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夜の漢江で語り合った夏。【旅日記】

「いや実は、去年、半年くらい大学を休んでしまったことがあって...」

漢江。それは韓国にある立派な川である。川沿いにはコンビニやカフェ、ミニ本屋が入っている建物、サイクリングロード、筋トレマシンのある広場などがある。

「それがきっかけになって、今回、韓国へ来ることになって...」

帰宅するビジネスマンはサイクリングロードを颯爽と駆け抜ける。おじいちゃんたちはせっせと筋トレ。カップルは川沿いで素敵な時間を過ごしている。

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「なんだかわからないうちに、急に学校に行けなくなっちゃったんだよね...」

対岸には夜景が見える。川にかかる橋を車やバス、電車が通る。

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「まさか自分がそんなことになるとは思わなかった」

メンバーとダーツを楽しんだ後、ホテルに戻らず、夜の散歩だ、と、漢江まで歩いてやってきて、川岸の階段に座って話し始めたのである。

たぶん、どうして今回韓国に来たの、そんなテーマだったと思う。

「でも今日、本当にみんなに会えてよかったよ、ありがとう」

私はなぜか、今日あったばかりのメンバーに、自分語りを始めたのだった。何も恥ずかしくなかったし、事実を話しただけだった。なぜなら、不登校をしたことは、必要なことだったと解釈していたから。私の中では、不登校がきっかけで韓国へ来た、そこにつながりがあると思った。

「Tiger-M、実は私も...」

メンバーの一人が、そう言って話し始めた。自分も学校を休んでしまったりする、実際、私だけではなくて、大学で来なくなってしまった人もいるし、メンタルヘルスの問題は、うちの国にも存在する、と。

「日本と韓国は、自殺が多い国だよね」

日本はそんな風にも認識されているんだ、と思った。海外に行くと、基本、「ジャパン!ホンダ!スズキ!ヤマハ!アニメ!」と言われることが大半だったから、日本の負の現状を認識している人がいると知り、私も他国の勉強をしよう、と思った。


「でも、うちらの国にも残念ながら、自殺は存在する。そこまでいかなくても、苦しんでヒキコモリになる人はいる」


ヒキコモリという日本語は、そのまま世界共通語になっているようだ。何とも言えない悲しさが私の心にじんわりと広がった。

楽観的で陽気でいつも楽しそうだというイメージがあった東南アジアの国々にもそういう社会問題があるんだ。当たり前の事実かもしれないけど、私には衝撃だった。そうだよね、前に誰かがカレーが嫌いなインド人もいるって言ってた、それと同じだ。

「私もそういうことがあって...」

次から次へとエピソードトークが始まる。不思議な空間ができた。ネガティブな過去をシェアしてそれを受け入れる。そして、みんなここで今日出会えたのって、奇跡だよね、ありがとう。


本当に素敵な時間だった。あの場で話したみんなは、やさしい心の持ち主だった。人生立ち止まることも全然アリだ、と。人生立ち止まることを悪く思って自分を責めないでほしい、と。全部必要な時間だ、と。

国や文化は違えど、人間、なにで嬉しくなったり悲しくなったりするか、という核の部分に、違いはないんだなと感じた。

まだ初日だけど、みんなとこんな話ができるなんて。

それが一時的か永続的かは置いておいて、幸せな人間関係は過ごした時間の長さで測られるものではない、と改めて思った。

これは、心理学でいう、「返報性の法則」だ。私が話し始めたから、みんなも話し始めたんだ。


心地いい空間っていうのは、自分が率先して作ることができる、ということを学んだ。そして、海を越えて同じような悩みを持っている人たちがいること、立ち止まったっていいって思ってる若者が世界のあちこちにいること、を肌で感じることができた。やっぱり、どんな経験も無駄じゃないと思った。

ふと目をやると、近くにいたカップルたちがいつの間にかいなくなっていた。話に集中しすぎて、みんな時間を忘れていた。もう夜もいい時間だった。



誰かが立ち上がりながら、こう言った。



「みんなそれぞれ大変だけどさ、頑張って生きていこうね」


あの夜は、忘れない。


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