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【ネタバレ無】もしもエヴァファンの市場調査を設計するなら

元々、市場調査の専門家としての自己紹介がてら、自身の経験や知識を紹介していくつもりで始めたnoteでしたが、息抜きで書いたアニメ感想の方がアクセス数いいので最近すっかり趣旨が変わっておりました。
今回は原点に立ち返り、市場調査の話を書いてみたいと思います。
市場調査とはさまざまな目的がありますが、一番多いのは顧客層の理解かと思います。今回は、もしエヴァとコラボすることになった企業が、エヴァファンを理解するために市場調査を依頼したらというシチュエーションで、市場調査設計の例を説明したいと思います。マーケティング調査に興味がある方は読んでいってください。シン・エヴァのネタバレはありません。

前提条件

【依頼人】エヴァンゲリオンとのコラボ企画を実施予定の文房具屋
【調査全体の目的】エヴァのどの要素と、自社のどの要素を掛け合わせて、コラボの効果を最大化させることが知りたい。
【依頼する調査のゴール】目的を検討するために必要な顧客のモデルを作りたい(エヴァファンのペルソナを作りたい)

調査のゴール:顧客のモデル、ペルソナの作成とは

今回設定した調査のゴールについて補足します。市場調査では依頼として、顧客のモデルを作りたい、ペルソナを作りたい、といったことが多いです。商品を設計し、売り出すために一番理想的な状況は、試作や検討を直ちに顧客に聞いて売れそうか確認することです。しかし、実際にはそのようなことはできませんので、顧客のモデル(ペルソナ)を用意します。これを参考に自分自身が顧客になりきって評価をするという使い方で検討をします。自分がファンでなくとも、このような感性や行動をする人物であれば、この商品を手に取るだろう/取らないだろうと検討するのです。
顧客のモデル/ペルソナを作る際に注意する要素は大きく二つ。
①実態に基づいて、より細かく、具体的な像を作ること。
②具体的に作りこみすぎないこと(客観性を持つ)

相反する二つのようですが、これが大事です。おおざっぱに作ると評価や判断に使いにくいです。例えば 30代男性サラリーマン というようなくくりだけでは、どのような行動や思考をするか、見当がつきません。一方より具体的に作りすぎたものをベースにしてしまうと普遍化できず、その一人しか買わない商品もできてしまいます。
そのためある程度の数を調査し、共通点など乱しながら①②のバランスよく設計するのが基本です。
ペルソナを作る際に、想像で作る方もいるのですが、やはり想像では①が満たせないことが多いですね。また②を意識しすぎて中途半端なものになることも多いです。ちなみに相反するように見える①②ですが、実際には相反するものではありません。具体性もなく、客観性もない設計という両方を満たさない設計も多々見られます。俺は入り込まずに、客観的に分析したぜみたいなスタンスで取り組んで、入り込みもせず客観性もないペルソナが生まれることもあります。初心者は①に入り込んでから②を獲得するステップの方が成長するのでは、というのが私の見解です。
ちなみに、単にエヴァファンに欲しいものを聞けばいいんじゃないの?と思うかもしれませんが、それをやってしまうとクライアントが提供しきれないものが多く出るリスクが高くなります。一見直接的ではない、顧客のモデルの方が企画検討の材料としては使いやすいのです。

調査設計①調査方法の選定

さて、上記を前提に私がクライアントに行う提案について記載します。
目的がはっきりしたところで、調査方法を決めましょう。
調査には大きく分けて、定量調査定性調査があります。簡単に言うと定量調査はどのような要素がどのくらいの量含まれているのかというようなことを調べる調査で、定性調査はどのような要素が含まれているかを調べる調査です。今回は顧客のモデル/ペルソナを作る作業なので定性調査がいいでしょう。事前にどのような要素があるのかわからない状況ですので定量調査は、ペルソナを作る際には予備調査を除けば行いません。
代表的な定性調査としては、インタビュー、座談会(別名フォーカスグループインタビュー)、行動観察(エスノグラフィー含む)があるかと思います。
ペルソナを作る際、調査する人数としては少なくとも5人、多くとも20人くらいかと思います。この人数は特に決まっておらず、調査会社の経験などにより前後します。1人では当然客観的なものは作れないので少なくとも3人は欲しいですが、実際に会ってみるとそもそも対象じゃないというリスクもあるので私は少なくとも5人と想定しました。また多くても意見が飽和して調査が無駄になることも多いので上限も多ければいい訳ではありません。飽和する目安も調査会社の経験的により決められることが基本です。
クライアントに提案するなら5~20人の幅で予算と含めて検討するかと思います。コストとしては 座談会<インタビュー<<行動観察 の順で高くなっていきます。コスト面で座談会という形式が選択されることが多いので、今回は座談会を行うという設定で進めていきたいと思います。

座談会(フォーカスグループインタビュー)とは?

