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【MODE Japan5周年】「鉄道建設工事DXへの挑戦~夜間・短時間工事のデジタルツイン化実証実験~」

JR東日本スタートアップ株式会社 吉田 知史氏より、多くのメディアに取り上げられた鉄道夜間工事DXの最前線におけるデータ活用事例をご紹介いただきました。

吉田氏:ご紹介いただきましたJR東日本スタートアップの吉田と申します。
私からは、鉄道建設工事DXへの挑戦ということで、JR東日本グループとスタートアップ企業との共創プログラムで行いました、実証実験についてご説明したいと思います。

鉄道建設工事とは?

まずは、鉄道建設工事の特徴を簡単にご説明したいと思います。

特徴1:営業線に近接した工事

営業運転中のエリアの脇に、工事のヤードを作りまして、そこにクレーンなど資機材を置いて工事を行います。当然、エリアを区切ってはいるんですけれども、一歩間違えれば、運行している列車やお客様に当たってしまう危険性もあるので、お客様の安全を確保しながら工事を行うという特徴がございます。

また、安全確保のために保安要員を配置して、万が一が起きないような体制も取っています。昼間やっている工事を見ていただくと、黄色い服など目立つ格好をしている方がいます。鉄道の安全を守るといった役目を帯びて、工事現場にいらっしゃる方でございます。

特徴2:夜間・短時間工事が多い

昼間に全て工事ができればいいのですが、なかなかそういうわけにはいきません。終電が終わった後、昼間列車が走る線路に、軌陸車と呼ばれる車両を乗せて、そこで資機材を運搬したり、クレーンで物を吊ったり、ホームの屋根の上に人が乗ってそれを受け取るなど、工事をしています。営業列車は走っていませんが、電気を止めて工事をしなければいけないとか、列車が絶対に入ってこないような手続きをしなければいけないので、き電停止や線路閉鎖など、専門的な手続きを行います。

そうした手続きを行うので、終電列車が行ったらすぐに工事ができるわけではなくて、手続きの時間も踏まえて取っておりますので、実質的には、少ないところだと2時間しか工事ができないといった制約条件がございます。

特徴3:狭隘・狭小空間での作業

皆様がご利用いただいている駅のホームの下など、3mもないような空間に機械を置いて工事します。ホームを使用停止すればこれらは不要ですが、日々の運行を守りながら工事をしなければならないので、非常に狭小な空間での作業を行っています。

特徴4:大規模な切換工事

大規模の切換工事というのも特徴の一つです。

列車の運休を行って、長時間の作業時間を確保して実施する工事です。効率やスピーディさにメリットがある場合は、お客様のご理解をいただきながら、1〜2日、列車を運休して工事を実施しています。

課題は生産性向上

工事におけるJR東日本の役割

JR東日本は、発注者という立場で鉄道構造物工事の計画・設計を行い、ゼネコンさんに発注するわけですが、全部ゼネコンさんにお任せというわけではありません。

列車の運行を行いながらの工事になりますので、事業者という立場もあります。安全管理やプロジェクト全体の工程管理、そして構造物の品質管理も、監督者として行うというような立場でございます。その点においては、JR東日本はゼネコンさんと一緒に協力をして進めています。

建設業界全体の課題

昨今の建設業界は、生産年齢人口の減少や、3Kの作業現場で、働き手の確保が難しいといった課題がございます。

また、紙ベースの旧来からの仕事の進め方を変え、建設業界全体の生産性向上を目指す動きも出てきました。国土交通省ではi-construstionを推進していますし、BIM/CIMと呼ばれる、3Dモデルに色々な情報を紐付けたものを、国交省発注の全件名で2023年度から原則化するというような動きがございます。

鉄道建設工事の課題

鉄道建設工事の課題としましては、JR東日本のベテラン社員がどんどん退職していますし、ゼネコンさんの人材確保も難しくなってきています。

鉄道工事特有の条件というところで、建設業界の課題、さらに鉄道ならではの条件も加わるため、生産性向上を非常に大きな課題と捉えています。

スマートプロジェクトマネジメントとは

JR東日本グループでは「スマートプロジェクトマネジメント」という生産性向上の取り組みを行っています。数年前に、経営ビジョン「変革2027」を発表しました。JR東日本グループ全体の経営を変革していこうという目的で出されたものです。

例えば、建設やメンテナンスにおいて、旧来のやり方を抜本的に見直し、ICTや最新の技術を積極的に取り入れることで、より効率的に行っていこうという取り組みです。

このスマートプロジェクトマネジメント、BIMのJR東日本版というところで「JRE-BIM」と名付けています。
JRE-BIMは、調査・計画、設計、発注、施工、維持管理といった一連の生産プロセスの中で、3Dモデル、そしてあらゆる工事に関する情報、データを組み合わせて生産性向上を実現しようという取り組みです。
各フェーズでそれぞれ行うのではなくて、調査計画の段階で作り上げたBIMモデルを設計・発注、施工の段階でも生かしていきながら、最後は維持管理の中で活用していこうと、このサイクルを回していくことを目指しています。

あとはBIMクラウドと呼ばれる共有データ環境も構築しています。JR東日本は非常にセキュリティポリシーは厳しいですが、それをクリアした上で発注者、設計会社、施工会社がアクセスできてデータを共有できる場を、2016年から活用しています。

こうしたスマートプロジェクトマネジメントの推進を行っていく中で、やはりオープンイノベーションが大事だと認識しました。スタートアップ企業の皆様のコア技術も、JR東日本の建設工事部と組み合わせることによって、新たな価値を創造して、生産性を上げていこうという取り組みとして、2018年からスタートアップ企業との実証実験また協業をスタートしています。

