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スペイン巡礼の道を歩いた記録 -カミーノ・デ・サンティアゴ-

2016年、スペインの大地を500km徒歩で歩いた。サンティアゴ巡礼の道、現地の言葉ではカミーノ・デ・サンティアゴと言う。キリスト教徒にとっての聖地を目指し、フランスとスペインの国境、ピレネー山脈からはるばる800kmの工程を歩くのが、この巡礼の道だ。日本人にとっては四国のお遍路をイメージしてもらえばわかりやすいと思う。

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動機はいろいろあって、フィリピンでの語学留学を終えた後だったので、いろんな人と出会える場所へ行った方が英語も使えると思った。
通常、旅の英会話というのはせいぜい自分がどこへ行きたいか、何が欲しいか、そういうことがなんとなく言えて、相手が言っていることがなんとなく理解できればOKなので、実はそこまでしっかり会話ができる必要はない。
せっかく語学留学をしたのだから、その後なんとなく海外を見物をしただけで帰ってくるのはもったいない。もっといろんな人と出会って、異なる文化や思想についても知りたいし話したいという思いがあった。

このカミーノ(巡礼の道を略してこう呼ぶ)は、世界中からキリスト教徒もそうでない人も、それぞれの目的を持ってやってくると知り、これはチャンスだなと思った。自分が世界中を歩かなくても世界から歩きに来ているなら、そこでいろんなことを知れるんじゃないかと、好奇心と少し打算的な考えで私はカミーノを歩いてみることにした。
実際に歩いてみると、敬虔なキリスト教徒としての信仰心から歩いている人は多くなく、人生の節目として、仕事をリタイアして、大切な人を亡くして、心をリセットしたくて、など巡礼者が歩く理由は様々だった。

そもそもの知ったきっかけは小野 美由紀さんというライターのブログをたまたま読んだところからだった。どうして見つけたのか、もう覚えていないけど、旅に関するブログを探していたときに出会った気がする。当時、多忙な仕事をしていて、私の遠くに行きたい願望は日々つのっていた。だからブログを見つけてからは、仕事の合間にブログをちびちびと読んで、いつか自由な気持ちでこの道を歩けたらと、遠くスペインの突き抜ける青空をいとおしく眺めていたのだった。

カミーノは世界中から人が訪れると書いた。今思い出しても、そこで出会ったのはドイツ人、アメリカ人、韓国人、台湾人、スペイン人、ポルトガル人、ノルウェー人、日本人、オランダ人、アルゼンチン人、ペルー人、ポーランド人、ハンガリー人、アイルランド人、イギリス人、イタリア人、メキシコ人、コロンビア人、デンマーク人、フランス人etc...(思い出した順に)
本当に多種多様な場所から来ていた。近場のヨーロッパ以外ではスペイン語圏ということで南米の人が多かった。

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日本で暮らしていると、つい「ヨーロッパ」とか「欧米」という大きな言葉で囲ってしまいがちだけど、こうして実際に時間をかけて道を歩き、多様な人たちと会話をして知ったのは、ヨーロッパという空間だけでも、その中に大小さまざまな国や地域が広がっていること、そこに生きている人たちは、一見私たち日本人からは見た目では「白人」としか認識できなくても、実にいろいろな境遇や出自を持っていること。また、そうした人達は自分の想像を超えて、仕事や勉強のためにヨーロッパ中や、さらに地域を超えて国境を越えて移動して暮らしていることなど、たくさんのことを肌感覚で知ることができた。普段ニュースを見ていると、中国やアメリカと言った大国の話題が多いだけに、日本は小さな島国というイメージを抱きやすい。だけど実際にはもっと小さな国はたくさんあるし、経済力や文化面での世界における存在感という意味では、日本も大国の部類に入るだろう。そうしたことも比較をして初めてわかることだ。

どこかの写真家が言っていた。旅は自分の中の世界を見る画素数を上げていくことだと。旅を通じて経験を積むと、世界がいかに複雑に多くの色を持っているかがわかる。その時はわからなくても、原体験として自分の中の一つになる。私にとってスペインは、行くまではサグラダファミリア、ガウディ、ピカソ、ダリ、フラメンコ、闘牛といった単語や概念でしかなかった。だけどカミーノを歩いてからのスペインは私にとってそれまでとは全く違うものになった。そこには概念や単語だけではなくストーリーがある。

もう5年以上前の出来事ではあるんだけど、純粋に当時の記憶を書き起こしたいという気持ちが湧いてきた。パンデミックが落ち着いたら、また次の旅に向けた構想もあるし、このタイミングで消化しておきたいという気持ちもある。今はじっとステイホームでこれまで歩んだ道を回想してみようじゃないか。

そしてこの記録が誰かの目に留まって、カミーノを歩いてみたいと興味をもってもらえたらなおうれしい。それでは、実際の旅のはなしはまた次回へ!

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