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広域課題発見インタビューの概要

新規事業のアーリーアダプターの獲得を目指す活動の一環として簡単な企画書を書く機会があったのでありますが、その際に「広域課題発見インタビュー」というものに触れる機会があり、大変おもしろかったので簡単に紹介したいと思います。


「広域課題発見インタビュー」はだいたい以下の目的で行われるのであります。

インタビューの目的

  • インタビューを習慣化したい/インタビュースキルを上げたい

  • 顧客以上に顧客を理解したい

  • 課題・解決の局所最大化を避けたい

  • 課題が存在する文脈を広く捉え理解し、視野を広げたい

  • 理想とするアーリーアダプターの痕跡をみつけたい

広域課題発見とは

「広域課題発見」とは、書籍『Running Lean 第3版』(2023年7月5日発売, 著者: Ash Maurya, 翻訳: 角 征典)の第8章「顧客以上に課題を理解する」で取り上げられているアプローチの名称であります。

この書籍では、このワードの具体的な定義は明示されていませんが、以下のような言葉と共に述べられております。

セオドア・レビットの言葉を引用して:

”人々は1/4インチ径のドリルビットが欲しいわけではない。1/4インチの穴が欲しいのだ。”

Running Lean 第3版8章 顧客以上に課題を理解する より

このアプローチは、現在取り組んでいる狭い範囲(例:ドリルの性能)から一歩引いて、全体の文脈や背景を理解することを目的としているのであります。より広い文脈を把握した他社が提供する「1/4インチの穴を取り付けられるアタッチメント」に敗れないようにするためのアプローチという訳ですな。

このアプローチを取るにあたって、どのような意識で取り組んだら良いかの記述が以下であります。

より良い(x)を作らずに、より良い(xのユーザー)を作る。ソリューションを改善するよりも、顧客をより良くすることにフォーカスしましょう。
それが製品のコンテキストを超える方法です。製品の直近の機能や利点よりも顧客の望ましいアウトカムにフォーカスしましょう。
もちろん視野を開ける広げることで、自分たちでは使えないほどの大量のジョブが見つかる可能性があります。
あなたはどこにフォーカスしたいですか? ほとんどの起業家は、自社の製品のコンテクストにとらわれていて、タスクや機能以外の事は考えていません。それは間違いです。

『Running Lean 第3版』8章 顧客以上に課題を理解する より

つまり「広域課題発見」とは、解決方法を通して課題を見るのではなく、現状の解決方法から一旦離れて「課題と課題が存在する文脈」だけを見て理解し発見し、そこから顧客の望んでいる結果を導きだそうということですな。

広域課題発見インタビューとは

「広域課題発見インタビュー」とは、広域課題発見を目的に設計したインタビューでして、ジョブ理論(*)等を用いて事実を元に課題の因果関係を明らかにするアプローチであります。

※ジョブ理論: イノベーションを再現性のあるものにすることを目的に考えられた理論で、顧客の行動における因果関係のメカニズムを理解するためのツール (参考: 書籍『ジョブ理論』(著者: クレイトン・M・クリステンセン、翻訳: 依田光江))

ターゲット(インタビュー対象)について

最初の広域課題発見インタビューのとっかかりは、課題の現在の解決方法の購入のイベント、リーンキャンバスでいうところの代替品の購入イベントですな。

インタビュー対象の種類として考えられるのは、次の2つ。

① 代替品の購入(あるいは購入しなかったこと)を体験として語れる人
② 体験として語れない人

この2つは、顧客セグメントを明確に分け、
①には、通常通りのインタビューを行い
②には、今業務で使っているツールと過去同様の業務で使用していたものと比較してもらい、現状採用するとしたらという仮想の’”選択のプロセス”を調べて、①のインタビュー相手を探すアドバイスをもらい終了する。

方法の概要

広域に課題を発見するというと、業界、属性、規模含めできるだけ幅広いジャンルにインタビューを行いたくなるのでありますが、課題をとりまく状況というのは千差万別でありまして状況に応じて因果関係や法則性が変わることが考えられるのであります。
そのため、意味のあるインタビューとその分析を積み重ねていくためには、ある程度似た様な答えが返ってきそうなターゲットを絞ってインタビューを行い、相手の答えが予測できるようになって、徐々にターゲットの範囲を遷移させるというのが一般的なアプローチかと考えております。

流れとしては、

  1. ターゲットを絞り込む

  2. ジョブ理論に基づいた台本でインタビューを行う

  3. インタビュー終了後、物語を時系列にまとめ、顧客セグメントの分類を行う

  4. インタビューを繰り返す/インタビュー相手が語る物語の種類が少ない場合や多い場合はインタビューの計画を見直す

  5. 終了条件に照らす

  6. 次のインタビュー計画に移る

インタビューアーの準備・マインドセット等

  • 会話の目的は課題の検証ではなく"発見"、ピッチをしてはいけない

  • 話すよりも聞く、口を動かしている時は注意しましょう

  • 相手の言葉を促す、フレーズをあらかじめ用意しておきましょう

  • 事実にフォーカスする(未来や仮定ではなく)

  • 「課題」という言葉を使わない

  • 代替品をどのように使用しているのか、その中での摩擦点(苦労、不安、回避策)や理想と現実のギャップを見つける

  • 興味を持って深掘りする

  • イベントのタイムラインを再構築する
    既存の代替品を選択または購入したイベントを起点に構築し、そこから時系列を遡り、トリガーイベントを明らかにする。最後に、時系列から現在まで順番にたどり、既存の代替品の使い方を探索する

まとめ

解決策や課題を局所最大化しないための方法として「広域課題発見インタビュー」は良い方法ではないでしょうか。また、事業をピボットするにしても、目の前の課題に集中しているだけではなかなか新たな案が生まれづらいことも考えられます、そうなる前の準備として今回の様なアプローチが使えるのではないでしょうか。

参考書籍


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