座談会とは、複数の調査対象者を集めで議論させてその様子を記録する方法です。
メリットとしては、同時に複数の人の意見を聞くことで短時間で多くの定性的な情報を得ることです。また対象者同士で議論しあうことで、意見が発展して調査者も気付かなかった視点で意見を得られることもあります。
デメリットとしては、同時に複数の人の意見を聞くことで個々に深堀ができない、誰か一人の強い意見に引っ張られてしまうことがある、他人に遠慮して本音が言えない、司会者に高いスキルが求められる、などあり、安い反面扱いづらい点が多いです。

調査設計②座談会の設計

では、今回は座談会ということで設計をしていきましょう。調査人数を8人×4組として大きく2つのグループに調査することとします。8人という人数ですが、司会のしやすさや議論のしやすさからすると6人くらいがちょうどいいと思いつつ、調査対象者が当日キャンセルすることも座談会ではよくあるのでそのバッファを見込んでの設定です。4組にしたのは、A、B二つのグループをそれぞれ2つという設定です。A,B二つのグループというのは後述します。

調査設計③調査対象者の設計

いくらクライアントがエヴァファンについて知りたいといっても、ファンにも様々な層があります。1グループに含まれるファンの属性が違えば議論にならなかったり、特定の一人がその場を支配してしまうことがあり、均衡を保つ意味で同じグループにはある程度似たファンを集める必要があります。
そのため、クライアントとターゲットとする層を検討します。といっても、層すらわからないので調査を依頼するクライアントが多数ですので、ファン層事態こちらで構築して提案する必要があります。
どのような軸でファン全体を分けて考えるか、このあたりから調査会社によって大きく差がでると思いますので依頼する場合、見積など通してこのあたりを中心に判断するといいでしょう(相見積をするならここから)
層を分けたら、少なくとも2つほど層を選び、それぞれ2組ずつグループを集める、というのが基本的な方法です。
また選ぶ層はクライアントと相談ですが、調査としてしやすいのはエクストリームユーザーとよばれるようなヘビーユーザーもしくはノンユーザー(全く関心のない人)です。ノンユーザーは全く関心がないからこそ新しい発見ができるのですが、今回はエヴァコラボグッズを作るというオーソドックスなビジネスモデルですのでヘビーユーザーを選ぶべきでしょう。ヘビーユーザーを選ぶメリットはいろいろありますが、一つは造詣が深いからこそ感情を論理的に言語化可能で本音を聞きやすいこと。また先進的で便利な使い方などアイデアを多数持っているケースが多いためです。

調査設計④調査対象者の層の検討

どのような顧客、市場が想定されるのかは調査会社独自のノウハウになりますね。ここではヘビーユーザーの一人であるエヴァファンとしての経験でファンを分けてみたいです。ファンの中に玄人もにわかもない、とは思うので優劣を分けるつもりではないのですが、ファンを分けてみたいと思います。
参入時期で分けるとこんなところかと思います。

顧客層予想


年齢層はエヴァの主な視聴者を各年代の12~24歳と仮定した予想に基づきます。(ここは調整の余地が多い部分の一つです)
調査としては、旧作からの参入組(A~E)と、新劇場版からの参入組(F~I)という二つのグループを行うのがいいかと思います。細かく分けましたが、この細分化された単位で人を集めるのは難しいと思います。少なくともこの二つであればある程度まとまった話ができると考えられます。また、ともにファンになった後は途中で離れず、参加以降の映画は全て見ているという条件を今回はつけておきます。(離れたユーザーの掘り起こしというのも悪くはないのですが、そこまで突飛なことが求められているものでないと考えるからです。)

