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【MODE Japan5周年】パネルディスカッション「鉄道建設工事DXへの挑戦 / 鉄道工事DXにおけるMODEの技術」

日経クロステックなど、多くのメディアに取り上げられ注目されている鉄道夜間工事DX。プロジェクトを推進しているJR東日本スタートアップ株式会社 吉田 知史と、MODE, Inc. 関西地域セールススタッフ 村岡 正和が、建設DXにおけるデータ活用や、その実現に必要なIoT技術力について、パネルディスカッションしました。

JREスタートアッププログラムとは?

村岡:さっそくですが、JR東日本スタートアップ(以下、スタートアップ社)さんのスタートアッププログラム。グループ全体のアクセラレーションを狙ってらっしゃると思いますが、最近の状況をお聞かせいただけますか。

吉田氏:特徴としては、3月までの年度内の中で、必ず実証実験まで実施するのをお約束しています。

あとは、JR東日本グループのアセットなど、場を提供して終わりにはしません。スタートアップ企業の皆様、そしてJR東日本グループのメンバーをメンターとして、とことん議論していただきます。

採択決定後、発表は11月頃になるんですけど、実際に議論を開始するのは8月頃ですかね。それから毎週ミーティングを重ねます。まずJR東日本グループの課題とか、鉄道建設現場についてご理解いただいて、その上で共創プランを一緒に考えていきます。最終的には、将来の事業収益や効果も考えるので、とことん毎週話し合います。

村岡:MODEはスタートアップなので、いろいろなアクセラレーションプログラムに、片っ端から応募して、参加させていただくんですけれども。

実際、スタートアップ社さん、プログラム自体のたてつけはマッチングプログラムなんですけれども。通常は、と言ったら語弊があるかもしれないですけど、採択いただいた後って、マッチング担当の部署の方々の顔が見えなくなるんですよね。

でも吉田さん、毎週ミーティングに参加してるし、建設工事部の人ですか?っていうくらい意見もおっしゃるし、現地視察のマネジメントしていただいてますよね。ファシリテーションはスタートアップ社さんのミッションかなって感じました。

吉田氏:私は建設工事部出身で、建設工事への思い入れがすごく強いっていうのもありますが、バックグラウンドに限らず、そこは…。

というのも、JR東日本グループは、スタートアップ企業の皆様と、このアクセラレーションで初めてお付き合いするっていうパターンが多いので、不慣れな部分があるんです。その緩和剤としてファシリテーターが必要なので、弊社が入って三位一体となり、フラットにとことん議論しながらプログラムをやっていますね。

村岡:たぶん、御社としてもグループ全体としても、スタートアップと組むのはチャレンジ領域だと思うんで、すごくさじ加減が難しいと思うんですよ。

けれども「絶対やってやるぞ!」みたいな熱意を、僕は吉田さんからも感じているし、御社の建設工事部さんも、現場課題に対してものすごく真剣に考えていらっしゃる。何とかしないといけない課題感をすごく強くお持ちなんだけど、それをうまく言語化するのは難しいと思います。

そこをうまく仲介いただいて、その問題解決に非常に真摯に向かっている。マッチングして終わりじゃない、というのがものすごく伝わったので、他のアクセラレーターさんとはちょっと違うなっていうのは、お世辞抜きで本当に感じたんですよ。

吉田氏:実証実験で良い結果が出たものについては、半数近いものが本当に繋がっているのは、そういったところが理由なのかなとは思います。

村岡:すごい打率だと思います。

吉田氏:今年も、越境ECとか旅先での物のシェアリングとかがありながら、デジタル共創では、次世代AIやロボット、メタバースなど、非常に幅広いベンチャーさんからご関心いただき、JR東日本ならではかなと思っています。

村岡 :いわれてみれば、JRさんって鉄道事業っていう感覚があるんだけど、小売、ホテル、病院とか、事業が多岐に渡りますね。

吉田氏:そうですね、世間にあるほとんどの事業は、JR東日本グループにはあるかなって感じですね。

村岡:ということは、オールジャンルのスタートアップを選考しないといけない。めっちゃ大変じゃないですか!

吉田氏:おかげさまで本当に幅広くいろんなアイディアで、毎年200件近くご応募いただき、断腸の思いで選考しています。

夜間DX工事、実際どうだった?

