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【MODE Japan5周年】「大企業のDXの取り組み最前線!!- 成功の秘訣と技術戦略とは -」

MODE CEOの上田と、Googleの同僚であり、様々な企業でアドバイザーを務めている及川卓也氏のファイヤーサイドチャット。昨今進んでいる、企業内のDXの取り組みにおける成功事例をベースに、DX成功の秘訣と技術戦略について語ってもらいました。

MODE CEO上田(左)とTably及川氏(右)

イントロダクション

上田:まずは簡単に、及川さんの紹介をさせていただきたいと思います。
及川さんは現在、Tably株式会社というご自身の会社の代表取締役と、AdobeのExecutive Fellowを務めていらっしゃいます。その他にも、日本の多くのスタートアップや大企業のアドバイザーとしてご活躍されております。

『プロダクトマネジメントのすべて』『ソフトウェアファースト』という本もお書きになっていて、ソフトウェアを使った、企業の変革に関する第一人者でいらっしゃいます。

及川さんとは、Googleで一緒に仕事をしていました。その後のご活躍を拝見し、ぜひDXについて皆さんの前でお話していただきたいなということで、お招きいたしました。及川さん、お越しいただきありがとうございます。

及川氏:ありがとうございます!よろしくお願いします。

トピック1:DXとIoTの関係は?

DXを定義する

上田:では、早速トピックに行きたいと思います。DXとIoTの関係性をどう捉えたらよろしいでしょうか?

及川氏:DXって、定義が人によってまちまちなところもあるので、誰に聞くかによって変わってくると思います。MODEさんの文脈だと「IoT=DX」って言いたくなる気分が、とても分かるんですけれども、実際にはDXの中にIoTが存在する、包含関係にあると思います。でも、IoTの部分が徐々に大きくなっている、もしくは、将来的にますます大きくなるっていうことが予見されると感じてます。

デジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーション

上田:なるほど。IoTの文脈でのデジタル化と、本来の目標やビジョンとなるDXの間には、どんな違いがあるのでしょうか?

及川氏:DXの「X」はトランスフォーメーション、つまり変革だというのが非常に重要なことです。

残念ながら、日本の大きな企業はデジタルデータや技術を使う変革の、まだはるか前の段階にいらっしゃるんですね。

この図の一番下に「アナログ」って書いてあるように、例えば、もしオフィスの中に、アナログの書類がたくさんあり、それを処理しないといけない。コロナの状況下なのに、週に1回は出社しないといけない。なぜならハンコを押すから、みたいなところがわかりやすい例なわけです。

まずは、アナログデータをデジタル化しましょう、というところで、スキャンしたり、全部ワープロで打ったり、というのがデジタイゼーションなんですね。

その後に、デジタル化されたデータを使って、いかに業務を効率的にするかっていうところは、あくまでも既存業務の効率化なのでデジタライゼーションです。


既存事業を大きく変革させるか、新規事業にデジタル技術をしっかり武器として使いこなせる状況になって、初めてDXに行き着く。このような段階を経ていくと私は考えています。

トピック2:日本企業におけるDXの取り組みについて教えてください

マーケティングにおけるDX化

上田:ありがとうございます。この流れで二つ目の質問に行こうかなと思います。日本企業でも、DXの成功事例が出てきていると思うんですが、その例をいくつか教えていただけますか?

及川氏:まずは、通常のデジタル領域のところでは、しっかりやられてる会社が増えてきています。例えば消費財メーカーのような、昔からテレビや新聞で広告をやられていた企業は、それがインターネット上のWeb広告等になったならば、きちっとデジタルマーケティングやマーケティングオートメーションを駆使しています。まさにデータを活用し、それでDX化をしていくところになるわけです。

IoTを使ったマーケティングDX

IoTの文脈に絡めて言うと、消費財メーカーは、店舗に訪れた方々が、どのような形で商品を認知し、それに対して購買行動まで取ったとかっていうことを知りたいわけですね。

九州発のトライアルっていうすごくロボット化されているスーパーがあります。面白いのが、トライアルさんってもともとスーパーじゃなく、実は流通業界向けのシステム会社だったんですね。

上田:そうなんですか!

