているとします。


まず、使う人の軸が「作れる」「作れない」に分かれます。

※統計ではなく体感です。ご自身の体感に置き換えても結構です。


「作れない人」が「作る」のは矛盾があるので、作る人の軸も広がります。
頭と手を動かして「作る人」は10人とします。

なお、「作れない人」とネガティブ気味な表現をしていますが、善し悪しを言いたいのではありません。そもそも全員が作れる必要は無いのです。


続いて、IT作る人の中にも「統制」を考える人と考えない人がいます。
この辺りから、「市民開発に危機意識を持つ方」の危惧するところです。

さらに、統制を考える人の中にも「場当たり」か「計画的」かというのがあります。

場当たりは、とにかく規制するタイプです。
計画的は、理由あって規制するタイプです。

なお、結果的に「場当たり」のほうが適切な対応をとっている場合もあると思います。(しかし‥場当たりなので検証が出来ません)


続いて、計画的に統制する方の中にも「権限」のある方と無い方がいます。
右に行くほど人が少なくなっているとご理解いただければ問題ありません。


縦軸もいろいろありますが、今回は横軸にフォーカスしたいこともあり、60名で固定します。
この60名は、ITを使うことはできても、作る側に回る気はないものと捉えてください。(繰り返しますが、ここに善し悪しはありません)


さて、市民開発は「IT作れる」かつ「IT作らない」方を、「IT作る」に移行する動きです。
20名が移行し、25名が「IT作る」側になったとします。

最初は統制を考えません。
しかしそのうち、数名が壁に突き当たります。

  • 同じ意味のデータを合わせないと非効率だ‥

  • 他の市民開発アプリと連携できないと非効率だ‥

  • 既存の業務システムとも連携が‥

  • ユーザインターフェースも統一しないと‥

  • 統一性が無いまま乱立すると危険かも!!!

そして、自ら「統制する」側に移行します。

しかし、個人の気づきで行う「統制」は、組織としてのIT戦略や権限に基づくものでは無いので、あまり効果がありません。
「どうあるべきか」が伴わないため、確実に存在する現状をベースとした「現状維持」「現行踏襲」しか言葉にできないのです‥。

そこでさらに数名が、社内ITの展望を考えたり、勉強するなどして「計画的」に統制することを目指します。


さて、実はこれは、割と理想的な良い流れです。
このまま進んで「権限あり」になるなら良いのですが‥

実はそもそも「権限のある方」が、「IT作る人」の軸に居るとは限りません。
あらかじめ鎮座し、権限を持っていることも多々あると思います。(その善し悪しをいうつもりはありません)

つまり、権限のある方が「作らない人」側であったり‥
そもそも「IT作れない(興味が無い)」場合もあります。

権限は、3軸目としてどの領域でも効力を発揮し得ます。

ではそれが、市民開発とどう関係するか。

たとえば権限のある方が「統制を考えない」場合、わかりやすく極端にいえば‥効果や定着状況を考えずに、新規のITツールをガンガン導入します。

すると「統制を考える」方々は、ITツールの作成を自粛し始め、「IT作らない人」に移行します。
統制が必要と考える側から見ると、ある程度の統制が無いと逆効果になる可能性があるように見えるからです。

統制の必要は無いと考える方のために喩え話をすると‥ 「便利だから」「無料だから」といって、家族全員が各々で、好きな冷蔵庫を買ってきて、好きな場所に配置し、それぞれで食材を詰め始めたらどうでしょうか。

ひとり1台とは限らず、いつの間にか増えます。

たちまち「どこに何があるのか」「賞味期限はどうなっているか」誰も解らなくなります。

でも日々の料理を作る人はいて、その中から材料を見つけたり、日々の献立を考えたりする必要があります。

これはたとえ話ですが、かなり近い状況になると想像いただいてよいと思います。


冒頭で述べたように、私はどちらの気持ちもわかります。
ただし、順序よく理屈を積み重ねれば「統制」側に肩入れするのが現実的とは考えています。


続きです。

統制を考える人たちが「作らない」側に回ると、「作れない」人が増えます。

どういうことかというと、「統制を考えない」方々は、実は無意識的に「統制を考える」方々によって環境を整備されたうえでITを利用しています。

統制を考えない状態でIT環境が複雑化すると、ITを作るための前提も複雑化します。
最も解りやすく、且つクリティカルなのは「どのデータが本物かわからない」です。


こうなってしまうと、市民開発は(自覚の有無はともかくとして)失敗に終わる可能性が高くなってしまいます。
もちろん、組織の規模や前提となるIT環境によってその結果は異なります。



ではどうすればよいのかといえば‥
理想的には「権限のある人」が、すべての要素を持っていることです。
その権限で、計画的な統制意識を持ち、基本的には市民開発を推進しつつも、ときに抑制します。

リスクを低減しつつ、効果を最大化する方法をしっかり思案し、誤っていたら補正するのです。


そのためには、流行の製品や技術だけでなく、基礎となるデータベースなどの具体的な知識から、IT戦略などの抽象的な思想まで学ぶ必要があります。

喩えがよいか解りませんが、雑草か野菜か解っていない状態で野菜農園を運営するような状態が続くと、雑草まみれになるのです。(奇跡的に良い野菜だけ育つかもしれませんが、それは経営ではなくギャンブルです)


最後に、なぜ市民開発の話のキーパーソンが「権限」を持つ必要があるかといえば‥それぞれの領域には「見えない壁」があるんです。

  • ITを作らない人には、作る人の思案が見えません

  • 統制を考えない人には、考える人が解りません

  • 場当たりの人には‥

と、それぞれに壁と対立が出来てしまいます。


この壁を越えられるのは、責任を伴う「権限」だけです。

終わりに、私は市民開発を応援しています。
でも、危機意識を持つ方の気持ちもわかります。

双方の考え方の溝を埋めて、理解し合えたらより良くなると考えています。


この記事が参加している募集

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?