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「TikTokは修行の場」大学教授、コメンテーター、元総理の腹心…59歳・岸博幸さんがTikTokでも大事にしていること

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元官僚でありながら、現在は内閣官房参与や慶應義塾大学大学院教授、テレビ番組のコメンテーターなどを務める岸博幸さん(@kishihiroyuki

複数の肩書きを持つ岸さんですが、実は5万4千人のフォロワーを抱えるTikTokの人気クリエイターとしての顔も持っていることをご存知でしょうか。

社会派として活躍している岸さんが、なぜTikTokに参入し、人気を獲得するまでに至ったのか。

その目的とヒットの要因を探りました。

世の中を良くするカギは、「専門知識のない人に情報を届けること」

岸さんがTikTokで投稿しているのは、その幅広い知識を活かした質問に答える動画です。

「岸博幸史上No.1政治家は誰ですか?」「年金は将来もらえないんですよね?」など、視聴者からの質問に対し、岸さんなりの見解を端的に、わかりやすく回答しています。

岸さんは一体どのような目的で、動画を投稿しているのでしょうか。

「私は政治評論家と呼ばれることも多いですが、大前提として自分のことを専門家とは捉えていなくて。偶然さまざまな仕事をやらせていただいた結果、さまざまな知識を持っているだけに過ぎません。私は専門家というよりも、世の中を良くするために、専門知識のない人に情報を届けることが仕事だと思っています」

「その方法として私にできることのひとつが情報発信です。たとえば、世の中の間違った情報に対して、『こういう読み取り方もあるんだよ』と気づきを提示していく。TikTokでも反響のあった学歴問題なんかは典型で、東大を出たから偉いわけじゃないという当たり前のことを理解してもらう。このような情報発信ツールにTikTokを活用しています」

世の中を良くするための情報発信の一環として、TikTokを使っているそうです。

「困りごと」はテレビとTikTokでここまで違う

テレビや講演会などと比べ、TikTokではどのような人から反響を受けますか?

「年齢層は高めで、30代くらいの人も多いですが、10代の人にも世の中に関心を持ってほしいので、もっとリーチを広げていかないといけません。視聴者の関心ごとはバラバラですね。政治に不満を持っている人もいれば、学歴やキャリア形成、教育などに興味を持っている人もいます。それだけ世の中の問題はたくさんあるんだなと」

同時に岸さんは、TikTokを通じて10代に動画を届けて、世の中に対する関心を啓蒙することも狙っていました。

「TikTokの視聴者と講演会の参加者を比べると、問題意識のベクトルは異なります。講演会の場合、日本の政治・経済といった大きな主語に問題意識を持っている人が集まりますが、TikTokでは自分の困りごとに関する質問が寄せられます。世の中を良くするという意味では、TikTokの視聴者のように専門的な領域から遠い人に、どう影響を与えられるかが鍵になると思っています」

自分ごととして捉えられる“半径”を広げていきたい

岸さんの動画はビジネスや教育、キャリア形成など、視聴者にとって“半径3メートル”以内の悩みに回答したものも多いのが特徴。

アカウントを成長させるためにテーマを絞るクリエイターもいる中、岸さんはどのような理由でオールジャンルの動画を扱っているのでしょうか。

「テーマを絞る気はないですね。現代人はインターネットの普及もあり、まさに半径3メートルの物事にしか目を向けないようになっています。だからこそ、それに合わせた情報発信にはしっかりと取り組まないといけません。一方で、自分ごととして捉えられる“半径”を広げられたら人生もより楽しくなると思うので、その点も応援したいと考えています」

現代人に情報を届けるには、まずは身近なテーマを入り口にすることが大切だそうです。

時にはこんな身近な質問にも回答

では、ズバリ“半径”を広げることの重要性とは?

「今の日本人のほとんどは年齢に関係なく、発想や視点が内向きになっています。たとえば、都知事選を見ても、東京はグローバルな都市なのに豊洲問題などが注目を集めるじゃないですか。もちろん、このような半径3メートルの問題も非常に重要なんですが、同時にすごく遠くの問題も両立して意識しないと、新しい発見や自分のやるべきことの気づきを得られなくなってしまいます」

「そういう意味では、視聴者からの質問や世の中で話題になっていることは自分なりに深掘りして、TikTokでも積極的に取り上げていきたい。それが一人ひとりの半径を広げる第一歩になって、若い人が世の中に関心を持つことにつながっていくと思います」

TikTokは自分にとって“修行の場”

また、テレビや大学での講義、講演会、セミナーなど、さまざまなフィールドで活躍してきた岸さん。

TikTokではどのような点に違いを感じますか?