スタートアッププログラムについて

ここで、JR東日本スタートアップ株式会社についてご紹介いたします。JR東日本グループは、駅や列車に限らず、ホテル、駅ナカ、Suica、観光などで、幅広いアセットを持っています。

ただ、それを十分に生かしきるだけの技術がまだまだ足りないですし、日々生まれてくる新しい技術をアセットと組み合わせて、新しい価値を生み出していこうと取り組んでいます。その中で、スタートアップ企業の皆様とJR東日本グループが協業し、オープンイノベーションを加速していこうという取り組みを行っています。

ご存知の通り、スタートアップ企業は先進的な技術や、優れた事業アイディア、ビジネスモデルをお持ちです。JR東日本グループは、社会インフラの一部となる鉄道や駅などのリアルなネットワーク、事業の広がり、地域との結びつきがございます。そういったものをあわせて、革新的な技術やアイディアを活用した、未来に資する新たなビジネスサービスの創出を行い、過ごしやすく働きやすい社会生活の実現を行っていきたいと考えています。そうした中、弊社は、スタートアップ企業の皆様とJR東日本グループをマッチングする役割を果たしています。

一言で申し上げますと、弊社は”超”事業共創型のJR東日本グループのCVCです。私達が一番大事にしているのは、JR東日本グループとの競争です。
そのマッチングの機会として、2020年からインキュベーションプログラム、2021年からシード・アーリーステージのスタートアップを対象とした未来変革パートナーシッププログラムもスタートしております。

2017年からは、アクセラレーションプログラムのJR東日本スタートアッププログラムを行っています。実証実験で良い結果を得られたものについては実用化を行っています。これまで100件近くの実証実験を行い、半数以上が本格導入に繋がった実績がございます。

MODEとのスタートアッププログラム実証実験

ちょうど1年半前、MODEさんにご応募いただいたのをきっかけに「工事現場からunknownをなくしたい!」をビジョンに掲げ、徹底的にデータを取りまくって、それを活用することで、工事現場の生産性向上を行っていこうとお話し、今年の1月から3月にかけて実証実験を行いました。

鉄道建設工事は安全管理が非常に大事なので、今回の実証実験では、安全管理のための位置情報のリアルタイム把握を行うことに決めました。
現在は、保安要員が目視で確認を行っていますが、軌陸車が10数台入ってきたり、作業員が100名以上入る現場もございます。

時間のない工事の中、それらを一括管理するのはなかなか難しいため、その改善を目的として実証実験を行いました。

工事関係者・軌陸車のリアルタイム位置情報把握

準天頂衛星対応のGPSトラッカーを用い、作業員や軌陸車など「誰が・何が・今どこにいるのか」をリアルタイムに可視化しました。

工事関係者の活動状況・バイタル相関分析

バイタル分析では、体温や歩数などを測れるセンサーを作業員に実際に着けてもらって、計測しました。

鉄道工事中で使用する保安機器の状況把握

夜間の鉄道工事では、保安機器を配置します。配置自体はルールとして決まっていますが、設置と撤去がしっかりされているかを把握できないかというところで、実証実験をしました。

MODEで多様なデータを収集し統合的に可視化

GPSの位置情報や設置状況は、一元管理そして統合可視化も行いました。可視化ツールの真ん中にある地図では、機械・軌陸車の位置や作業員の位置が見えます。右側には保安機器が、今、設置すべき箇所に何台設置されているのか、そういったものを見える化しました。

最終的な仕様を決めてから1ヶ月でプロトタイプを開発していただいておかげで、2ヶ月もセンシングの実証期間を確保できました。非常に短期間でできたという印象です。

実証実験を踏まえて得られた知見がこちらです。

4時間で一人当たり1万4000歩以上歩いている作業員の方がいらっしゃいます。短時間での作業なので、非常にせわしなく、ヒューマンエラーが起こりやすい可能性があることが分かりました。危ない事象が起こった場合でも、そうしたデータが残っていれば、危険な作業現場の予測もできるんじゃないかなと思います。

今回、バイタルデータも取っていただいたんですが、まず歩数についてはしっかり取れていました。その中で、位置情報の正確さなどの他に、12項目の課題を取得でき、新たな発見も得られました。

またセンサーについては、MODEさんのパートナー皆様にご協力いただきながら、作業者の負担にならないセンシングができました。アンケートを実施したところ、80%の方が「作業中の負担にならない」と回答しました。一方で、装着、保管、充電などにおいて、改善の余地はあるのですが、そういった意見も得られたところも、長い実証時間を確保できたからだと思ってます。

今後のデータ活用のビジョン

現場のデジタルツインによる安全管理、施工管理をまずは目指したいと、私たちは考えています。一方で、色々なデータが取れますよ、となってきたときに「位置情報だけを把握してどうするの?」という意見もあります。
データ活用のステップは、まず、現在どうなっているか?の情報を収集します。ソリューションなどを導入した効果としてデータを取り、ビフォーデータと比較すれば、そのソリューションの導入効果や新たなボトルネックを明確化することができます。こうしてPDCAサイクルを回すことによって、より良い方法や新たな改善点を発見でき、持続的な現場改善も見据えると考えています。

本日ご紹介したのは、昨年度の実証実験でした。今年度以降もMODEさんと、昨年度の発展版で何か一緒にできないかなと考えていますし、課題解決に繋げての検討というところも継続して行っていますので、技術的な解決が見えてくれば、こうした世界も将来的に実現できるんじゃないかなと思っています。

実証実験内容のご紹介は以上になります。ご清聴ありがとうございました。

(会場、拍手)


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