MODE, Inc. 関西地域セールススタッフ 村岡 正和

村岡:まだまだスタートアッププログラムのこと聞きたいんですけれども、他にもトピックがあるんで次に行かせていただきますね。弊社で担当した浜松町の夜間DX工事。実際どうだったって話です。

僕ね、MODEの中では製造系・建設系というジャンルに関わっています。建設業と言っても、土木工事と建築工事って、大きく2種類に分かれるんですけど、最近は土木工事に携わることが多いんですよ。

今回の実証実験もどっちかというと土木ですよね。だからよく見てるやつやなって、割と自信満々で現場行ったんですよ。

でもね、はっきりざっくり言うと、普通の土木工事の難易度より、頭一つ出てるなってぐらい難しいと思ってます。

何が難しいって、1日2〜3時間しか工事ができないのは、普通じゃないです!

列車が走ったり、駅が稼働したりする時間は、絶対に工事できないので、営業が終わった後にやるんです。でも終電が深夜1時頃で、始発が5時頃だから、4〜5時間しかないわけ。さらに準備の段取りにもめちゃめちゃ時間かかる。

穴を掘ったり、線路を入れ替えたりっていう実質的な工事って、2〜3時間しかできないんですよ。普通、職人さんの気持ちに余裕もなくなります。急がないといけないし、修正に時間がかかるから、ちょっとのミスも許されないわけ。こんな工事は普通ないってぐらい、難しい工事なんですよね。

吉田氏:MODEの皆さんに現場を見ていただいたところ、今の熱量のテンションで感想を言っていただいて、そんなにすごいと思っていませんでした(笑)

村岡:そうでしたっけね!

吉田氏:その熱量をそのまま、また、それ以上に実証実験中も保っていただいて、今もやっていただいています。

村岡:僕ね、元々エンジニアなんですよ。今でもセンシングシステム作ったりするんですけど。燃えますね、この現場は!「どないしたら、これが良くなるんやろう」って思いました。

毎日、何百万人もが使っている、鉄道の品質を守るこの工事を少しでも良くしたい。データやセンシングの力で、この現場に貢献できたらって…。ごめんなさい、言語化できません!それぐらい熱いものがこみ上げてくるわけなんですよ。

で、先ほどの鉄道工事現場の「unknownをなくす」。昼間だったら見通しが良くて、あっちの方で何か起こったって結構わかるんやけど、夜だから見えないわけ。

工事のフィールドも1.2キロぐらいあるかな、浜松町だけで。非常に広いヤードの中で、見通しがきかない。でも現場監督の人数は限られているんですよ。

今、どこで何が起こっているかわからない。というところに「known=分かる」というパラダイムを入れれば、工事現場は変わるだろうなって直感はあったんですよ。そこで、我々の一番のアドバンテージである、複数のセンサーを一つのアプリケーションで、全てのデータを蓄積し可視化する技術をご提案しました。

実証実験では、トラッキングしたり、物の管理をしたりってやりましたけど、それぞれのセンサーは、別々のメーカーさんのセンサーだったんですね。普通、別々のメーカーさんだと、違うアプリケーションで見なあかん、ちゅう話になりますわね。でも、現場でそんなこと許されないわけですよ。これを見たい時はこのアプリで、これはあっちで…なんてやっとったら、時間かかるわけやから。

一つのアプリケーションで全てのデータを蓄積し可視化する。これは我々の得意中の得意の技術でございます。この特徴をいかんなくお使いいただいてですね、実証実験をサクセスに導いたのは、技術者の僕としても、ちょっと自慢していいかなって思いますけど(笑)

吉田氏:何を測るか、どのセンサーがいいか相談したところ、毎週見つけてきていただいて、最終的にあの三つに決めました。一つのセンサー開発会社さんと組むと、それだけになってしまうんですけど、そうではなくて、複数を比較して、より現場にフィットできるものを選択できる。

最終的に、MODEのプラットフォームに繋げられるからこそ、それができるのは、すごく強みなんだなって思いました。まだ取りたいデータはめちゃくちゃあるので、他にもセンサーを見つけてもらえればなと。

村岡:全国・全世界からフィットするセンサーを探しております。さらに、それを試してみないと分からない。

センサーは、ちゃんとニーズに合うかっていうのは、いろいろな観点があるので、スペック表だけではわからない。実際に使ってみないと、本当にそのスペック出るかどうかわかんないってのが常識です。なので、そこも担保させていただかないといけないところだと思っていて、短い期間で、できるだけ多くのデータを実際にクラウドに上げて、可視化してみて、良い悪いっていうのを評価する。

このサイクルをいかにアジャイルに回していくかっていうところが、ビジネスがサクセスするスピードに依存するんで、弊社のあらゆるセンサーを繋げるゲートウェイや、あらゆるデータを上げるプラットフォームの特徴をうまく使っていただいて、今後もいろいろ進めていければと思っております。