及川氏:それが自らスーパーを作ってみて、実際にスーパーマーケット事業もすごく伸びてるんですけれども、そこでのノウハウの部分を横展開することで、リテールAIっていう会社を作って進めていらっしゃるんですよ。

びっくりするんですけれども、スマートカートや、頭上にたくさんのカメラ、デジタルサイネージがあり、顧客の行動によって何を出したらいいかってひたすら実験されているんですよ。かつ消費財メーカーの方々がいろいろ実験をしたいと言ったときに、スーパーマーケット自身をプラットフォーム化して実験できるんですね。

そうすると、このターゲット層はどういう棚で立ち止まって、何を手に取って、っていうことが全部見えると。

上田:なるほど!どの辺からトライアルさんが一歩抜き出ることができたんでしょうかね。

DX取り組み、2つの王道

及川氏:一時お手伝いしたこともあるんです。こういった従来型の企業が、いかにしてDXに取り組むかっていうときに、王道の教科書的な二つのやり方があるんですよ。

一つは中の人材を育成する。それはもちろんスキルセットの部分もあるし、かつマインドセットを変えるっていうことをやるわけですね。

ですので、例えばワークマンさんの例が非常に有名なんですね。新しい経営者になったときから、データ活用を全社員ができるようにすると。社員の中には「じゃあPython勉強しようか」みたいな人が出てきてないようなことをやってる。なんで今言ったように、まずは社員の育成。

もう一つは外部から人を入れるっていうことなんですよ。カインズさんの例では、外部から入ったトップの方が、表参道にイノベーションハブって施設を作り、外から人材をたくさん採用した結果、従業員用のアプリとか、カインズのスマートフォンのアプリって今めちゃくちゃ使いやすいんですけれども、ああいったところに行き着いてると。

上田:すごく面白い!こうした取り組みが加速し始めたのは、いつくらいからでしょうか。DXって前から聞くような気がするんですけど、実際にブレークスルーが出てきた感じですかね。

及川氏:肌感覚なんですけれども、やっぱりここ5年ぐらいかなというふうに思います。そのタイミングは、例えば経産省がDXレポートを出し、国主導でも、もっとDXしなきゃいけないってことを言ったり、産業界の方も多くの企業がCDOというトップをしっかりと据えて。

今までのCIOとはちょっと違うんですよ。いわゆるCIOをどっちかというと「守りのIT」って言われるガートナーさんのバイモーダル理論でいう「モード1」という方なんです。

「攻めのIT」っていうのは投資の仕方もマインドセットも違うので、そちらに対して力を入れるんです。そのトップ人材ということでCDOおよびCDO直轄の組織などを作るような傾向が、多くの会社が出てきていて、日本でも積極的に情報共有や情報発信がされています。

トピック3:DXとはハードウェアビジネスからサービスビジネスへの脱皮に際し、ビジネス体制チェンジは必要?

上田:三つ目のトピックに行ってみたいと思います。私達のお客様って製造業とかハードウェア販売のビジネスをされてる会社さんが多くて、よく「モノ売り」から「コト売り」へというコンセプトで、データサービス化に関するご相談があるんです。今までのビジネスから、継続的に製品開発していったりとかサービスを提供するようなサブスクリプションビジネスや新しいビジネスをやっていくために、何か大きく変えないといけないところってどんなところになりますか。

ハードウェアビジネスの捉え方を変える

及川氏:CDOのようなトップ人材を、適性のある人を据えるということ。あとはやはりなかなか人間って同じ環境にいたならば変わらないと思うんですよ。それはマインドセットの話もスキルセットの話も同じだと思います。

なので、育成と外部から人材を入れるってことだと思います。

ハードウェアビジネスというのもハードウェアっていうふうに自分たちで見ちゃってるからだけなんですよ。既にハードウェアの中身はソフトウェアなんですね。昔から組み込みソフトウェアがありますし、いまどき、コネクティッドが必要になってきてるものは多いはずなんですよ。

だから自分たちがハードウェアビジネスって思っちゃってるだけで、中身は実はソフトウェアであるという認識をするだけで変わってくると思います。

あと、ソフトウェアの特性である柔軟性。ハードウェアって従来は入れ替え不可能なわけですよ。それが、スマートフォンでも有名になったOTAを使うことによって、中身を入れ替えるようになったと。これはめちゃくちゃ大きいビジネスチャンスなんですね。