「圧倒的な時間の短さですね。短い時間で伝えるべきことを伝えるのが、いかに難しいかを実感しています。ですが、現代はインターネットですぐに情報を取得できて、若い人の集中できる時間も短くなっている時代です。本質を短く伝えるスキルを身につけなければ、生き残ることはできません」

3分以内という厳しい制限時間のあるTikTokでは、伝えたいことをギュッと端的に表現することが求められます。

大学教授やコメンテーターに求められることとは真逆ですが、岸さんは若者に情報を届ける上で、そのスキルこそが肝になると分析していました。

「社会的地位の高い人や知識人のなかには、『自分は偉いから長く話して当たり前』という間違ったエリート意識を持っている人間もいます。それに対して周囲も忖度し、長々と話せるシチュエーションを用意するなど、悪循環を生み出してしまう。でも、世の中の大半の人は、そんな長話を聞きたいとは思っていません」

「小難しい言葉で説明するのは、専門家なら誰でも可能です。私自身、官僚時代は話も長くつまらない人間で、テレビ出演を重ねてようやく、その悪癖を克服できました。若い人にも情報を届けたいなら、短い時間でわかりやすい言葉を使い、価値のある情報を提供することが大切です。その練習をできるTikTokは、自分にとっても絶好の“修行の場”だと感じますね」

知識人でもできる!岸流・話を短くまとめるコツ

ですが、豊富な知識を持つ専門家にとって、話を短くまとめるのは苦手分野のようにも思えます。

伝え方のコツを聞いてみると……。

「最初にわかりやすい言葉で結論を伝える。とにかくそれに尽きます。長々とした前提はどうでもいいから、結論ははっきりとわかるようにするのが大事です」

「たとえば、政治の解説をするときに民主主義の成り立ちから話す人もいますが、そういう小難しい観念って、視聴者にとってはどうでもいいと思うんですよ。余計な情報は取り除いて、ベースとなる部分を伝えることがポイントだと思います。もともと物事はシンプルにできていて、専門家が複雑化しているだけ。根本に立ち返ってみると、意外と説明が楽になることは珍しくありません」

たとえば、SDGsについて解説したこちらの動画。

岸さんは冒頭で「SDGsとは、経済と社会と環境の3つが調和の取れた発展を目指すこと」と、結論を提示しています。

さらに「SDGsの目標には人種差別の撲滅も含まれているので、周りにいる外国人と仲良くするのはSDGsになる」と具体例を挙げることで、複雑になりかねない話を一気にわかりやすくしているのです。

「私は人に媚びるのが大嫌いなんですよ(笑)」

最近では、岸さんのように何らかの分野でコメントを求められる人がTikTokに進出する流れは、徐々に加速しつつあります。

彼らに先人としてアドバイスするとしたら、どんな言葉を送りますか?

「私はアドバイスできるほどTikTokで成功しているとは思っていませんが、あえて一言いうとすれば、『自分はこの道の専門家である』みたいなプライドは捨てましょうと。私がTikTokでやっているのは、自分の理解している物事を、お茶の間のおばちゃんでも理解できる言葉で話しているだけですからね。伝えたいことを知識のない人に伝えられなければ、あんたの負けだよということは意識してほしいです」

専門知識を話したくなる気持ちをグッと堪えて、誰にでもわかる言葉を選択する。

決して簡単ではなさそうですが、岸さんはなぜ、その姿勢に徹することができたのでしょうか。

「自分の一番のミッションは、専門分野について評論するよりも世の中を良くすることだと本気で思っているので。そのためには、専門知識を持っているごく一部の人ではなく、専門知識を持たない多数派の人に理解してもらえないと意味はありません。その視点を常に心がけることで、本質を短く伝えるスキルも磨かれたと思います」

一方で、岸さんの人気を支えるもうひとつの秘訣は、その“媚びないスタイル”です。

歯に衣を着せない言葉で世相を斬る岸さんのスタイルは、新しい視点の提供や信頼感アップにつながり、視聴者の支持を集めています。

「ありがとうございます。私は人に媚びるのが大嫌いなんですよ(笑)。間違っていると思ったら、総理大臣に対しても『あなたこれダメですよ』と伝えてきました。エゴサーチもしないし、自分の著書に対する反応を見ることもありません」

そこまで世間の反応を気にしないとは……。

「TikTokのユーザーさんにも媚びようとは思っていないので(笑)」

さらに岸さんは、こう続けます。

「TikTokのユーザーさんにも媚びようとは思っていないので(笑)、動画の再生数などが伸びたとしても結果論ですね。今後も世の中を良くすることを目指しながら、運良く巡り会えた仕事をこなし続けていくだけです」

誰でも真似できることではないですが、勇気を出して自分の主張を発信するのも、TikTokの使い方のひとつです。

「何かに問題意識を持っている人は、あくまでも他人を傷つけないことが大前提にはなりますが、それを積極的に発信するのも手です。そうすることで多くの人に問題意識を芽生えさせたり、同じ意見の仲間を募ったり、反対意見に耳を傾けたりすることも、十分にできるのではないでしょうか」

専門家のみならず、一般のクリエイターにとっても参考になる岸さんの金言。

政治や社会にかんする専門知識だけでなく、一人ひとりが抱えている“半径3メートル”の悩みにも歩み寄る岸さんの最新の発信スタイルは、今後“知識人”と呼ばれる人の間でも浸透していくのかもしれせん。

【クリエイタープロフィール】

岸博幸(@kishihiroyuki

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慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授
1962 年東京生まれ。1986 年に一橋大学を卒業して通産省(現経産省)入省。
1992 年コロンビア大学ビジネススクール卒業(MBA)。小泉政権で経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、総務大臣などの補佐官・政務秘書官を歴任し、不良債権処理、郵政民営化などの構造改革を推進。2021 年に管政権の内閣官房参与に就任。
評論家として「ミヤネ屋」(読売テレビ)、「全力!脱力タイムズ」(フジテレビ)などでコメンテーターを務める他、
エイベックス顧問、バンダイナムコエンターテイメント・アドバイザー、総合格闘技団体 RIZIN アドバイザー、大阪府市特別顧問、福島県楢葉町顧問、文化審議会委員などを兼任。

禁無断転載

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