吉田氏:工事も、山手線(内回り・外回り)京浜(南行・北行)東海道(上り・下り)と6線ある中で、線路ごとに入っている工事が違ってたりもするので、線路ごとの管理が非常に重要になってきます。短期間の中でプロトタイプを作っていただいたからこそ、様々な課題が明確になり、だからこそ次のステップに向けて議論・検討できるのかなと思います。

村岡:いろいろな知見や課題が、今回の実験で明確になりました。59項目の課題もあったんで、次はこれを潰していくフェーズだと思っています。また、引き続き我々も課題や「unknownを明らかにしていく」アクションを取ってまいります。

JR東日本建設部門におけるDX

パネルディスカッションの様子

村岡:最後に、JR東日本建設部門さんにおけるDXについてお聞きしたいと思います。先ほど「データドリブンでやります」とおっしゃっていましたけど、具体的にお聞かせいただけますか。

吉田氏:DXというと、今まで紙でやり取りをしていたものを電子化したとかで終わってしまう場合もあるのかもしれません。しかし、私達が目指すのは「変革」で、DXそのものです。

ICTもBIM/CIMも、結局は手段でしかなくて、それをどれだけ使いこなして、次代に合ったやり方を検討していきたいですし、スマートプロジェクトマネージメントも動いてますし、スマートメンテナンスも同様の考えです。

BIM/CIMは、3Dモデルに情報を付加したモデルと言っていますが、その情報が全部データとして集まりきれてないですし、全部集めようとすると、めちゃくちゃ大変っていう課題もあります。さらに、日々進歩している技術なので、技術開発も進めていかなければいけない。

それらを使いこなして、今までJR東日本として蓄積してきた技術や、絶対に守らなければいけない安全とともに、次世代に継承していくというところも含めて、今までのやり方を抜本的に変えていきたいと考えています。

村岡:鉄道ですから、安全はプライオリティ第一です。日本の鉄道は遅れないじゃないですか。「時間通り」という品質を守りつつ、旧来のやり方や組織構造から、デジタルで変わっていかなければならない理由は、人手不足とかそういうことなんですかね。

吉田氏:人手不足が一番になります。建設業は3Kと呼ばれますが、魅力的な分野だなと思ってもらわなければいけないので。ただ、デジタルを入れてるから魅力的なのではなくて、デジタルを使いこなし、次代の未来を自分たちが、建設部門で切り開いていけるんだ、みたいなモチベーションを持って入っていただくためにも、進めていきたいと思います。

村岡:政府もプログラミング教育という形で、デジタルネイティブを増やす国策が進んでいます。新卒でそういった方々が入ったときに、いかんなくスキルを現場で発揮いただいた方が、御社としても、雇用対効果が高くなると思うので、その準備も含めてっていう感じですかね。

吉田氏:私が入社したときに比べたら、何倍もリテラシーの高い人が集まってきますので、その力を十分に発揮して欲しいと思います。また、例えば土木技術者なら、そういったリテラシーは当然ありつつ「次代の土木技術って何なの」みたいなところを、切り開いていかなきゃいけないですよね。

村岡 :そうか、土木技術にもトランスフォームが必要になってくる。

吉田氏:そうですね。インフラを支える土台ですね。それこそ目に見えないところで支えている技術です。それ自体、いろんな取り組みが進んでいますけれども、まず変革していく担い手が集まって欲しいなって思いますね。

村岡:JR東日本さんは日本を担う企業の一つだと思いますが、そういったモチベーションで変わろうとしている企業が、次世代の、これから業務やあらゆる分野でやはり業務を担う方々にもメッセージとして伝えていく。さらにそれを現場で実現していくっていうことが、今一番大事ですね。

スタートアップ社さんとしても、スタートアップ事業を通じて、そういったメッセージを皆さんに伝えていくという点で、何か意識されてたりするんでしょうか?

吉田氏:JR東日本がなにか面白いことやってるぞと。無人駅のグランピングや、浪江駅でのエビの養殖とかですね。

村岡:エビの養殖!?

吉田氏:いろんな面白いことをやっているんですよ。それはベンチャーさんに対してもアピールで「じゃあ、うちの技術をJR東日本で試してやるよ!」みたいな気持ちで、ご応募いただければと思いますし、社員にとっても、新しいことやっていいんだなというモチベーションに繋がるのかなと思います。

村岡:まさに社員さんを変えていくとか、企業の価値観を変えていくところが、トランスフォームに繋がっていくんでしょうね。

ということで、まだまだお話聞きたいところは山々なんですけど、時間がちょうどになってきました。本日、JR東日本スタートアップ社 吉田さんにお越しいただきましたこのセッション、これにて終了させていただこうと思います。どうもありがとうございました。

吉田氏:ありがとうございました。

(会場、拍手)


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