見出し画像

「 作り手と使い手の橋渡し。必要な人の必要なものを届ける『わたしたちのご自愛図鑑 vol.3 - 鈴木萌 - 』 」

わたしたちは、対話を通じて「ご自愛」を探求するイベントである「ご自愛カフェ」を開催しています。
そして、参加していただいたみなさまと一緒に「ダイニング」というコミュニティを作り、育てています。
「わたしたちのご自愛図鑑」では、ダイニングに参加するメンバーの方々をご紹介していきます。職業も生き方も人それぞれ。ご自愛も人それぞれ。
さまざまなご自愛の形を、どうぞご覧ください!

地域にあるものを伝える場として始まったカフェ「いな暮らし」

−− まずは自己紹介をお願いします。

もえ:東京の稲城(いなぎ)市にある「いな暮らし」というカフェの店長をしています。
母がお店を立ち上げて、ごはん作りと店内のコーディネイトを担当し、わたしは店長としてスイーツやドリンク作り、SNSの発信やイベントの企画をしています。
2020年9月半ば頃からは「羅針盤ブックス」として、本の仕入れや販売も始めました。

画像1

−− いな暮らしはどのような経緯で始めたんですか?

もえ:わたしが大学生の時に東日本大震災があって、ああいう大きな出来事が起こったことで、ご近所同士のつながりが希薄だと気づいたの。
自分たちにもできることはないか考えて、電車が止まっていることに気づかず駅に向かっている人のために、「電車は止まっています」と黒板に書いて外に出してみたり。
そういう小さな活動から始めて、地元の人とのつながりや交流を生み出したいという思いから、地域にあるものを伝えていく場として、母が実家のガレージを使って「ガレージいな暮らし」をオープンさせました。
週末にガレージにテーブルを置いて、地元の無農薬のみかん農家さんとか、当時あった天然酵母のパン屋さんのパンを並べて販売したのが始まりです。

当時わたしは大学生で、その頃有志の学生でカフェを立ち上げる話に誘ってもらったんだ。先輩が発起人となって、いろんな学部の学生で学生と地域の人をつなげるカフェを作ろうというプロジェクト。自分が授業や進路に悩んで学校に行くことがしんどかった時に、地域にあるコーヒー屋さんや美容院やギャラリーなどのお店に行くことで救われていたから、大学の中と外をつなげるというコンセプトにすごく共感して。
わたしはごはんを作って人を招くことが大好きだったから、メニュー班のリーダーをすることになってね。その時に初めてコーヒー屋さんに豆を仕入れに行ったり、ちゃんと分量を計ってメニューを考えたりし始めたの。
「ガレージいな暮らし」は1年くらい活動した後におやすみしていたのだけれど、ご近所のパン屋さんがお店を閉めることになって、その場所を借りて「いな暮らし」を再開することになりました。

カフェをすることで、自分自身が元気になっていった

−− −− 最初からカフェをやろうと思っていたんですか?

もえ:カフェをやろうと思っていたわけではなくて、全部流れだったかな。
大学では看護の勉強をしていたのだけれど、それは助産師に憧れていたからなの。助産師という仕事は、子どもや人と関わる仕事だし、日本国内だけじゃなく海外でも仕事ができるし、手一つで仕事をしているかっこよさも感じた。人のケアに関わりつつも、食や環境のことにも触れたり、場作りをしたり。自分が興味のあることが凝縮していると思ったんだよね。

画像7

助産師への憧れから大学は看護の道へ進んだのだけど、学校に入ったら西洋医学を暗記する勉強が9割で、もともと勉強したかったことと違っていて…。
ハーブやアロマの力を借りたり、食事の面でサポートしたり、手で触れて感じてみて体に必要なアドバイスをしたり…。わたしは、そういう助産師の魔女っぽいところがおもしろいと感じていたの。だから、西洋医学を勉強することは助産師になるための過程だと頭ではわかっているんだけど、その時の自分の興味ではない学びの方が多かったから頭に入ってこなくて。本当にこれがやりたかったのかがわからなくなっちゃって、逃げるようにいろんな分野に顔を突っ込んでいたな。
進路を決めるタイミングで、病院で働くことに対するモヤモヤからとうとう体にガタがきちゃって、休学を決めました。顔面神経麻痺になってしまって、療養のために実家に帰って鍼や薬で治療しつつ、国家試験のために勉強しながらお店を手伝い始めたんだ。
そしたら、お客さんと接することやお菓子を作って提供することが楽しくて自分自身が元気になってきて、大学院をやめて本格的にいな暮らしに参加することにしました。

画像3

−− 「羅針盤ブックス」はどんな思いで始めたんですか?

もえ:作り手と使い手をつなぐことや、必要な人に必要なものを届ける役目がお店にはあると思っていてね。それはカフェも本屋も変わらなくて、異なる分野との出会いの入り口を作りたいという思いがあるんです。羅針盤ブックスで扱う本を選ぶときにも、写真集や絵本や読み物やエッセイなど、いろいろなジャンルの本を並べるように意識しているよ。
異分野のものと出会うことで違う視点が入ってきて、自分の思考がマッサージされるみたいに柔らかくなってアイディアがひらめいたり、生きやすくなることがあると思っていて。相手が今ほしいものや、必要としているものをすっと差し出せることにとてもよろこびを感じるの。

余白があるから、波に乗れる

−− 萌さんにとってのご自愛は、どんなことですか?

