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【一幅のペナント物語#41】誘われて次郎長ワールド

◉この強烈なインパクトを放つ一幅を見つけた時は、正直ワクワクが止まらなかった。「日本平/三保松原/清水港/久能山/登呂」の地名を見る限りは、あきらかに静岡県の名所ペナントなのだけれど、そこに添えられている図案は、堂々とそびえる富士山を背にして進む三度笠をかぶった股旅衆。その笠に書かれている「次郎長」「大政」「小政」の文字。どう見てもこれはあの"清水次郎長"関係である。

次郎長の目鼻立ちや松の葉や幹の質感など、実に細やかに描き込まれていて絵画のような趣き

◉地名の横にある「次郎長富士」の文字に惹かれて調べてみると、大映の映画のタイトルだった。1959年(昭和34年)の作品というから、まあ少なくともこのペナントはそれ以降のものなのだろう。時代劇といえば必殺シリーズくらいしか観ない僕にとって、清水次郎長に関しての知識は乏しく、「清水港の名物は~お茶の香りと男伊達~♪」という舟木一夫の唄の冒頭部分を知っているくらいで、どんな人物なのか、どんな生き様だったのかも良く知らないのだけど(静岡の人にこんなことを言ったら怒られそうだ)、いい機会なのでサブスクで観てみることにした。

映画『次郎長富士』オープニングより

◉1時間40分ほどの映画だが、最後まで飽きずに観ることができた。長谷川一夫を次郎長役に据え、市川雷蔵や京マチ子などかつての名優たちの共演と華やかだけれど、個人的に惹かれたのは勝新太郎演じる森の石松だ。どちらかというとコメディリリーフ的な役回りなんだけれど、しっかり殺陣シーンでも活躍していてオモロカッコイイのである。有名な「江戸っ子だってねぇ」「神田の生まれよ」の掛け合いや「あんた江戸っ子だってね、食いねぇ、寿司を食いねぇ!」のセリフは、清水次郎長のお話が元祖だったとは。

金毘羅参りの船上での石松と、船越英二扮する大工との掛け合いが最高に楽しい

◉ペナントに出てくるようなシーンは、あるにはあったものの、吉良仁吉と清水28人衆の一行が荒神山に乗り込むシーンで、肝心の次郎長の姿はそこにはないので、あくまでもペナント独自の構図ということになる。

吉良仁吉に加勢して荒神山に向かう清水28人衆の面々
もちろん三度笠に名前なんか書いてたりはしない

◉今回調べて分かったのは、清水次郎長は幕末から明治にかけて、地域の山林を開墾したり、油田開発したり、清水港の整備や定期航路の運営したり、英語塾や病院をつくったりと、凄い実業家だったということ。そりゃ地域の人に愛されるわけだ。地元にはいまだに根強いシンパの皆さんがいて、次郎長道中という名で活動をされていたり、その愛されっぷりはハンパない。

◉ペナントに誘われて、普段見ない時代劇(しかも任侠もの)を観ることになったけれど、たまにはこういうのも良いものだ。これ続編の『続次郎長富士』なんて作品もあるんだが観たくなってしまったじゃないか。それにしても、若尾文子さんのキュートさには痺れた。玉緒さんも可愛らしかった。勝さんとはこの頃にもう付き合ってたのだろうか。

吉良仁吉の妻・おきく役の若尾文子さん。いやほんとに可愛らしい。


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