同期愛が名芝居を生む「CAST #9 ~海乃美月 Side-A~」

"スターがバラエティに富んだお題に挑戦する!“タカラヅカスカイステージチャンネルのオリジナル番組「CAST」。基本的にはスターの素のお人柄を愛でる番組なのですが、出演するスターとゲストとお題の掛け合わせによっては、あっと驚く「神回」が生まれることもある。先日オンデマンドで観た月組トップ娘役・海乃美月さんの回がまさにそれでした。

      ※ ※ ※

「CAST#9 ~海乃美月 Side-A~(未公開映像付き)」は海乃さんを中心に、同期の男役である朝霧真さん、蓮つかささん、佳城葵さんをゲストに迎え、即興芝居を繰り広げるという趣向。

… なんなんですかこの人たちは一体。
「劇団つきかげ」のメンバーか何かですか?
息をするように演技をしているぞ?

お揃いのパーカーを着た仲良し女子4人組が、演技のスイッチが入った途端に豹変する。
そんなのは舞台人なら当たり前なのかもしれませんが、タカラジェンヌの場合まず性別から超えてきてるのが、近ごろは見慣れちゃって不思議に思わなくなってたけれど、やはりとんでもない驚異なのだなと再認識させられました。男役はもちろん、娘役も単なる「女性」ではないので。

しかも即興。
与えられた「お題」に最初は素直に従っていた4人が、興が乗ってくるにつれてどんどんアイデアを出し合って設定を変え、芝居に深みを加えていく様子がダイナミック。これが「芝居の月組」か!と唸ってしまいました。
4人の演技がそれぞれ個性的なので、その違いを比べたくて何度も観返してしまう。他者の演技を見守るワイプの反応も面白く、全員のを確認したくてリモコンのリピートボタンを押す指を止められなくなる。もはや神回を超えた沼回、それも底なしの沼回と申せましょう。

そして繰り返し観ているうちに腑に落ちたのが、海乃美月さんの実力の凄さでした。

芝居を仕掛けて進めていくのは男役ですが、即興なので、芝居の方向性は海乃さんの「受け」の演技で決まります。たとえばバーで男役が海乃さんをナンパする設定ならば、海乃さんが喜ぶか、嫌がるか、受け流すかで男役のその後の芝居が変わっていきます。
そんな局面で、海乃さんはいかなる時も迷いなく「最適解」を叩き出す。
月組の屋台骨を支え、変幻自在なお芝居を成り立たせているのは海乃さんの力なのだ、とつくづく実感いたしました。海乃美月、恐ろしい子。

あと、月組界隈をSNSで検索していると遭遇する、「佳城の女」というパワーワードの語源がこの番組だったこともわかり、その内容に納得しました。


以下、具体的なお芝居の感想をネタバレ(バラエティでネタバレって何だ?でもそうとしか言えない)で書きます。長くなるのでもしご興味があれば。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

どのお芝居も甲乙つけがたいのですが、3つに絞ります。

1.海乃美月と佳城葵の二人芝居

ゲームに夢中でかまってくれない彼女に拗ねる彼氏、という設定で、彼氏を演じる佳城さんのセンスが爆発。

しびれを切らして、いきなり距離を詰めコントローラーを奪い取る。そして奪い返されないように彼女の手を握ってしまう。この一連の動作だけでも、おそらく観ている人全員が胸キュン(彼女を演じた海乃さんもそうだったらしい)と思いますが、続けて「(ごはんに)行こうや」と誘い、「どこに?」と問われて返す答えが「牛丼」。
この一言でふたりの親密度がわかる。
一瞬で世界観を確立する芝居力に驚嘆しました。

しかしもっと凄いと思ったのが、この後の海乃さんの返事「いいよ」です。
許可を含んだ「いいよ」。
二人の関係性が対等、もしくは彼女に主導権があるということが、この「いいよ」でわかリます。
佳城さんと互角の勝負だと思いました。