もえ:自分の感情のままに動くこと」かな。行きたいと思った場所に行って、会いたいと思った人に会って、食べたいと思ったものを作って食べる。例えば、コーヒーを飲みたいと思って準備したけど、「やっぱりミルクティーかも」と思ったらそこで無理にコーヒーを飲まずにミルクティーを入れたり。感情に素直に行動することを毎日積み重ねている気がするの。
人と会う約束をするときにも、仕事の忙しさによっては夜に外出するエネルギーが残っていない時もあるから、「もし行けないと思ったらすぐに連絡するね」って伝えているの。自分に嘘をつくより、正直に言う方がいいと思っているし、それがお互いにとっていいことになるといいなって。

画像4

−− その時その時に湧き上がるものを大切にしたいと思いつつ、人と関わる上では難しい場面もありそうです。どうしたらお互いがよくなると思いますか?

もえ:「自分はこう思うから」とがんじがらめにするとキツくなっちゃうかも。関係がギスギスしたら意味がないと思うし。そうじゃなくて「波に乗る」ということを大事にしたらいいんじゃないかな。
例えば待ち合わせの相手にドタキャンされた時に、イライラするんじゃなくて「そうきましたか」と受け止めて、「では何をしようかな?」と考えたり。
わたしは予定も感情も人もコロコロと変わることを大前提としているんだよね。

−− 常にちょっと余白があるイメージでしょうか。なぜ変わることを前提とするようになったんですか?

もえ:母や大学時代の友達の影響があるのかも。元々私はスケジュール帳をびっしりと埋めることが楽しかったタイプで。
でも、母やその友達は体調に波があって、先々の予定を立てて約束をすることが難しい。そういう姿を見てきて、決めないおもしろさもあると教わったし、自分も楽になった部分があって。今では、予測できないことが体にも感情にもあると感じながら生きているかな。
その人がその時にしたいことをしてほしいし、お互いにそれを許し合える関係だと楽だなって思う。「わがままになろう」ということではなくて、急に何かをしたくなる時とか、1人でいたくなる日は誰にでもあると思うから。会いたい時に会うのが1番いいんじゃないかな。

画像6

−− ダイニングがどんな場になったらうれしいですか?

もえ:来たい時に来て、来たくない時に自分が行かなくても存在している場所だといいなって思ってる。以前シェアハウスに住んでいた時があって、シェアハウスではリビングで一緒にごはんを食べてもいいし食べなくてもいい。1人になりたい時は部屋に行くけど人といたい時はリビングに行けば誰かがいる。そんなイメージかな。

ー 近すぎず遠すぎず、ほどよい距離感があるのかもしれませんね。「ご自愛」を広めるにはどうしたらいいと思いますか?

もえ:ご自愛には人それぞれのイメージがあると思うんだよね。だから、ダイニングにいるメンバーが日常的にご自愛しながら生きている姿を周りの人に見せるのがいいんじゃないかな。ご自愛しながら生きている姿に触れることでホッとしたり、ゆるし合える関係性がゆっくり育っていくんだと思う。大きく発信するより、一人一人からじわじわと広がっていくのかなって。まずは自分からご自愛してみること、かな。

言葉も体も。持って生まれたものを生かす

−− 萌さんがこれからやってみたいことはありますか?

もえ:わたしはお店を通して人と話したり、自分で文章を書いて気持ちを整理したり、言葉の世界が好きなんだよね。でも今興味があるのは、ダンスや写真や絵とか、言葉によらないものを通してコミュニケーションをとったり表現すること。言葉にできないものを言葉にできないままにしておくのもいいなと思っていて。
もともとチアや新体操をしていたから踊ることは好きだし、体を通して表現することにはずっと興味があって。頭と手先は毎日使っているんだけど、もっと体の機能を活かして、持って生まれた体を動かしたいな。

画像7

あとは、以前自分の結婚式を手づくりした時の経験が印象的だったな。準備は大変だったけれど、その時の全ての人脈を使ってその場を作り上げることがすごく楽しかった。人の得意なことを存分に発揮してもらえる場をつくって、そこでコラボレーションを見るのが好きなんだと気づいたよ。
稲城長沼駅の高架下施設「くらすクラス」でマルシェを企画した時も、そこに集まる人たちを想像しながら、一人一人の作家さんに依頼したりして。大変なんだけど、そういうプランナーみたいなことが好きなんだと思う。

−− 最後に、何かメッセージをお願いします。

もえ:自分だけではケアできないことがあるし、人に手伝ってもらって体や心を整えていくのもオッケーなんだよって伝えていきたい。
セルフケアは大事なんだけど、それができない時は頼るところがたくさんあるんだよって。
音楽を聴いたり映画を見たり、何でもいいいんだけど、自分の真ん中に戻ってこられるものが一個でもあるといいと思います。

ー 萌さんとお話していると、ゆったりと呼吸できる感じがするんです。それがどうしてなのか、今回のお話を聞いてわかった感じがします。ありがとうございました!

画像5


■こちらもぜひご覧ください!
▽わたしたちのご自愛図鑑 vol.1 - 天野 光太郎 -

▽わたしたちのご自愛図鑑 vol.3 - よだ えりこ -




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?