首のながい黄色い猿

あらゆるものを吹き飛ばしてゆく嵐がきて
巨きな木々や動物たちまで空を舞い
村の川が氾濫して
人家を汚水で濡らしたあの夜、
祖母がぼくだけに話してくれた。

「やがて国境を壊す首のながい猿が
あらわれるだろう。
それはビルよりも巨大な、
恰幅のよい、
禍々しい目付きをした、
黄色い猿だ。
だれも信じないだろうがね。

言葉の詰まった人間の脳が大好物で、
頭を喰いちぎってすぐに捨てるから、
街は夕焼けのいろに染まってしまう。
顔のない人間があふれてしまう。

この国の東からあらわれて、
わたしたちの住む街々をことごとく壊してから、
黄昏時になったときに向きを変え、
月のひかりが波にうつって
ゆらゆらする海のむこうへ
ゆっくりとかえってゆく。
そう、あのときのようにね」

いつもやさしい祖母の顔が
あまりに真剣だったので
ぼくはそんな荒唐無稽な話でさえも
決して忘れなかった。

だから、きょうという日がきても
ぼくは驚かなかった。

ほら、祖母は正しかった。
だれも信じないから
こんなことになったんだ。
ぼくは知らないよ。

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