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紙魚的日常

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毎週日曜日更新。文庫2頁程度の創作恋愛物語です。当て馬も嫉妬もありません。心穏やかなパートナーとの日常を描きます。
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記事一覧

「さくら道」

桜が咲くことが幸せなことではないのです。 また春が来たねと言い合えることこそが幸せなので…

紙魚
2年前
2

『宝石』

 友人に恋人ができたらしい。  友人は「好き」を多用する人間だ。彼女にとって、この二文字…

紙魚
2年前
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「イヤホン」

イヤホンを落とした。 駅のホームで。 線路の上に。 駅員を呼んで探してもらうも見つからず。 …

紙魚
2年前
2

「準備」

 俺は起きてからずっとベッドに腰掛けて彼女を見ている。彼女は起きてからずっと、姿見の前で…

紙魚
2年前
1

「ホットケーキ」

 23時就寝、6時30分起床。身支度を整える間に湯を沸かす。紅茶に砂糖を入れる。スプーンに山…

紙魚
2年前
1

「雨の日」

 雨は私を薄暗い不自由な世界に閉じ込める。  頭が痛い。体が重い。瞼も重い。とはいえ仕事…

紙魚
2年前

「歯ブラシ」

 「歯ブラシが並んでいるとうれしくなる」  彼がなんとなしにつぶやいた。そういうのでいい。そういうのがいい。  秘密基地が少しずつ侵略されていく心地よさ。あったものが二倍になったり半分になったりして、なかったものが増えていく。洗面台には歯ブラシが二本並んで、本棚には同じ本が二冊ある。ベッドは狭くなって、寝返りが打てない。その窮屈さを愛おしいとさえ思う。食べなかったお菓子を食べるようになって、甘いもののすばらしさを知った私はもう、元には戻れない。彼が持ち込んだ様々なものが私の生