人生を慈しむ、月組「DEATH TAKES A HOLIDAY」

配信の感想にBlu-rayでの感想を追記します。
何度観ても素敵です。あああーーこんないいお芝居、劇場で観たかったようーー。と中止になってしまった当時の無念を思い出す。

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戦争、疫病、大事故等々、失われる命の多さに疲れ果てた死神は、生まれて(?)はじめて仕事を放棄しようと考える。そこで、たまたま目を付けたランペルディ公爵家に無理やり乱入し、人間:ニコライ・サーキとして二日間の休日を過ごす…

月城かなとさんの「死神」は飄々としてチャーミング。最初はこどものようにはしゃぎながらまず感覚を知り、桃歌雪さんのお色気にあてられて情動を知り、周囲の人々から心を学ぶにつれて次第に大人びていく、人としての変化が楽しい。でもあの大きな瞳が時折、底なし沼のような闇をたたえて「死」の存在を知らしめるのも恐ろしく、上手いなと思いました。

それに対抗して非力ながらも必死(文字通り)に家族を守ろうとする、風間柚乃さんの公爵と佳城葵さんのフィデレが、弱さと強さを併せ持つ人間らしさを表現していてとても良かった。風間さん素は可愛らしいのにちゃんと父親で凄い。声もいい。

海乃美月さんのグラツィアは、どこかフワフワと地に足がついていない「間」にいる感じがよく出ていたと思う。そしていよいよ境界を越えた月城さんとの最後の場面では、セットと衣装と有り様が完璧で、幕が降りてしまうのが惜しいほど美しかった。

また舞台上の役者さんひとりひとりが、それぞれに違う役割と年代での「生きる喜び」と「喪う悲しみ」を大事に慈しんでいる様子に、どこか演技を越えたものを感じて胸にきました。老カップルを演じた英真なおきさんと彩みちるさん(英真さんに負けてない!)が歌う、人生の黄昏を祝福する歌ではめちゃくちゃ泣きました。人生悩ましいことばかりで何ひとつ思いどおりにならないけれど、それでもお日様は温かい。

辛いときにはいっとき目を逸らして、お日様のいる空を見上げよう。

でもこのお話、心温まりクスリと笑えるけれど、決してコメディではないんだな、とBlu-rayを観返して思いました。

ーーーーーー(以下ネタバレ)ーーーーーーー



劇中でサーキは、人がいつ死ぬかを定めるのは自分ではない、と言っています。つまり上位の存在の定めに従って、生命を別の次元へと運ぶだけの役であって、彼は神ではない。サーキの正体は日本語訳では「死神」となっているけれど、原題では「DEATH」そのもの。サーキの休暇の間に死者はひとりも出なかったけれどそれは、定めを逃れたわけではなくて、あくまでも保留されていただけなんですよね。

ということはグラツィアって。
サーキの休暇が終わりに近づくとともに、季節外れに咲き誇っていた花は枯れ、蓮つかささんのコラードが当初「フェンダーがへこんだだけ」と言っていた車も「死んで」しまいます。
死の意味を知り苦悩するサーキのもとに、家族に見守られていたはずのグラツィアが浮世離れした白いドレスで登場するのは、そういうことなのか。

グラツィアは最初からサーキと自分の関係に気づいていて、彼を恐れず(恐れる必要がもはやない)愛して共にいることを選びます。つまり彼女は、サーキの休暇の終焉とともに「DEATH」と同化し、と同時に超越する存在、すなわち「DEATH」が常に触れてみたいと切望していた「新しい生命」になったのかもしれない。
そして彼女によって望みを叶えた「DEATH」は、死とともに再生をも司る神的存在にレベルアップしたのかな、と、あの美しい白サーキをみて思いました。

グラツィアはサーキと共にいることを選んだために、両親や友人たちとは離れ離れになってしまいます。けれどもいつか、彼らを迎える立場として必ず再会するんだなと思うと、じわりと目頭が熱くなりました。
ご両親が彼女と再会した時に、傍らにいるのがあの白サーキだったら、ご両親も安心できるかも。

ところで、配信の時から「あれ?」となってたんですが…

不思議だったんですよね、最初に衝突事故を起こした車(SNSで「歌ウマしか乗れない車」と評されていたのが素敵)に乗り合わせていた人々が全員、無傷だったこと。
衝突事故そのものがたいしたことなかったのかと思っていたけれど、劇中の台詞では「時速100キロで走っていて木に激突した」となっている。だったら他の人たちも無事だったはずがない。
車も無事ではなかったし。

フィデレも中盤、落雷に遭う。比喩的な表現かと思っていましたがよく観ると苦しそうにしていて、本当に雷に撃たれたんだとわかります。それから夢奈瑠音さんのエリックも、操縦していた飛行機が墜落している。
そもそも最初に「死神」の手にうっかり触れてしまった公爵が、花瓶のバラと同じ状態にならなかったのは…?



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