品質重視の日本メーカー

上田: シリコンバレーの会社で働いていると、そういったソフトウェアベースのビジネスの仕方のマインドセットになって、いい加減に出しちゃうというか、出してから良くしていこうみたいな感覚でやってる部分もあって。
これまで「品質ナンバーワン」でやってきた日本のハードウェアメーカーにとって、どこまでいい加減にやっていいのか、何か示唆あるところとかありますか。

及川氏:すごい乱暴な答えをすると、お客さんが買ってくれる限りはいい加減にしていいと思います。

上田:なるほど。アメリカのお客さんは、出たばかりの製品の期待値はあまり高くなくて、最初のバージョンとかは、良くなるのを前提で買ったりしますもんね。

当たり前品質と魅力品質

及川氏:これにはちゃんとした裏付けがあり、1980年代に東京理科大の狩野先生が「狩野モデル」の中で「当たり前品質」と「魅力的品質」っていうものに分けてるんですね。

日本は当たり前品質っていう、あって当たり前だけれども、それがいくら充足されても、購買意欲はそれ以上上がらないっていう品質ばかり見てる傾向が若干あります。例えばiPhoneの一番最初のバージョンって、テキストのコピー&ペーストできなかったんですよ。

あの当時、BlackBerryがあって、普通にショートメールを使ってたのにも関わらず、当たり前品質が達しなかったわけですね。でも魅力品質のところで、あのタッチ操作にみんな飛び付いた。このことから分かるみたいに、この部分にこだわりすぎても仕方ないんですよ。だから、iPhoneが上陸したとき、日本人が何て言ってたかっていうと「おサイフケータイもなくてワンセグもなくて…

上田:そう(笑) 言ってましたね!

及川氏:高機能なガラケーの方が」って言ったのが、そんなのすぐに壊れたわけですね。こだわっている品質が、本当に顧客が求めてる品質なのかっていうことを見なきゃいけない。

それがさっきの「お客さんが買ってる限りは乱暴にしまくっていいんじゃないですか」っていうところに込めた意味なわけですね。

トピック4:では第一歩目はどこから踏み出せばよいですか?

上田:ありがとうございます。次のトピックに進みます。自分たちはどこからやればいいのか、一歩目はどう踏み出したらいいか、アドバイスいただけますか。

及川氏:特に私はITの本質はソフトウェアであって持論を持っているわけですけれども、ソフトウェアを活用する敷居はどんどん低くなってるんですね。

プログラミングも楽になりノーコード、ローコードっていう言葉でもわかるように、専門家じゃなくてもソフトウェアを作れるようになってる。

ITの威力を見せつける

一番大事なのは、自分が触ってみて、かつ、その成果を社内で共有し、ソフトウェアを中心としたITというものの威力、魅力を自分たちでしっかりと証明し、周りに伝播させていくことだというふうに思います。

やっぱりデータの可視化って大事だと思うんですね。Webサイトを作ったら、当たり前のようにアクセス解析ツールを入れて、訪問数や属性を見て、仮説検証を回すっていうのはやるわけですよ。

IoTを活用すれば、リアルな世界でもできるように敷居が下がってきているので、どんどん仮説検証を回していくっていうことをやられるといいと思います。

東京都のDXはホームページから始まった


東京都の副知事の宮坂さんという、元Yahoo!のトップの方がいらっしゃって、数年前に対談させていただいたんですよ。同じような話をしたときに宮坂さんも同じこと言ってて。

東京都の職員には「まずホームページだ」って言ってる。行政って、使いやすそうかとは正直あんまり考えてなかったと。ここのページにありますよっていう感じに、あるっていうことだけで、実際に使われてるかどうか見なかったけれども、本当は都民に、それを見て、活用してもらってなんぼの世界なわけですね。そのためにホームページを改善しだしたら面白いと。そこから東京都のDXはスタートしてますってお話をされてたんです。

まさに同じだと思うんですね。

上田:なるほど。ありがとうございます。

まだまだ、いろいろお伺いしたいんですけども、今日はお時間もありますので、ここまでにさせていただきたいと思います。では最後に、及川さん、ありがとうございました!

及川氏:どうもありがとうございました。


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