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『ガンダムSEED FREEDOM』から感じたセカイ系

【⚠️機動戦士ガンダムSEED FREEDOMの内容が含まれます】

 FREEDOMを鑑賞してきた。

2006年のアニメージュ表紙

半ばネタ画像の扱いを受けてしまっていた「祝映画化決定」のシャンパンキラから18年経って実現した公開だと思うと、非常に感慨深かった。

観賞し終えて思ったのは「言い切って良いのか分からないけどセカイ系っぽいな」というものだった。SEEDの頃には既にセカイ系だという声はあったようだが、私には今作が最もその色が濃いように思えたのだ。

セカイ系作品の代表例として高橋しんの『最終兵器彼女』や、新海誠の『ほしのこえ』等が有名であり、新海誠に関しては近年の人気作品にもその色がみられる。セカイ系については東浩紀らによって『波状言論』内で定義付けがなされていたり、この言葉の考案者による証言も公開されていたりする。

 しかしながら、実際の受け止められ方には広がりがありそうだ。よってここではセカイ系の定義そのものというよりは「セカイ系とされる作品の特徴」に着目することで、私がFREEDOMから感じた「セカイ系っぽさ」を検証してみたい。

セカイ系作品は次の5つの特徴をもつ。

(1)セカイ系は実存をめぐる物語である。
(2)セカイ系は、ボク-キミ関係を主軸とする。
(3)セカイ系において社会的なものは後景に退き、主人公の心理的なもの(モノローグや内面語り)が前景に立つ。
(4)セカイ系において、ボク-キミ関係はセカイの命運と関係している。
(5)ボクはキミである戦闘少女よりも弱い

https://ytakahashi0505.hatenablog.com/entry/2019/11/21/093240

FREEDOMにおける「ボク-キミ」はキラとラクスを指す。
引用部分の5項目において、FREEDOMが満たしていないのは「(3)セカイ系において社会的なものは後景に退き、主人公の心理的なもの(モノローグや内面語り)が前景に立つ。」の要素のみである。FREEDOM、ひいてはSEEDシリーズにおいて戦争・対立といったような社会的な内容は緻密に描かれるし、人物の一人語りの場面は無い。
「セカイ系」という言葉の流布の経緯として「ボクーキミが世界という壮大なものに関与していく背景が弱い」ことへの揶揄もあった。しかしFREEDOM(SEEDシリーズ)はむしろ社会的なものを問題として出発する。

(1)、(2)については説明するまでもない。(4)はあの畳み掛けるクライマックスがそうであろう。ラクスのパイロットスーツ姿にドキドキしつつ、完璧なタイミングで流れた『Meteor-ミーティア-』に歓喜した。クライマックスではキラ-ラクス以外の人物からも様々な愛が見てとれて非常に良かった。特にアグネスを受け止めたルナマリアの愛には脱帽したし、私が好きになってしまいそうだった。

さて、特筆すべきは「(5) ボクはキミである戦闘少女よりも弱い」の要素についてである。SEEDシリーズにおいて、キラが自身の弱さに苦悶する場面は我々も見守ってきた。しかし今回のFREEDOMにおいては、キラがラクスと自身を比較し、無力感に苛まれる場面が印象的であった。誰かがやらなきゃないからと機体整備に注力して帰宅が遅くなるキラと、バグみたいな量とは裏腹に非常に洗練された盛り付けのご馳走と共に待っていたラクスの描写は切なかった。そういう出来事もあった上で、あそこまでキラを追い詰める決定打となったのはオルフェだ。オルフェによって「自分から戦士であることを取った時に何が残るか」「ラクスが望むことを施してやれていない」という、平和を追求して彼女なりに戦うラクスと比較して浮き彫りになる「キミよりも弱いボク」としてのキラが描かれる。だからあの"修正"シーンは良かった(自分がZガンダム大好きなこともあり)。マリューがかけた言葉も良かった、流石である。そしてラクスは、いくらオルフェに迫られてもキラを信じ通すがあるという点で強い。

FREEDOMはセカイ系作品群に見られる特徴である「キミより弱いボク」が印象的だった。絶対的なヒーローとしてのキラではなく、ヒロインであるラクスとの相対的な関係性の中で生じる葛藤、そして愛によって掴みとる勝利・救済という展開はセカイ系的と評することに差し障りは無いのではないか。ただ、2人が世界に関与していく過程や設定の緻密さという点では従来のセカイ系とは一線を画している。よって、セカイ系においてしばしば指摘されてきた課題をクリアし、セカイ系の旨みを凝縮した作品がこのFREEDOMだというのが私の立場である。2人が海辺で迎える印象的なラストシーンも、そのように映ってくる。

この時代にSEEDシリーズの盛り上がりに立ち会えたことを嬉しく思う。ここまで読んでいただきありがとうございました。

1/30 追
バカデカお料理は当てつけだった…笑


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