他愛も無い日

異動が決まってからというもの、一念発起8年使ったロッカーの整理を始めた。
なんでも溜め込む性格は愛せども愛せども拗らせていくばかり。それでも毎日ちょっとづつ色んな物を捨てていく。
混沌としたロッカーのその中でとりわけ存在感を放つ物があった。
ちょっと前に後輩から貰った中華風おこし沙琪瑪(サチマ)を私は大量に余らせていた。
「美味しいね、これ好き」と言ったら、ある日ロッカーに大きな化粧箱に入ったサチマが1ダース入っていた。
中国の妹からの気持ちはとても嬉しかった。
ただ、これは素朴な優しい味でふわふわとして食感は軽いのだけど、揚げたおこしなので大きさが石鹸位あるそれを一個摘めばかなり腹持ちが良くてなかなか減らない。
ガツン!とサチマ。1人で12個は無理なんよ。

ふと、帰路の途中でいつも通り過ぎて来た新宿西口の路上で暮らす人達の風景が心をかすめた。
なんとなく、なんとなく。
外は雨が強くなってきていた。サッと戸締りをして、これまた会社から大量に支給されて持て余していたサイズの合わない白マスクも一緒に紙袋に詰めて新宿西口に向かった。
到着するとボランティアらしき若者が点在する段ボールハウスをまるでスタンプラリーの様に俊敏にお弁当を配り歩いていた。
そして段ボールの上で皆、それぞれの体勢でお弁当を食べ始めていたので私も端からサチマとマスクを配って行った。
「ありがとうございます」と、ほとんどの方がしっかりと目を見てお礼を言ってくださった。
単純に嬉しかった。
それだけ。
まだサチマはロッカーにある。

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