調査設計⑤質問内容

旧エヴァからのファン8人×2組, 新エヴァからのファン8人×2組を集めて、それぞれに聞いてみる内容を決めましょう。座談会は司会者がお題を出して、一人ずつ順番に話したり、ディスカッションさせるのが基本的なスタイルです。いろいろ聞きたいと思いますが、次の内容は必ず聞くべきことだと思います。
その1 エヴァファンとしての背景
まずは自己紹介がてら、各メンバーのエヴァに関する思いを話してもらいます。聞き出す方はより具体的に、いつ、どこで、どのように、といった体験を聞き出しファンとしての背景をさぐりましょう。これ以降の彼らの回答がどこまで本気なのかを測る重要な情報になります。
その2 エヴァグッズの購入実績
続いて必要なのは、そのファンがエヴァ関連のグッズを買った実績です。いつ、どこで、何を、いくらで、どうして買ったのかを細かく1つの商品ごとに聞きましょう。最近買ったもの、最初に買ったもの、最も高価だったもの、とうようなキーワードを使い、制限時間内に思い入れのありそうなものを聞き出し、購入プロセスを確認します。購入対象も、コレクショングッズ(フィギュアなど)か実用品(服、食器、電化製品)など様々ありますので、クライアントの意向も聞きながらより近い商品について聞いてみるのがいいでしょう。一度購入したものはまた購入する可能性がぐっと高いので、実績を確認しましょう。
その3 どんなコラボグッズが欲しいか
チャンスがあればこれも素直に聞きましょう。何が欲しくて、何故ほしいのか、いくらなら買うのか、ディスカッションを交えて考えてもらいましょう。ただし、時間配分としてはその1,その2を優先しましょう。というのも、未来のことに関しての意見は、その場のリップサービスだったりして信憑性がないからです。むしろ過去に実際に買った行動などの方が再現性もありますし、信用できます。また買うといっても、本当に買うかは、過去の行動や背景と結びついているかどうかで判断しますので、ここはそこまで比重をかけなくてもいいです。
その4 オプション 試作品
もし、試作品があるのであればそれに対しての意見を求めるというのもありです。市場調査で残念ながら多いのが、最後に顧客に選ばせて、その結果をそのまま報告書にのせて社内提案を通そうとするようなケースです。実はどれが好きかを選ばせるのは、尋ね方の工夫や誘導で割と簡単にできてしまいます。本当に売れるかどうかみたいのであれば、短絡的にどれが好きかではなく、何故好きか?というロジックを明らかにすることですのでここは注意しましょう。ちなみにお土産に一つだけ選ばせて、何を持って帰るのかを見るというのは常套手段だったりします。ディスカッションではAがいいと言っておきながらBを持って帰るようなことも多々あり、この場合Bの方が実際は売れることを示しています。

調査設計⑥座談会のタイトルを考える

続いて行うのが、座談会のタイトルです。集まってもらう被験者に対して、そのままクライアントの目的を伝えてしまうと、そのような調査なんだろうというバイアスがかかってしまうので、そのまま伝えるのは得策ではありません。私であれば、エヴァファンでありながらマーケティング経験者を集めて当事者意識と客観性を備えた対象者を招集するなどの選択肢もありますが、あまりポピュラーな方法ではないでしょう。
「アニメファンの消費動向」「コラボグッズの消費動向」というような名目にして、エヴァがターゲットであること、グッズの企画検討をしていることは表向きは隠すことでバイアスを低減させるべきかと思います。(後者はやや直接的ですが)

調査設計⑦期間

期間についてですが、基本的な背景や見積のためのディスカッションをクライアントと1か月ほど行い(基本的に、費用は発生しません)、対象者を集めるのが1か月、調査を土日など使い少なくとも1週間行った後、まとめに3週間という合計3か月が基本的な期間になるかと思います。

というのが大まかな設計内容になります。ちなみに検討する順番はそんなに大切ではないので、これらの要素をまんべんなく検討できるのであればさまざまな設計方法が存在します。

その他の調査

ちなみに座談会以外でも、予算や期間が合えば、インタビューも当然よいとは思います。成果物もさまざまで、座談会動画、議事録、まとめ、レポートなど様々な形では提供できるかと思います。クライアントのニーズに沿って座談会を今回はチョイスしましたが、TVシリーズを追っかけているコアなファンのインタビューレポートをファン一人ずつレポート販売するというようなことも相談次第ではできたりします。調査はあくまで成果物が目的なので、座談会やインタビューといった手段にこだわらず、最適な方法を個別に用意することが重要です。

というわけで、今回は市場調査、マーケティング調査の基本的な設計方法の一例について、エヴァを題材に紹介させて頂きました。もしも、エヴァとコラボを検討している企業の方でご興味ある方がいればtwitterまでご連絡をお願いいたします。


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