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帰り道にて

「またね」君は優しく手を振っていた。お別れする時は必ず「またね」と言う。すごく可愛かった。
また会える。毎日を頑張るには十分な理由だ。大好きな君と帰る道はどんな時間よりも大切だった。ずっと続くと思ってた。
 愛情表現が苦手な君は学校では目しか合わせないし、話そうともしない。 LINEも素っ気ないし淡々としている。たまに不安になる。
だけど、2人で帰る時はくっついてきて、手だって繋げる。誕生日の時にくれた手紙には想いが綴られていた。普段の君からは想像できないほどだった。 だからこそ、このままでいいと思っていた。
  でも理想と現実は違うみたいで。 最近の君は学校では目も合わないし、前より話そうともしない。だけど、背が高いあいつには話しかけに行ってる。さりげないスキンシップだってしてしまう。LINEだって早かった既読も1日経ってからつく。

 僕の片思いみたいだった。お互いに向かっていたはずの気持ちが気づいたら一方だけ。

  好意が自分から別の人へ向かうこの瞬間を感じ取るほど辛いことは無いだろう。
君との帰り道が辛くなっていた自分に気づいた。まだ君のことは好きだけど、もう続かないと思う。楽しそうじゃない君を見るのは僕ももうしんどかった。

12月も終わる頃、いつもと同じような夕方の帰り道
「僕のこと、もう好きじゃないでしょ?」
聞けるはずがない。何度も心の中にしまう。自然と顔は重くなる。でも君には気づかれるらしい。  
すると、全てを察した様な目をした君は言った。     「もう別れよう」
君から振ってくれて正直ほっとした。このままだと僕は振れない。君を嫌いになることは出来ない。  受け入れたくはないけど、受け入れないといけない。
「今までありがとね、大好きだったよ」  
 
その後、2人で思い出話をした。君が僕と心から笑っているのはいつぶりだろうか。嬉しくなって
悲しくなった。

気がついたら日は落ちて、辺りは真っ暗になっていた。そろそろ帰らないといけない。
「もうこれが最後かな」
それぞれ別れる道で僕は尋ねた。言葉にすることで少しでも気持ちを楽にしたかったんだと思う。
「そうだね、最後だね」
分かっていた。でもどうしても好きで、また帰れると信じて僕は「またね」と手を振った。

いつも君が言う言葉だ。また会える。そんな思いをこめた。  
君は最後になんて言うんだろう。
今までの思いを噛みしめながら君の方を向く。

「ばいばい」君は優しく手を振っていた。

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