芝居を見守る残りふたりの反応にも、それぞれ個性が見えて面白い。カップルの熱愛ぶりを朝霧さんが優しく微笑みながら、でも冷静に観察しているのに対して、蓮さんは直視できずパーテーションに埋まっていくのが可愛らしい。

2.蓮つかさと海乃美月の二人芝居 …のはずが

バーでヤケ酒をあおる男性(蓮さん)が、隣にきた好みの女性(海乃さん)を口説く、という設定。

他の芝居では爽やか青年だった蓮さんが、ここではぐっと大人な「なかなかのイケメン」に変貌。ため息混じりにグラスを傾ける仕草でシックなバーの雰囲気を醸し出す。スマートな装いでウィスキーのロックを飲んでいる様子が想像できます。
そして、隣の海乃さんをさりげなく値踏みする目つきと第一声「こんばんは」の声色に、酔いに乗じた下心と「いける」という慢心が透けて見える。素メイクを施したお顔は綺麗な女性の造形なのに、どこからどうみても男性でしかない。これぞ男役の真骨頂だなと思いました。
対する海乃さんも、落ち着きはらって「ナンパされ慣れてるオーラ」「男を手玉にとり慣れてるオーラ」を発揮。一筋縄では行きそうにないと蓮さんの目に本気が宿ったその時、

佳城さんが乱入。
顎をツンとあげてさらりとカウンターに肘をつく仕草から、非常に女っぷりのいい女性らしいとだけは見て取れますが、他の設定と乱入の目的はわからない。(たぶんご本人も明確には決めていないと思われる。)

ここで凄いのがやはり海乃さんの反応です。ひるんだ蓮さんが様子見した一瞬をとらえて「ひさしぶりぃ!」と歓声を上げます。
すかさず佳城さんが「美月の悪い女友だち」設定を展開、それを見定めた朝霧さんも「美月の悪い女友だちの悪い女友だち」に扮して芝居を仕上げにかかる。
かくして「大人の恋愛ゲーム」になるはずだった芝居が「悪さをしようとしたらもっと悪い女たちに引っかかり翻弄される男」のコメディへと見事に変貌したのでした。
皆さんの反射神経、とくに海乃さんの感性と芝居を引っ張る度胸が半端ないなと思いました。


3.海乃美月のひとり芝居 …のはずが

自撮りしたいが他人の目が気になってできない、という設定で、海乃さんが「宝塚をひとりで観に来た女子」を演じる。
公演ポスターを背景に自撮りしようと試みるも、近くに立っている男性(蓮さん)の目が気になって躊躇する。蓮さんが気をつかって離れようとするのでより気まずくなってしまう。

そこへ佳城さんが登場。
パーカのフードを目深にかぶって背中を丸め、両手をポケットにつっこみ落ち着きのない様子で蓮さんの元へ。そして海乃さんを見て盛大にキョドる。
いる!こういう男子!上手い!

追って朝霧さんも登場。
朝霧さんはシャイで控えめなお人柄なのか、いつも出番が最後になって嘆くのですが、実は誰よりも冷静に成り行きを観察していて、最後に芝居を締める役割を自ら買って出ているようにも見えます。
そんな朝霧さんのキャラクターは「空気を読まない好青年」。
彼が海乃さんを「本物の海乃美月」と決めつけたことから始まるドタバタ喜劇が抱腹絶倒で、海乃さんが自分のスマホでキョドり男子とのツーショットを撮らされる展開は、本当に即興なの?と疑ってしまうほど見事でした。

ーーーーーーーーーーーーー

この回の、何度でもいつまででも観たくなる面白さは、同期の4人が心を許しあい互いに切磋琢磨してきた関係性があってこそ生まれたものではないかと感じます。
朝霧さんは「応天の門」で既に退団され、蓮さんも「フリューゲル」で退団。こうした映像はもう新たには観られないのだと思うととても残念です。
オンデマンドさん配信止めないでください〜~金なら払う〜〜

しかしまだ月組には海乃さんと佳城さんがいる。
(自分は佳城さんや宙組の真白悠希さんのような、曲者感のある役者さんが大好きです。)
これからの舞台も心して拝見しようと決めました。
















この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?